第71話 魔眼
季節が移ろいで、年が変わり、時代が進み、星が回る。
地球というこの星で、数え切れないほど、物にすれば千切れてしまうほどの回数回っている中で、たった30000回ほど回る時、その30000回の中で必死にもがく人間が多数いる。
30000回が連なり、連続した歴史があるわけだが、先人たちが誰しも30000回を蔑ろにしなかったからこそ、今の自分たちは30000回生きられると思わなければならない。
命のバトン。
歴史のバトン。
地球のリレー。
表現が大袈裟だが、俺はそう思っている。
俺はきっと今日死ぬから、15000回ほどしか地球を回せなかったし、今闘い、踠いているガキも長くて25くらいまでしか生きられないだろう、必死にもがく天才も、鬼も、10000回ほどしか地球を回せない。
だけど、俺が回した15000回のおかげでこいつは10000回回せるし、こいつが回した10000回のおかげでこの先また数え切れないほどの回数地球が回るのだ。
じゃあ、激動の、最難の15000回目を回すとしよう。
弾。
明日からの一回を回すのは、お前だ。
俺が俺のバトンを託すのは、お前にだ。
お前はせめて、そうだな10000回でもいい、走れるならもっともっと。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。
走り切ってくれ。
お互いに血だらけで、きっとお互いにもう貧血のはず。
俺の方ももう頭が重たくて、くらくらする。
眠たい。
寒い。
まずい。
「ハァッ!!」
キィィィン!!
ビルの骨を投げてくる。
俺はピックで弾くが、まぁ当然隙が生まれる。
しかし首に噛み付かれたのは大きかったか、動きは初めと比べればだいぶ鈍い。
しかしお互いに眼は衰えていないもんだから、追撃の拳も外れる。
まずい。
本当にまずい。
このままでは頭脳戦になってしまうが、頭を打ち付けて、頭の傷で貧血になっている分、俺の方が頭が回っていない。
「……どうした弾、そんなもんか。」
「息上がってんじゃん…。」
お互いに…だが。
頭を使おうか。
刹那、ぐんと体が重たくなり、体が沈む。
膝をつき、手をつき、挙句頭もついてしまった。
俺の身体がもう追いつかないのかと思ったが。
奴の手元を見て焦る。
こちらへ手招くように肘を伸ばし、手を垂らしている。
「………加重波…。」
自分の半径約100メートル以内にあるものの重力を自在に操る。
自分だけはそのままで、他をキツくしたんだろう。
「いやせこすぎだろ。」
「…るせ!」
界が駆け寄り、俺の頭部をサッカーのように蹴り飛ばす。
重力が重く、飛びはしないが。
ただまずい。
奴は魔弾を俺のこめかみに突きつける。
さぁ、放たれれば俺の負けだ。
どうする。
どうする。
思考にまで重力がかかったかのように、重く動かない。
ただひたすらに考えるという行為は諦めなかった。
今から形勢逆転して、こいつを死にかけまで追い詰めなくてはならないのか。
ハードプレイだな。
辞めてぇ……。
「……釈迦善本!!!」
オーラを変形させ、多数の手を作る。
オーラにはどうやら、重力はかからないようだ。
界の意表をつき、まず魔弾を構えた手を強く弾く。
奴の加重波が緩み、その隙に立ち上がり奴の頬を殴りつける。
ダメージのおかげで完全に技が解けた時、逆に俺が放つ。
「加重波!!!!」
界が地にひれ伏す。
顔には焦りが出ている。
勝負というのは、流れを変えるだけで勝利も流れて来る。
あとは逃さないだけだ。
俺が奴のこめかみに魔弾を構える。
俺はここで、自分に魔眼が開眼していたことを初めて知るが、その動揺は隙を生むので気に留めないことにした。
「…チェックメイトだ。」
奴は諦めたかのように、魔眼を引き、瞼を下ろした。
「お前の敗因は、自らの技の対処法を考えていなかったことだな。」
「ちげぇよ、理由だ。戦う理由。俺はただやらされていただけなのに対して、お前は恨みも、懇願も、決意もあった。あぁ、あとは恋心か?」
そう言って奴は笑った。
「お前の勝ちだよ、弾。この様子を見ている九条ちゃんはきっと、美波ちゃんを仮死状態にしているだろう、彼女は頭がいいらしいからね、そのあたりは抜かりないだろうよ。」
キツく睨む。
理由が理由だけに、俺はこいつを打つことを躊躇いそうだから。
血涙が流れて来る。
頭ががんがんして、目が霞み、寒気がする。
「ハハッ、お前も限界みたいだな。」
俺の人差し指の先にある、紫色のバチバチと火花を散らす球を遠い目で見つめる。
「…んなこたねぇよ。」
「反抗期かよ。」
「…黙れ。」
九条からの合図があり次第、俺はこいつを撃つ。
殺す。
「なぁ弾。この計画を思いついた九条ちゃんは天才だし、その賭けに乗るお前も大物だ。
1つ約束しろ、自ら命を投げ出すな。お前が救ったのはお前を待っていたお姫様だ。俺が命を賭けたのはお前と、その姫だ。お前が死ねば姫も死ぬ。そんな親不孝なこと、死んでもするな。分かったか?」
必死に話す界の表情を見て、了解する。
いや、言われなくてもそのつもりだったのだが。
頷けば、奴は嬉しそうに微笑む。
「…ここまでおおごとにしたくらいだから、どうせならこの辺り一帯を焼け野原くらいにしてやりたかったな!」
ハハッと下品に笑う。
「…迷惑なことすんじゃねぇよ、殺すぞ。ここは俺の土地だ。人も同じだよ。こんだけボコボコにした土地も、グシャグシャに壊したビルも全部誰かが想う人のもんだ。」
「あぁ、そうだな……。あ!そうそう、お前に1つ忠告があったんだった。」
「なんだよ。」
「お前、これでも自分の問題は終わりだなんて考えてそうだから言っといてやる。白虎の話は聞いたか?」
嫌な予感がする。
鳥肌が立つ。
「あぁ、聞いたぜ。」
「じゃあ、向こうから合図があるまで、俺の知ってる情報をなるべく教えてやる。」
白虎の話に違和感はあった。
だが、白虎のことで頭がいっぱいだったから、気には止めないようにしていた。
綻びが、穴になった気がした。
「お前、悪魔と契約もしてないのに魔眼が開眼してるのはおかしいだろ?まずはそっからだ。」
あぁ。
死にたい気が、倍増してゆく。
脳裏に大三郎が浮かんだ。
まだ何も、終わっちゃいなかった。




