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第45話 休暇

ぶつかった時は、やってしまったと思った。


昔から、身体が弱かった。


少しの環境の変化で体調を崩していたし、ストレスも溜まりやすかった。


そんな事もあり、幼少期は殆ど家で過ごした。


大きくて、飾られていて。


だけど、私は嫌いだった。


教養は受けていたけど友達もいなくて、寂しかった。


中学校に入学して、私は美術部に入った。


元々好きだった景色というものを、自分の手で残せるなんて最高だと思ったから。


結局色々あって、今は大学三年だ。


国内最難関の大学に合格したものの、家の都合と、持ち前の身体の弱さで不登校と入院を繰り返し、今に至る。


検査入院、という事でもう1ヶ月も入院している。


一体何の検査なのやら、知ってはいるけど目を背ける。


「もう、6年かぁ…。」


そう、もう6年になる。


私が私を本気で嫌いになった事件から。


私は、ある少年を欺いた。


ある少年を傷つけた。


ある少年を壊してしまった。


その少年は、落ち込んではいたものの、素直で優しくて、明るい子だった。


私は、私を慕ってくれるその子を、その子が私を慕ってくれる以上に慕っていた。


想っていた。


けれど、運命は優しくはなかった。


その子がその後、明王となったのはテレビで知っていたし、その後の活躍も聞いていた。


同時に、明るくない噂も聞いていた。


死んだなんて事を聞いた時もあったが、あの時は本気で落ち込んだ。


でも、生きていると知って、また新たな功績を残した事を聞き、自分のこと以上に嬉しかった。


だから、知っていた。


警視庁長官の九条さんとの決闘で負傷し、この病院に入院している事を。


6年ぶりだろうか。


私はどうしてもお腹が減り、売店を巡っていた。


ようやく終えて病室に戻ろうとした時、彼とぶつかってしまった。


やってしまった、と思った。


彼は覚えているだろう。


私が生きている事を、疑問に思うだろう。


そう、過信していた。


「あ、ごめんなさい!」


他人の空似を装おう。


その案が成功したかのように思えた。


「いえ、僕の方こそ。」


彼はそう言って、私が落とした、買ったものを渡してくれた。


まさか…。


覚えていない?


