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第39話 粉雪

「明王…。」


最近、明王なんてのができた。


国も、そいつを信用している。


おかしいだろ?


ただの中坊だぞ?


そりゃ、前までは高校三年がしていたかも知れないが、今はどうだ?


中学三年の、しかも黒間?


黒間が悪で、黒間が正義で…。


なんだそりゃ、自作自演だろ。


実際、黒間弾は事件を起こしているじゃないか。


一族の大量暗殺、テロに総理暗殺、黒間会襲撃。


しょっぴくには、十分すぎる。


なぜ守る?


黒間弾が明王制度を利用しているのは明らかじゃないか。


ましてや娘が、明王とつるんでいるだと?


何の為に、明王院へやったと思っているんだ。


俺は生まれてこの方、正義の名の下に生きてきた。


両親は、教師と刑事。


尊敬していたし、俺も目指した。


正義を信じ、努力を怠らなかった。


成功は約束されたものだった。


今や、警視庁のトップだ。


ここは正義の場所だ。


居心地いい。


だから、明王制度なんてものはいらないのだ。


正義は、俺だけでいい。


俺の存在こそが、正義なのだ。


「不良どもめ…駆逐してくれるわ。」


俺は携帯を取り出し、部下にかける。


「もしもし、あぁ、俺だ…。街の不良どもを潰しにかかるぞ。国家権力を持ってだ!」


さぁ、俺の正義を始めよう。







修学旅行の中で話す話ではなかった。


空気が重くなる。


「…マジで?」


口火絵を切ったのは、宮村だった。


こういう時、こういうバカは頼りになる。


普段饒舌な九条でさえも、目を丸くしていた。


一果に関しては、もはや怯えだった。


「あぁ、まぁもう昔のことだ。」


空気が重い。


嫌いだ。


疲れる。


しかもこれが修学旅行だから、責任も感じるから余計だ。


「やるな、お前。なんか、なんてか…流石だわ。」


鳳が言う。


「なんて言っていいのかわからんのなら、無理に口を開くなよ。」


俺はそう言って笑った。


杉田と阿部は、話が長かったか、寝てしまっていた。


「…不思議だわ。」


九条がやっと口を開いた。


「何がだよ。」


どうせまた嫌味だろう。


「いや、引っかかるのよ。」


「どこが。」


「…なぜ、桜庭さん?は、貴方に好意を寄せていると嘘をついたのかしら。」


こいつ!


「そこを否定するなよ!悲しくなんだろ!」


「あぁ、悪かったわ。貴方は過去にすがるしかない、無能だものね。」


一瞬でまた、空気が凍った。


九条の目は、俺を睨みつけていた。


言い返せない。


実際、俺はそうかも知れない。


負けた気がして、なんだかやるせなくなってしまった。


俺は立ち上がり、ドアへ向かった。


「……悪かったな、過去しか見れなくて。」


そう呟いて、俺は外へ出た。


いい機会だ。


気分を落ち着かせる為に、真希にお土産でも選ぶか。


そう思い、エレベーターに乗る。


何がいいだろうか。


食べ物は美味いのが多い。


ラーメンに、メロンに、白い恋人、関連食品。


だが、キーホルダーや、なんかそういうグッズでも喜んでくれそうだ。


一果のおじさんとおばさんには白い恋人を買えばいいだろうか。


「……クッソ!」


そう叫んで、俺は握り拳をエレベーターの壁に打ちつけた。


少しも気分は落ち着かない。


話せば闇に戻れる?


戻れていた。


諦めが、心を支配していた。


なのに……、


「過去にすがるしかない、無能だものね。」


頭の中で何度もリピートする。


もはやあいつがスパイだなんて疑ってはいない。


だけどなんだ、あいつは他のやつよりも、何百倍も、俺をかき乱す。


あいつと話をしてから、おかしくなってしまった。


中学三年生の、スタンダードな学生生活を望む自分が現れる。


消し去ろうと、過去のトラウマを覗く。


闇に戻ろうとすれば、引き戻そうとされる。


そして…俺は戻ろうとしている。


「桜庭さん……。」


貴方の為に、生きると決めた。


貴方の分も、生きると決めた。


なのに今、俺は本気で死にたいと思ってしまった。


チーン、という音と共に、ロビーについだエレベーターの扉が開く。


ロビーの外では、雪が降っている。


さらさらと、綺麗に、細かく。


「自然は良いですね。心が洗われるようです。」


そう言って微笑む、桜庭さんを思い出す。


「…ここの雪は綺麗ですよ。」


とても。


なのになんだろう。


この雪を見ていると、貴方が消えていきそうだ。


代わりに…真希の、バカみたいに笑う顔が頭を埋める。


「…難しく考え過ぎだろうか。」


そう呟いて俺は真希のお土産を選んだ。


スノードーム。


これが良い。


この雪は溶けることはないし。

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