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第47話 居場所

こんな機会を、誰かどこかで望んでいたのかもしれない。


黒間弾の地元は、元々高級住宅地で、不良を語るものは少なかった。


少ないとはいえ、やはりいるものはいるもので、地元の不良たちは名を組んで一つの同盟を作っていた。


中学生、高校生、チーマー。


様々な年代が集まり、構成されたその同盟はなかなかの人数が集まった。


“憂国同盟”


国というのは、彼らにとっての故郷を指すのだろう。


いくら英雄といえど、彼らは黒間弾に敗れたのだ。


面子に命を賭ける彼らからすれば、面白いはずはない。


故郷を危険に晒す張本人、和を乱す異端者。


いろんなことを言ったって、きっと彼らの根底にあるのは黒間弾への恨みであったり、嫉みであるのだ。


黒間弾が記憶を無くしたことが広まりだした頃につくられたこの同盟だが、明王軍団でこれを知るものはいない。


暗雲は、いつも彼を取り巻く。











本当に酷いことをしたものだと、昼になっても反省していた。


いやきっと、一生反省するだろう。


業を背負った気持ちだ。


当たり前か。


人を殺すというのは、そういう事だ。


当然、九条さんは不思議そうな顔で僕を見ていた。


昨日まで仲良く話していた人間が、突然無視してくる。


これほど解せない事はないだろう。


実際、彼女は何もしていないわけだし。


四限の授業中、何かあるごとに、無意識に彼女を目で追ってしまう。


目に映る彼女はいつも、物憂げな表情をしていた。


こうなってくると、もはやどうして良いのか分からない。


罪の意識から彼女を避ければ、今度は彼女が笑わなくなる。


理由と、改善法を、考える。


悩む。


苛立つ。


訳がわからなくなる。


授業中ということを忘れ、今すぐ叫びだしたい気分だった。


きっと、記憶をなくす前の僕も、外的障害もあったにしろ、こんな感情から逃げたかったのだろう。


今になって、やっと記憶喪失の自分を受け入れてやれた気がした。


四限の終了を告げる鐘が鳴り、僕は逃げるように弁当を持って駆け出した。


教室に居ればいつものように、鳳くんや宝条さん、それに九条さんと食べることになるから。


走って、階段を駆け上がり、ドアを開ける。


結局、この広いようで狭い学校に逃げ場なんて、ここくらいしかない。


かつて見た夕陽は今はなく、ただ春の真昼の微かな暑さが肌を焼く。


こんなとこでご飯を食べる人なんて、変わり者としか思えない。


僕は屋上の芝生部分に座り、弁当を広げる。


朝から真希ちゃんが作ってくれた、おにぎりと、おかず。


手にとって美味しく頬張るたび、罪悪感が蘇る。


してきたことにも罪はあるけど、よく考えれば朝の件もひどいな。


反省なんて、言い訳でしかないのではないか、と思う。


いくら反省しようが、やってしまったことを無しには出来ないのだ。


そして……心の何処かで、誰かがここまで追いかけて来てくれることを期待していた。


深く言えば、九条さんなら…。


虚しい期待をしながら、栄養を摂取する。


気分が憂鬱になれば、味覚も変わるもので、普段笑いあっている時に食べているご飯とはとても同じ味とは思えなかった。


と、屋上のドアがゆっくりと開く。


出て来たのは、鳳くんだった。


「ここに居たのか…。」


僕はだんまりを貫く。


言いたいことも、言えることもなかったから。


「…いつかこうなるとは思っていたよ。どこかで黒間弾のことを聞いたか、あるいは知ったか…。」


答えない僕を気にもせず、彼は続けた。


「責めるつもりも慰めるつもりもないが、興味があるので聞いておく。お前、どの件で落ち込んでいる?」


淡々と聞いてくる。


まるで僕になど、興味がないみたいに。


いや、きっと僕が自分を悲観しているからそう見えるだけなんだろうけど。


「…ご飯、もう食べたの?」


言いたくなかった。


その感情はきっと、好きな子の名前を誰にも話したくない、なんてのと同じだった気がする。


答えてくれない鳳くんを見て、察する。


答えない限りは引いてはくれないだろうな。


「…僕が記憶をなくすきっかけになった事件、あれについての記事を見たんですが、事実ですか?」


諦めて話す。


「…どんな記事を見たかは知らんが、恐らく事実だ。もしかして、九条の親父が自分をこんな目に合わせたから、人間不信になっちゃったぁ、とかそんなんか?」


憶測で小馬鹿にしてくる鳳くんに少しいらだつ。


「…違いますよ、逆です。九条さんのお父様を僕がころした。どんな理由があったにしろ、彼女を傷つけたのは確かだ。それなのに当事者の僕は全部忘れてしまっている。そう考えると合わせる顔がありません。人殺しの兄弟など、真希ちゃんも迷惑しているだろうし…。」


最後のは、付け足しただけだ。


少しは考えた事だが、忘れろ、という言葉で割り切れない事でもない。


ただ、九条さんの件だけ、というのがなんとなく嫌だった。


「…一応、聞いても聞かんでもいいが、お前が今朝、九条を無視した時な、宝条や真希ちゃんたちは驚きの表情を浮かべながら、どこか悲しげだったぞ。まるでかつての黒間弾を見ているようで。」


かつての黒間弾を見るような目?


「…せっかく記憶を無くして、一からやり直すチャンスがあるんだ。周りを傷つけるばかりの黒間弾ではなく、和気藹々をモットーにする“良い”黒間弾で居ても良いんじゃないのか?」


「僕は…かつての黒間弾を知りません。でも…今感じているこの気持ちは、とても耐えられるものではありません。願わくば…僕は記憶を戻したい。」


そう答えると、鳳くんは


そうか、


とだけ答えて、屋上を後にした。


結局、僕は昼休みが終わっても教室に戻る事はなく、残りの授業を全てサボってしまった。


屋上で、生暖かい風を受けて、空を見上げて寝そべる。


心地いいのに、落ち着かない。


まるでこの場所も、僕に出て行けと言っているようだった。


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