戸惑いもない彼に、私はそう感じた。


この間までの表情と今の彼の表情が全く違っていたから、まさかとは思ったけど。


記憶喪失。


そして、私との思い出も。


正直、私はこの子との思い出を生き甲斐にしていた。


どんなに辛くても、それさえあれば。


そう思っていた。


だから忘れられていたのがショックだった。


よく思ってはいなくても、それが彼と私を繋ぐ、大切な絆だと思っていたから。


「……あの…どうかしましたか?」


ふと、考え込んでしまっていた自分に気がつく。


「い、いいえ!何でもないの!拾ってくれてありがとうね!」


そう言って私は、彼の前から逃げ去った。


後に、私に極秘で進められていた計画を聞いた。


もはや、抵抗するほどの力も体力も、気持ちも、私には無かった。











「キャァァァァァ!!!」


隣で真希ちゃんが、悲鳴をあげている。


僕たちは今、世界的に有名な遊園地来ていた。


音楽を聴きながら乗れるジェットコースターは、その遊園地でも一番怖いらしく、そういう類が苦手らしい真希ちゃんは顔が引きつっていた。


僕はというと、どうやらこういうのは平気らしく、むしろ爽快だった。


「楽しかったですね!」


そう言って一緒に来ている九条さんに話しかける。


白のワンピースの上に、紫のカーディガンを羽織った彼女は、天使だった。


対照的に一果さんと宮村さんは、今風のファッションで、魅力的だった。


「えぇ、そうね。」


そう言って笑いかけてくれる九条さんの表情を見るのが、とても嬉しかった。


静かで大人しい彼女でも、どうやら盛り上がってくれているようで、良かった。


次に乗ったのは、2人乗りの屋内ジェットコースター。


ジェットコースターが連続して、真希ちゃんは泣きそうだった。


回転しながら走るこれは、まだマシだよ、と九条さんが真希ちゃんに語りかける。


優しい一面に、またドキッとする。


今回は一果さんと乗ったが、一果さんも得意らしく、今回横から聞こえるのは断末魔ではなく、


「イエェェイ!」


と言った、テンションの高い声だった。


僕はその様子を可笑しく思い、ずっと笑っていた。


案の定、出てくると真希ちゃんが泣きながら待っていて、


「お兄ちゃぁぁ〜ん!」


と、出てくるなり抱きついて来た。


よしよしと、頭を撫でる。


子供っぽいけれど、そこが可愛らしい。


その後はサメの出てくるアトラクションや、有名な映画を模したアトラクション、世界最高低差のジェットコースターに乗った。


途中までテンションがマックスだった真希ちゃんも、最後のそれで、また泣いてしまっていた。


「九条さん。」


もう日も落ち、真希ちゃんの為に一度休憩をしようとしていた彼らをみて、僕は今がチャンスだと思った。


こちらを見る彼女に続ける。


「待っているのも何なので、良ければ2人で一つくらい乗りませんか?」


と言った。


真希ちゃん含め、一緒に来ていたメンバー全員が驚きの表情をむけてきたので、


「深い意味はありませんよ。」


と笑った。


まぁ嘘だけど。


結局、僕たちは2人でもう一度サメのアトラクションに並んだ。


1時間待ち。


その1時間で、もっと近づけたらな、と思った。


「九条さんは、趣味は何ですか?」


「私の趣味は、小説を読むことよ。貴方は?」


こんな他愛のない会話が、やはりどこか安心できる。


前にもこんな話をした気がする。


「僕はこの間、夕食の時に見たプロ野球です。全くのにわかですが。」


そう言って笑うと、彼女も微笑んでくれる。


「どうして私を誘ったの?」


そうな会話を続けていると、彼女が唐突に尋ねてきた。


「この間、屋上で誘ってくれたから…。あれ、社交辞令でしたか?」


「そんな事はないわ。あぁ、そういう事だったの。」


そう言って物悲しげな表情を浮かべる彼女を、やはり美しいと感じてしまう。


「まぁ、それ以外にも、色々…。」


近づきたいと言うのは、何か恥ずかしかったので、言えなかった。


その後も色々と話をして、僕たちは遠慮をせずに話が出来るくらいの関係にはなれた。


大きな前進だ、と自分を褒めながら、僕たちは真希ちゃん達がいる場所へと戻った。


真希ちゃんはすっかり復活し、僕たちは最後に映画が原作の劇のようなものを見て、夕食をファーストスード店でとって帰路についた。


帰り道、僕たちは普通電車に乗り、家が隣同士の一果さんと一緒に座って帰ることが出来た。


電車の中で、真希ちゃんは疲れたのだろうか、僕の肩に頭を乗せて寝てしまった。


「どうだった?今日。」


一果さんが心配気に聞いてくる。


「楽しかったです。ありがとうございました。」


そう言って僕は彼女に笑いかける。


「そう、良かった。」


と彼女も微笑んだ。


彼女も、九条さんとは違う魅力があり、不覚にも僕はその笑顔に高揚した。


「そう言えば、弾、九条さんのこと好きなの?」


僕は驚き、表情を隠せなかった。


「図星だぁ〜。」


そう言って悪戯な笑顔を向けてきた。


「いえ、興味はありますが、僕は彼女をまだそんな目では見ていませんよ!」


と弁解しておく。


これもまぁ嘘だけど。


「そう…。」


と安堵の表情を浮かべて、一果さんは目を閉じた。


そのまま、一果さんも僕の肩に頭を乗せて寝てしまった。


最寄駅に着き、僕は2人を起こして、寝ぼけた2人を連れて、家まで帰った。


1度目が覚めた真希ちゃんは元気で、たのしかったねぇー!、と今日の出来事を話してくれたけど、体力の限界だった僕はシャワーを浴びて、ベットへ潜った。


本当に楽しかった。


今思えば、この楽しさは、これから起きる出来事の代償だったのかもしれない。


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