第77話 赤点
あれから何年が経ったろうか。
数えれば、数にすれば、案外大きな数字ではないのが妙だ。
両親を亡くして10年。
復讐を果たして、2年。
従兄弟を殺して、1年。
師を殺して、半年。
育ての親を殺し、数ヶ月。
どれ程大きくなったろうか。
10年前より、背は50センチほど伸びた。
体重は、60キロほど増えた。
出来る事は数えられぬほど増えた、が、出来なくなった事も数えられぬほど増えた。
…無くしたものは、もっと多い。
この先、俺は持っているものをほとんど手放していく。
あと五年。
もって五年。
そう言われた。
大学卒業くらいか、だが俺はこの高校を卒業した時点で明王ではなくなる。
法が、再び俺を縛る。
そうなれば、迂闊に手は出せない。
あぁ、くだらないことが頭をめぐる。
哲学者でもないのに、偏屈な事を考えてしまう。
なんて思いながら、九州の空を眺めていた。
夜空に浮かぶ星たちは、まるで俺を待っているかのように輝きを放っている。
夜風はたまらなく心地が良かった。
ふと、隣に桜庭さんがいる事に気がついた。
「…いつから居たんですか?」
「今ですよ、目を覚ますと、君が思いつめたようにそれを見つめていたから…。」
実を言うと、この別荘に来てから俺は一度も寝ていない。
毎晩、このコテージに来て空を眺めている。
「…貴方は私を救ったのです、その責任は果たしてくださいね。」
そう言って微笑む彼女は、夜空に輝く星のようだった。
帰宅してすぐに、真希を呼び出す。
「…真希。」
「ひゃい!」
可愛いなぁ、もう。
なんて思ってはいけない。
こいつのためにならない。
いつかは俺はいなくなるのだ。
「この成績はなんだ?と、担任も言っていた。俺も思う。勉強はしているのか?」
「い、一応それなりには…。」
怯えたように俺を見る。
はぁ…。
「…まぁ説教は無しだ。」
「え!」
嬉しそうに俺を見る。
百面相か、可愛い奴め。
「課題が出ているそうだな、この夏は別荘へ行く事になったし、そこでみっちりと勉強しろ」
えーー、それなら今怒られる方がマシだよ!
と、キレていたが知らん、勉強をせんお前が悪いのだ。
「お前らなぁ、俺の家は貸し出しパーティー会場じゃねぇんだぞ。」
「弾さん!お邪魔してます!!」
白虎が丁寧な挨拶をする。
おう、と手をあげる。
「いいじゃねえか!今年は楽しそうだなぁ弾!今日はパーティーして、すぐに別荘行くんだろ?」
「九条…。」
「先に言っておいた方が、貴方に面倒はかけないでしょ?」
まぁ間違いないが…。
いや別荘買ったの俺だし。
それなりの反応を楽しみにしていたのにな。
「ここにいるお前ら全員を招待する、が、代わりと言ってはなんだが、真希のやつに勉強を教えてやってくれないか?お前らの夏休みの宿題の片手間でいいから。」
大半が了解する中、バカ2人がバカな事を言っていた。
「…夏休みの宿題なんてあるのか?杉田。」
「無いぞ、阿部。あってもやらねぇよ。」
やれよ。
まぁいいや、放っておこう。
世話焼きのやつがどうせ…。
「そんな訳にはいかないからね!絶対あんたらにもさせるから!」
「そりゃねぇぜ宮村ぁ。」
…ほらな。
「鳳、冴香さんも誘っておいてくれよ。」
「それはいいんだがな、日程はどうなってる?」
「5日後に出発する、一応二泊三日の予定だが、なんせホテルでは無い。伸ばしたり縮めたりは自由だ。」
「何処に行くの?」
桜庭さんが嬉しそうにたずねてきた。
俺は彼女に笑いかけながら答えた。
「…長崎です。」




