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第46話 罪悪感

正直、黒間が記憶を無くしてくれた事は、ホッとしていた。


最低な事だ。


けど、想い人に恨まれるなんて、耐えられなかったかもしれないから。


全て忘れて、また一から私との思い出を築いていけたら…。


それに、一果さんはきっと、私が黒間のことを想っていることに気付いているだろう。


少し、やってやったという感情もある。


長い付き合い、というアドバンテージを彼女はなくしたのだ。


一から始める。


私にはひょっとするとメリットしかないかもしれない。


それにどういうわけか、どうやら記憶をなくした黒間は、私を少なからず慕ってくれているようだった。


勝機が見えた。


なのに…。


かつての彼の笑顔が頭をよぎり、切なさが勝ってしまった。












黒間弾。


僕の名前。


今の世代は、簡単にインターネットで調べることが出来る。


かつての僕が使っていた携帯電話は見つからなかったので、新しいのを購入した。


それも、本当のことかどうかは分からないけど。


忘れろ…。


その言葉は、僕にいろんな可能性を与えた。


思い出して欲しくない記憶でもあるのだろうか。


そう考えるのは当然だったのではないだろうか。


そうして調べたのが運の尽きだった。


いや、元々運なんて無かったのだろうけど。


黒間弾。


僕の名前。


googleを開いて、検索欄に、く、の文字を打ち込むだけで、候補が埋め尽くされる。


黒間弾


黒間弾 死


黒間弾 記憶喪失


黒間弾 英雄


黒間弾 かっこいい



死であったり、記憶喪失といったキーワードが出てきたのは、ある程度予想していた。


いや、そもそもこんなに黒間弾の候補が出てくることを予想していなかったけど。


だから、讃える言葉のついた候補が、気になった。


どこかの誰かが書いたのであろう記事が出る。




黒間弾の英雄譚まとめ


黒間弾のしてきた偉業はもはや常識となっている。


彼はもはや伝説だ。


あの日本を代表する暴力一族、黒間会の孫として生まれた黒間弾。


しかし当時の会長、黒間大三郎が彼の両親を殺した為、妹を守るためにと自らを犠牲にした。


不良を語るようになった彼は小学生で地元を制覇、その後中学3年になり、明王院学園の誇る制度、明王制度のトップ、明王となる。


明王となった黒間弾だが、大阪を統一、一族を殲滅、黒間組を壊滅、悪巧みをしていた総理大臣を暗殺、そして今回、非道に走っていた警視庁のトップ、九条正喜との戦争に勝利、しかしその際に負傷し、現在の状態は定かではない。


ここまで書いてきて、彼の偉大ぶりは知らない人も理解してもらえただろう。


しかし心配なのは、彼の身体だ。


感情は自ら破綻させることを選び、力(彼は特殊な“眼”を持っている)の代償も受けている。


もし今、彼が今生きているなら、無理なくこれからも英雄としての活躍に期待したいところである。







通学時間に軽く読むつもりが、やってしまった。


なんとなくだけど、過去にしたであろう事は予測できていた。


体の傷を見れば、容易に思いつく事だ。


ただ、1番ショックを受けたのは…。


記憶喪失のきっかけになった事件だ。


九条正喜。


まさか…九条さんのお父さんだろうか。


僕は九条さんのお父さんを、殺してしまったのだろうか。


どんな理由であれ、彼女は悲しいはずだ。


どんな人であろうと、親を殺されて良い思いをするはずがない。


ショックを隠せない。


想い人の父親を、大義名分を盾に殺した。


その事実が、重くのしかかる。


そんな僕を乗せた電車は、学園の最寄駅に着く。


虚ろになって俯きながら、電車を降りて学園へ向かう。


校門前で、皆んながいた。


「お兄ちゃん〜!」


真希ちゃんが手を振る。


おはよう、とみんなに挨拶した。


顔は見れていなかったけど。


九条さんが近づいてきて、


「おはよう。」


と微笑んでくれる。


それがどんな感情から発せられた言葉か分からない。


罪の意識がのしかかる。


気持ち悪くなった。


「…えぇ。」


僕は小声でそう答え、顔すら見ずにそのまま逃げるように学園へ入っていった。


最低なことをしている事は分かっている。


だけど…記憶を無くした今の僕は、英雄なんかじゃないんだ。


ただの…臆病な、黒間弾なんだ。


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