第30話 呼応
諦めなければ、希望はある。
諦めれば、そこで終わり。
実にいい言葉だ。
正論だ。
綺麗事だなんだと、言い訳を並べるやつが居るが、俺はそうも思わない。
だってそうだろう?
諦めれば、実際何もかもがそこで終わるし、諦めなければ、その姿は必ず誰かの心に感銘を与える筈だ。
でも...それは確かに理想論ではある。
それを誰もが理解し、不安を感じ、逃げ場を探す。
理解した上で、理想論を信じきる者が、英雄譚を紡いできたのだろう。
子供の頃は、その理解がないから、綺麗事だとは思わない。
大人になればなるほどリスクを考える。
だからかな…皆んな、大人になりたがって、実は子供を望んでいる。
ドサッ。
目も開けずに倒れている俺の横に、何かが落ちた音がした。
俺は意地で目をうっすらと開き、その何かを見た。
予想通り、鳳だった。
鳳が応戦している間はずっと気を失っていたので、どんな戦いだったのかは分からないが、鳳の傷を見ればそれが穏やかなものでなかったことくらい分かる。
「どうよ……お前のオトモダチ…だろ?今どんな気分だ?あ?」
挑発してきている。
溢れる感情は感じている。
きっと俺は柄にもなく激昂している。
当然か?
妹の心に傷をつけ、俺の奇眼を奪われ、今目の前で友を倒された。
侮辱。
俺ではなく、俺の大切なものを。
考えれば考えるほど、苛立ちは膨らむ。
クソ………。
クソ…。
クソ。
クソ!
クソクソクソクソクソ!!!
どうにかして…
「こいつを殺したい」
口に出ていた。
目も開いていた。
それどころではない。
身体中から真っ赤な、紫のオーラが吹き出していた。
体が熱かった。
感覚も忘れるほど、痺れがあった。
文字通りの、力がみなぎる感覚を感じる。
スッと立ち上がって、初めて五歌の顔を見た。
さっきまでの余裕が嘘だというほどの、焦った顔。
「どうした五歌…。俺にキレて欲しかったんだろ?遊ぼうぜ…。」
気分はすこぶる良かった。
なんせ、奇眼は俺にだけ呼応したのだ。
同じ黒間でも、俺の方がやはりエリートなのだ。
安心した。
「なぁ五歌…。ただで済むなんて思ってないよな?見ろよこの俺を。」
五歌は怯た表情で俺を見ていたが、やがて何かを諦めたような顔をして
「勝てるさ。いや、どうだか分からんが、相手にならんほどではない。今のお前ならな。」
は?
今の俺でもお前と互角並み?
何言ってんだ、こいつ。
「だがこれ以上は辞めておくよ。俺は、抵抗するのをやめよう。お前の望むまま、煮るなり焼くななり好きにするといい。」
「どういう事だ?もう訳がわからん。」
既に冷静ではなかった俺は、奇眼の覚醒段階に踏み込んでいたのにも関わらず、焦りでいっぱいだった。
「話そうか……。俺の…黒間五歌の物語を…。」
「やめろ……聞きたくねぇ!」
冷静になれば、またすくわれると思った俺は、今の状態のうちに五歌を殺しておきたかった。
情けをかけながら、そいつの未来を奪うのは、やはり俺でも結構キツい。
「そう言わずに聞いてくれよ……。」
悲しそうに笑いながら俺を見て五歌は言った。
「俺は本当に遊ぶつもりしかなかったんだがな…。」




