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第8話 鳳編 最終 運命に悩み

兄の仇うち。


それは悲願であり、ここ数年の俺の目標だった。


俺は達成することで、それらを失った。


赤眼…この眼と引き換えに。


近衛はこちらを見て、恐れている様な様子を見せていたので


「どうした…」


と尋ねると、ビクッと体を震わせた後、


「大輝様、赤眼…赤眼を開眼しておられます…。お気付きではないですか?」


と言ってきた。


鳳についての知識は必要最低限しか兄から聞いていなかったため、その時は赤眼が何かなど知る由もなかった。


「赤眼…?なんだそれは。」


俺は近衛に聞いた。


「…鳳一族にはかつて、あの黒間一族と協定を結ぶまでに至るほどの強さを持った英雄がいたのは知ってますよね?」


「あぁ、確か…鳳輝だったか?それがどうした。」


強い。強いから、最強一族とも言われる黒間を後に引かせた。


俺に必要なのも、その類の強さ、だ。


「かつて鳳輝が黒間に対抗できたのは、赤眼と呼ばれる赤い眼を持っていたからと言われています。対する黒間の英雄も青眼と呼ばれる青い眼を持っていた為、相打ちになる前にお互いに手を結んだのですが、強さはどちらも圧倒的だった…らしいです。」


体が疼く。


あの天才、兄の一輝でさえも開眼できなかった赤眼を、おれは開眼した。


鳳を空の彼方へ導けるのは、俺だけだ。


口元が緩む。


「赤眼を開眼すると、火の能力値や身体能力が格段に上がると言われています。青眼もまた同じ様なものです。とにかく、全ての能力が格段に上がり、常人では太刀打ちすることもできないとか…」


近衛は続けた。


「赤眼…最強の眼、か。ハハ、ハハハハッ!今や青眼もなければ、鳳を天下一に導くのも容易だな!」


もう、俺に敵はいない。


天下統一、世界征服。


鳳の名を舐めたやつは、まとめてぶっ潰す。


「…大輝様。」


「あ?」


急に近衛が俺の名を呼んできた。


「先ほどの大輝様の発言についてですが…青眼はまた今、存在しています。」


!!!


眼を見開いて驚いた。


おとぎ話くらいの伝説になっている眼を、同時代にしかも青眼と赤眼…。


「これも運命か…。」


不思議と心は躍っていた。


「…不確かではありますが、その…青眼を手にした男というのが、黒間一族の黒間弾という大輝様と同い年の少年だそうです。」


「…ハハッ!やっぱ面白いなぁ!」


あはははっ、と声を上げて笑った。


「じゃあ俺はその黒間弾と、お互いに一族をかけてかつての伝説の様に戦争する訳だ‼︎」


それはもう確信だった。


そしてその戦争に今度こそ俺が勝ち、鳳こそが天下一になる。


近衛はその考えを一気に引き裂いた。


「その黒間弾ですが…一族からは疎外され、命までも一族に狙われ、両親は一族に殺されています。黒間弾の妹である黒間真希も命を狙われ、迷惑を被っていると…黒間弾自身は反一族精神を持っているらしいです。」


驚いた。


青眼を持っていても、命を狙う馬鹿がいるとは…。


そしてかつての英雄の遺志を引き継ぐ子が、反一族精神を持っているとは…。


これが世の不条理というものだ、と俺は悟った。


「………。なんにせよ、俺が鳳の一族を…この組を守る為に黒間と激突するのは必然だ…。近衛、俺はお前を信じているぞ…。」


「…はい…。」


茂のことがあったから俺はそう言ったのだが、近衛は切なそうに下を向いて答えた。



そして、時間は黒間弾が一族を滅ぼしたあの日の夜までとぶ。


「坊ちゃん、黒間一族が現明王である黒間弾によって滅ぼされたというのは本当のことだそうですよ。」


近衛が俺の耳元で囁く様に言う。


近衛はあの日から、まるで俺を恐れているかの様な態度だ。


組の経営の為、色んな知識を身に付けていた俺は勿論明王のことなど知っていた。


「そうか…」


「また、黒間弾は国と、国が嫌がる我々の様な外道な人間、それ以外の存在にも武力によって殲滅するという契約を結んだ様ですよ。」


黒間一族の当主ともあろう者が。


青眼を宿す英雄の遺志を引き継ぎし子が。


国の犬に成り下がったのか。


自分も同じ様に見られてはいないだろうかと、俺は少し情けなくなり、憤りすらも覚えた。


「ははっ、面白いな、今度の黒間は。前の奴らは屁でもなかったが、こいつは俺たち一族を脅かすかもしれんな、冴香。」


嫌味だった。


近衛は…冴香はちゃんとそれを理解してくれていただろうか。


冴香はいきなり下の名で呼ばれたことに戸惑いながらも、顔を赤らめて


「どうしますか?大輝坊ちゃん、いえ、鳳大輝組長。」


と聞いてきた。


「組長はよしてくれ…」


話は続いたが、和やかなムードではなかった。


いつからだろう。


自分が目を輝かせてみていた兄は死に、あの日の様に楽しげに冴香と話すこともなくなった。


いつかあの日の様な関係に戻れたら…という願いは、鳳の名を完全なものにするという野望に呑まれた。


この時にはもう、俺も闇に呑まれていたのだろうか。

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