第25話 影潜り
兄が死んで2週間になる。
鳳さんは呪眼を狙う輩がいるかもしれないから、と兄の死体を隠した。
鳳さんは奇眼の存在をまだ知らないのだろうか。
私は未だに兄の死を実感できていない。
一果ちゃんが横で、かつて両親が死んでいた時の様な目を私に向けてくる。
あぁ、またこの感じか……。
孤独というのは不意に襲ってくる。
しかも、兄を殺したのは自分だ。
そのことばかり頭に浮かび、日常は何も入ってこない。
あとどれくらいの時を過ごせば、元の私に戻れるだろうか。
教えてよ…お兄ちゃん………。
目を覚ますと、俺は鳳邸の私有地にいた。
誰も通らない、人目のない最高の場所だ。
俺は立ち上がり、体についた汚れを落とせるだけ落とした。
あんなに大々的に暴れたのは初めてだ。
余韻が僅かに残っている。
真希や一果は俺の死に影響されずに生活できているだろうか?
それだけが気がかりだった。
俺はすぐに自宅へ戻った。
この時間は学校がある昼間なので、難なく家に入る事はできた。
一度風呂へ入り、あらかじめ用意していた荷物を持って家を出る。
立つ鳥跡を濁さず、これだけは徹底した。
きっと真希は帰って来ても気付かないだろう。
ボストンバッグを持って、マスクをして派手な帽子に派手なファッションをして俺は鳳邸の私有地へ帰った。
バカのように広くて人目のないあの場所を、俺は拠点にすると決めていた。
服装は、派手な方が人は意外と関心を持たないものだからだ。
拠点に着き、テントを張り、ボストンバッグから必要なものを取り出す。
まずは仮面。
目の部分だけでていて、真っ黒で、般若の顔のような形をした仮面。
これで素顔は隠せる。
それからフード付きの真っ黒なマント。
まぁ定番かなと思って持って来た。
あとは下着やシャツ、全て暗い色にしておい
た。
その辺りに抜かりはない。
あと……家族写真。
孤独は紛らうだろうかと。
その他にもライト、通帳、クナイのような紫色の武器、生活必需品。
風呂は鳳が経営している銭湯へ営業時間前に行くことにする。
下準備は済んだかな…。
そう思った俺は鳳の元へ行っておくことにした。
そういえば、新しく開眼した奇眼は実に優れている。
呪眼のように痛みは感じないし、身体能力はもはや人間ではない。
火を噴く能力に威力が足され、移動速度は格段に上がった。
瞬間移動、実際には目にも留まらぬ速さなのだが、一般人が見ればそう見えるだろう。
忍者が何もないところから現れるような、あんな出現が出来る。
それは仮死状態に入る前にわかったことだった。
流石は呪われた血筋、と言ったところだ。
俺は早速鳳を訪ねて明王学園の明王専用の部屋へ行った。
仮面をつけて、マントをして。
鳳はまるで待っていたかのように椅子に座っていた。
「来るのがわかったか?」
返事はなく、鳳は近づいて来たので、何をするのかと考えていたら、いきなり腹部を殴られた。
「これで許してやる。」
こいつはこいつなりに怒っていたみたいだ。
「一応挨拶にな、お前にだけ姿を見せられるからな。」
「あぁ、冴香や組員のいる時は俺との接触は避けろよ。」
「当然。そういえば、お前、これ分かるか?」
そう言って俺は奇眼をして見せた。
「凄いな、赤眼がなければその目の放つプレッシャーだけで動けなくなるレベルだ。」
「俺も気に入ってるよ、これは。」
鳳は俯き、
「そうか…。」
と答えた。
「俺の方はもう準備が出来た。この姿でこれからは生きていこうと思う。学園の…真希や一果、お前らに仇なす存在は俺に任せて、お前はその椅子で寝ていろ。」
「まるで影の明王、だな。」
そんな格好の良いものでもない、と笑って答えて俺は学園を出た。
学園を訪れたのも遅かったが、既に今日の授業は終わったようだ。
丁度いいと思い、今日だけ遠くから真希の半日を見届けようと思った。
校門から出で来た真希と一果を影から見ていたら、家とは違う方向へ向かった。
どこへ行くのかと思ってついて行くと、そこには俺の墓があった。
学園と自宅の中間地ほどの場所にある、海の見える綺麗な場所だった。
俺の墓石の前で涙を流して手を合わせる2人を見て俺は拠点に帰った。
見なければよかった……。
その言葉は心の奥底へしまい、考えもしなかったことにした。




