第92話 我儘
無知ほど恐ろしい事は、この世には無い。
そして知識以上に武器になるものも、この世には無い。
無知な少女1人騙し、煽り、それだけで俺には手が届きそうも無い、天才を倒せる。
初代明王になった時、黒間弾が復讐を企てていた事は知っていた。
まぁ、だから引き受けたのだが。
俺の父である現明王院学園長は馬鹿な選択をした。
明王制度、これは下克上にうってつけだ。
まず何をしないといけないかわかるか?
人望だ、これは情報を持ってくる。
そして次に圧倒的情報量。
最後に、駒。
これで俺は、世界を制する。
俺が何をしたいのか、たまに理解できないという奴がいるので言っておく。
明王制度に終止符を打ち、黒間弾を幽閉する。
黒間弾に勝つ方法は、俺の父を殺し、明王制度を取り消す事だ。
そして白間瞬を殺し、黒間大三郎と共に、鳳を潰す。
最後は一撃、黒間大三郎を撃てば終わりだ。
能力を持たないこの俺が、この頭でこの世を制するのだ。
この世から能力を消す。
全てはこのためだ。
「あ?なんか言ったか?」
「ちょっと煩いわよ、声が大きい。」
睨まれ怒られ、俺たちは手がかり1つ掴めないでいた。
白間瞬。
瞬の名を付けたのはどういう意味なのだろうか、結論はそこなのだが。
「白間さんは貴方のクローンであることに間違いはなさそうね、出生記録も戸籍もないもの。」
「あぁ、…」
「納得いかない?」
「あぁ、瞬という名前が気になるんだ。」
「……やはりそこよね。」
瞬が何かの鍵になっているのか?
しかし瞬は黒間とは無関係なのだ、なら一体?
「…いえ、答えは案外安易なようね。」、
かつて俺の父と例の石動が研究していたという、跡地で一枚の紙を握って九条が呟いた。
「何か見つけたのか?」
「ええ、これ。」
そのには1人の研究員の名簿があった。
「…んんー?」
俺にはこれが、何のヒントになるのか全く理解できなかった。
「この女性、白間瞬の母親の名と同じだわ。彼女、きっと貴方の父親のスパイとして黒間のクローン実験に参加していたのね。」
そういうことか…。
「クッソ………、ヘドが出る。」
俺は施設の機材を蹴り飛ばした。
空間を切り裂くような激しい衝突音は、静寂に消える。
「えぇ……あまりにも自分勝手だわ。」
「…だが、元を辿れば俺のせいだよな…。」
「否定はできないわね、けれども私は貴方がいないとダメだわ、もちろん…瞬さんも。」
この研究員は、おそらくスパイとして大三郎の研究員として潜り込んだ。
数々出来たであろう俺のクローンの成功体である白間瞬に情が湧いたのか、彼女は白間瞬と共に逃げてしまう。
勿論記録を消すため黒間は彼女たちを追うが、逃げ切り、何とか生活が出来そうだった。
全てをこの田舎で忘れ、幸せに暮らす、その為の障害の1つにこんなものがあった。
白間瞬には、戸籍がなかった。
目を隠し、目立ちなえしなければバレることもない、人並みの人生を送れるだろう。
しかし戸籍がなければ、何も出来やしない。
だが1研究員に、戸籍を新しく作る能力などない。
だから……。
「瞬を殺し、瞬の戸籍を乗っ取って、俺と結婚させ、姓を黒間と名乗らせる。それで大三郎は白間瞬に手を出せない、というわけだ。」
「えぇ、けれど彼女の計画は貴方が大三郎を殺した事実によって大きく路線を変えてしまうのよ、黒間が表舞台から姿を消す、大三郎のシナリオが始まってしまったから。」
「俺を殺す為、成功体である白間瞬を利用しようとする、大三郎の組織に見つかるのも時間の問題である、か?」
「えぇ、そして彼女はこう考える。」
白間瞬を助けるよう、黒間弾に頼み込むのはどうだろうか、彼は明王だ、と。
「だが問題点があった、それが俺が死ぬこと…。」
「それを恐れた彼女はその策を捨て、白間瞬の覚醒により、明王院に引き入れてもらおう、なんて考える。ここまでくると切羽詰まっていたのね。」
だが、それを白間瞬に伝えることなく、彼女は存在を知られ、殺される。
そのショックで白間瞬が覚醒したのしたなら…。
「合点がいく!白髪になったのはそのせいか!」
「そのようね、でも忘れないで、白間瞬は何も知らないわ、彼女に罪はない。」
「…となると俺が今すべきことは、白間瞬を明王軍団に引き入れ、彼女の取り敢えずの安全を確保することか。」
「そうなるわね。けれどおかしいわ…。」
「どうした?」
「覚醒した彼女がここまで黒間にバレずに、身を潜めることが出来るかしら?彼女は何故…たった今まで何のアクションも起こさず、急に明王暗殺を企てたのかしら?誰かが一枚噛んでいるとしか思えない…。」
「兎に角、手がかりは掴んだ。瞬を手元に置いておいたのは正解だったな。あとは白間瞬と俺が接触できるのを待つだけだ、早い所大阪へ戻ろう。」
「そうね、」
やっぱりお前がいて良かったよ、たった一枚の紙を見ただけで、俺にはそこまでの推理は出来ないからな。
なんて褒めながら空港へ着いた時、俺たちは唖然とした。
遅かったのだ。
「…なんだよ…これ…。」
俺たちの明王院学園は、瓦礫の山になっていた。
飛行機も止まっている。
そこには、青神さんの姿もあった。
青神さんが攻撃していたのは。
「初代明王…なんでこんな所に?」
「どうやらピースは揃ったようね…手遅れだったようだけれど。」
兎に角今は、鳳や青神さんに頼るしかなかった。
青神さんは、能力を持たぬ人間の中では、おそらく最強だから。
そう言い聞かせていた俺の頭は、もはやまともに動いてはいなかった。




