第33話 帰還
一ヶ月後、退院の日に初めて俺は真希と顔を合わせた。
真希は俺を見るなり、抱きついてきた。
泣きすぎて声が出ていない。
「真希...ごめんな、今回は流石にやり過ぎた。」
抱きつく真希の頭を撫でながら俺は言った。
「ねぇお兄ちゃん、もう怪我は大丈夫なんだよね?」
か細い声で真希が聞いてきた。
俺が「あぁ、、、」
と答えると、真希は思い切り頬を殴ってきた。
痛くはなかったが、人に拳を向けることのない真希がここまでしたのだ。
頬とは違う場所が酷く痛かった。
「鳳さんから話は聞いてるよ…だから...ホントはヤだけど、これで許したげる。」
泣きながら言う真希に、俺はこれからもずっと頭が上がらないだろう。
その後、鳳と会い、一果と会った。
鳳とはずっと会っていたので、近況報告と事務的な話をしただけだった。
一果は……きっと本気でキレていた。
「自分がした事……どう思ってるの?」
「まぁ許される事ではないと……一生をかけて償おうと…。」
「真希ちゃん、泣いてたよ。総理の件の時。自分が悪いって、閉じこもっちゃって、あんた腐ってもお兄ちゃんなんでしょ?何でこんなことができんの?」
「全部見てたよ…。墓の前で泣いてたのも、教室でのあいつも…お前も。」
一果は自分まで見られていると思っていなかったらしく、自分の名前が出た瞬間少し表情が緩んだ。
「復讐より、大切なこと、あるんじゃないの?事情は分かるよ、あんたが戦うのは仕方のない事だとも……。」
今まで、俺をきつく睨んでいた目が、哀しげに変わった。
「だけど……たった今私や真希ちゃん、あんたの周りの人を傷つけてるのは、他でもないあんたよ……。」
重々承知の上だ。
言われなくとも…と思っていたが、言えるわけがない。
確かに、事情を差し引いてもついていい嘘ではなかった。
「私からはそれだけ。さぁ、これからはあんたも日常に戻って、今までよりもっと私たちと楽しも!」
いつもの優しい一果の表情に戻った。
「一果…。」
「なに?」
「ありがとな……。」
いつもこいつが俺を支えてくれている。
今回もそうだ。
俺が日常に戻る事を、許してくれた。
感謝してもしきれない。
一果はふっと微笑んで、
「良いわよ、私、あんたの幼馴染だし。」
と言ってくれた。
3日後から学校にも行った。
クラスメイトや友達たちは、また創られた英雄譚を評価してくれた。
学校関係者からはこっぴどく怒られた。
そして……俺は4代目明王に返り咲いた。
「ただいま…。」
明王室に入り、思わず言ってしまった。
頑張ろう、こんな想いは二度としたくない。
日常を壊さず、皆んなの理想の自分を壊さず、義務をこなしていこう。
信念として、それは出来た。
「あ?」
「だからさっきから言ってんでしょ、お金。」
一果が真面目な顔をして言う。
「何だお前、やっぱこないだのこと怒ってんのか?」
「何言ってんの?弾……。」
「いや、だからカツアゲって、酷いな」
一果の拳が俺の頭を撃つ。
周囲は、明王を殴る一果を恐怖の目で見ていた。
「だから嫌なのよ、もういい!」
怒って一果は教室から出て行った。
登校2日目。
完全に前の調子を取り戻し、朝は遅刻寸前に来て、昼まで寝ていた。
そして今、昼休み。
さぁ、飯の時間だと言う時に、一果に殴られた。
「貴方寝過ぎよ。」
眼鏡をかけた、黒髪ショートの女が話しかけてきた。
「あ?」
鳳や、いつもつるんでいる男どもがゲラゲラ笑いながらこっちを見ている。
「北海道。私たち全員内部進学とはいえ一応来月卒業だから、修学旅行があるのよ。前々から先生言ってたけど、貴方居なかったし、今日も言ってたけど寝てたし、無理ないわね。」
北海道!
何それ行きたい…。
だが、そうなると真希が心配だ…。
「真希ちゃんのことなら俺に任せとけよ、弾。うちの組で預かるし、冴香に面倒見させるからよ!」
鳳が嬉しそうに言う。
「お、おう………。何だお前らえらく乗り気だな。」
「一応最後だし、形だけでも、思い出作りにね。」
楽しそうだ。
とっても。
「金はあるよ、心配するな。国の特殊自衛隊だぞ?俺。」
「そうなの。」
メガネ女は、やたら冷たい。
「で、お前誰なの?」
耐えきれなくなって、聞いた。
「私はクラス委員長の九条よ…。ほんと、貴方寝過ぎよね。クラスの事とか何も知らないでしょ?」
「夜型なんだよ。俺。あと、興味無いわけじゃないし、割と知ってるぞ?鳳だろ、一果に杉田に阿部、宮村、んで……え、と、……九条?」
「見上げた…。二桁も居ないじゃない。」
そう言って九条は笑った。
「お前、意外なタイプだなぁ。キャラ通りじゃねえわ。」
「貴方もよ。いつも寝てばかりで修羅場潜りまくって、告白も全部拒否、おまけに明王で黒間。もっとクールなのかと思ったら、キャラが全く違うじゃない。」
意外だ。
俺のキャラは割と普通なのに。
やっぱ、明王だ黒間だで、しけたツラしてたのかな、なんて考えてしまった
「何にせよ、このクラスで修学旅行に参加するのなら、もっとこのクラスを知って馴染むことね。」
面白い女だ。
いくらクラス委員と言え、そんなに酷評する様な男と話しても面白くないだろう。
この女に免じて、午後は言われた通り、授業中も含めてクラスを観察した。
おかげでクラスメイト全員の顔と名前が一致し、一応全員と会話を交わした。
何やら一果は面白くなさそうな顔をしていたが、ニヤッと笑ってやると諦めた様に微笑んでくれた。
放課後にはもう全員と親しく話をしていた。
「もっとクールで、話しかけても、別に、とかしか言わないのかと思ってたー!」
「俺も!なぁ、宝条のこと、どう思ってんの!?」
好奇の目で見てくる。
嫌ではないのは、その奥に温かみを感じるからだろうな。
「一果か、別に、いや、有難いとは思っている。」
「きゃーー!一果だってぇぇー !」
さっきから女子が煩いのと、鳳がゲラゲラ爆笑しているのが気に食わない。
「北海道って何しに行くの?準備とか。」
「あー、それ、明日正確に決めるみたいよ、部屋とか班とかバスの席とか。あとしおりもその時配られるらしいから、それで確認すれば?」
さっきから、九条が1人で涼しい顔で日誌を書いているのが気に食わない。
お前の言うとおりにしているのに、何だこいつ、という感想だ。
何はともかく、俺は明日を待つことにした。




