第93話 決断
青神海良。
昔から、なんでも出来ないと悔しいたちだった。
その為に必死で勉強し、日本一の進学校である明王院学園に入学し、高校1年になった時、明王院制度が誕生した。
初代明王、中田大和はその時の生徒会長だった。
学園長の息子で、成績優秀だと聞いたが、運動能力は良くて上の下だったらしい。
そんな男が何故生徒会長になれたか、彼には圧倒的に人望があった。
全ての人が、奴を慕っていた。
だが、俺は奴の笑顔の胡散臭さが、嫌いだった。
あの時は俺自身も反抗期だからそう思っていただけだと思っていた。
だが、今回の事件でそうではないことが分かった。
それはさておき、俺は奴から明王の座を奪い取った。
力で、だ。
実質奴が明王だった期間は一年とない。
身体を鍛えまくり、誰にも負けない身体能力を持っていた俺は奴にこう言われたのだ。
「君の努力は素晴らしい。だが、君の努力は能力なんてくだらないもののせいで水の泡になってしまう、どうだい?僕とこないか?そうすれば君を…」
この世界の覇者にしてやる。
確かそんなことを言われただろうか。
「俺は誰かにもらう物には興味がないので。」
負けず嫌いが高じたこの性格だ、勝ち以外に興味はない。
勝負に勝つことが、圧倒的に自らのみの力で勝つのが、気持ちいいのだ。
そういったときの奴の顔の、醜さは今だに忘れられない。
そんなこんなで俺は2代目に就任し、後輩にも恵まれ、黒間が入ってきて、さあここから明王院はでかくなるぞという時期に卒業した。
後輩にはそれなりに厳しくしたが、皆俺を慕ってくれて、ビクビクしながらも付いてきてくれた。
…いや、黒間だけは、俺を追い抜く勢いだったか。
はっきり言って、その愛する後輩である三代目明王、種島公人が殺された事は、死ぬほど悔しかった。
だが、奴は俺の後輩であり、現明王である黒間の愛する先輩でもあるのだ。
処遇は奴に任せることにしようか。
ただ……大和さん、あいつの企てだけは何としても阻止しなければならない。
校舎をぶっ壊した女が相手なのだ、さらに言うとあの男自身も丸腰ではないだろう。
生身の、能力も持たない俺では歯が立たないだろうか。
いや、勝ちだけは誰にも譲りたくはない。
さぁ行こうか。
平和も、事情もクソも関係ない。
勝ちを、もぎ取りに行こう。
校舎は完全に崩壊してしまった。
「どうだい、鳳くん。君ではこの学校は守れないよ。」
言い放った直後、青神さんが初代に殴りかかる。
腕力でねじ込んだその拳は、確実に大和に撃ち込まれているが、ダメージが見えない。
「どうなってんだよ……。」
「不思議か?青神。君があの日断らなければ、君もこの力を手に入れられたと言うのに。」
「あ?力?」
「あぁ。」
そういって目を閉じ、再び開いた目には、青い眼があった。
「青眼か!?」
「あぁ、僕の身体ではこの眼が限界なようだ。」
と、頰がピッと切れて、血が吹き出たのを感じる。
慌てて飛んで防御の姿勢に入ったが、やはり当たる。
吹き飛ばされた体は瓦礫に打ち付けられ、肋の骨が折れたのを確認する。
「ぐぁっはっ!」
血を吐き出す。
さっきから見えねぇんだよ…、クソ。
弾と同じ眼を宿らせた彼女は、髪も白くなり、全身から黒いオーラを噴き出している。
「フーッ!フーッ!」
理性など全くないように見える。
勝てねぇって、こんなの。
白虎は一撃で沈んでしまっているので、頼ることさえできない。
鳳組の組長として、そう何度も……。
「弾が来るまで、負けられねぇんだよ!」
右手に力を込め、そこに渾身の炎を埋め尽くす。
今の俺では、右手を覆うこれだけが限界だが、
「不死鳥!!!!」
白間瞬の腹部に、1発ぶち込んでやった。
右手は腹部を貫通し、時間差で青い炎がブワッと大きくなり、白間瞬を焼き尽くした。
と思っていた。
炎で目が眩んでいたか、俺が倒したのは、彼女が身に纏っていたスーツの上着のようなものだけだった。
「…嘘だろ?」
不死鳥を纏う、伝説の火の鳥の力を身に宿らせるのだから、その瞬間はそれなりに身体能力が底上げされる。
「スピードで負けたのかよ!」
そう叫んでいる間にも、殴られる。
とっさに肩で守ろうとしたものの、それ外して俺の体を吹き飛ばした。
白虎は一撃顎に食らって、顎が外れている。
起きないか…。
青神さんも、ひたすら大和と殴り合いを繰り広げている。
不死鳥を止められた今…今の俺にはこれ以上の攻撃ができない。
不死鳥以上に能力を底上げする為には…。
「手を汚すことを、許せよ、兄貴。」
ここで死ぬわけにはいかないのだ。
せめて弾がこの地に辿り着くまでは。
俺は一本の注射器を取り出し、腕に打ち込んだ。
石動から隠れて受け取った、俺の切り札。
打った瞬間、体が熱くなり、震え、内から噴き出すように熱気を帯びた紫のオーラが出てきているのを感じた。
…これが奇眼か。
蝕むわけだ、身体を。
「うおおおおぉぉぉぉぉお!!!!!」
ここまでしてしまったのだ。
もう俺も、後には引けなくなってしまった。
弾の気持ちが、少し分かったような気がした。




