第24話 別離
道徳とは何だろうか。
私は未だに答えを模索している。
かつて鳳くんが、
「弾は道徳心が欠けている。」
と言っていた。
残虐に人を殺す、その眼差しは俺でも怖い、と。
でも本当にそうなのだろうか?
確かに弾が怖いと思う事はあった。
でも、残虐だと思った事はない。
私は道徳とは、人の心を理解し、倫理の道の上で優しさに身を焦がす事だと教えられた。
弾は、昔から優しかった。
私がイジメられていれば不器用に助けてくれたし、真希ちゃんを助けるところも見てきた。
黒間の一族を全滅させて帰ってきた時も、その眼差しは、奥に優しさがあった。
今度もきっと、私たちを助ける為、守る為に1人で闘っているのだろう。
幼馴染だから、それくらい分かってしまう。
彼が、彼なりの道徳に従って幸せを手に入れる時、私は足枷でしかないのかと思うと、これほど切ないことはなかった。
願うなら…これ以上遠くには行って欲しくない。
目を覚ますと、大雨の中、大量の死体の中にただ1人立っている真希ちゃんが歓声を受けていた。
弾は…!
俺はただ1人の親友の安否が心配になった。
「ありがとな…鳳…。」
俺が倒れる前に聞いたその声が、頭の中で痛いほど響く。
ふと、頭が破裂した真中が見えた。
その両隣には、護衛2人が惨殺されている。
目的は果たされたのか…。
これで奴も、立派なテロリストだ。
降り注ぐ雨が、俺の心を落ち着かせる。
さぁ、弾はどこへ行ったんだ。
軋む体に鞭を打ち、真希ちゃんの方へと向かう。
血まみれだが傷一つない真希ちゃんの目は、怯えていた。
「……すまない、あいつを止めることはできなかった。」
返事はない。
「…何が起こっていたのか、詳しくは分からないのだが、とにかく弾はどこへ…?」
怯えに染まるその目がそちらに向けられた時、俺は寒気がした。
ぷるぷると、震える腕で、真希ちゃんは自分の前に転がる死体を指差した。
「…どうした?」
俺は死体が何かあるのかと思い、死体に駆け寄った。
頭が真っ白になった。
死体が弾なのだ。
信じられない。
前に血に染まる刀が落ちていた。
まさか……。
「……真希ちゃんが…刺したのか?」
動きはない。
ただその瞳から、雨に隠れた涙が流れ落ちた。
やりやがった……。
「適当に攻撃に当たったふりをして、死んだふりをして、俺は影から見守ることにするよ。」
そう言っていた弾の面影はその死体にはなかった。
いや、正確に言えば死体では無いのだろう。
仮死状態。
呪眼のある弾にのみなせる技だ。
平成最大のテロリスト、総理暗殺の極悪人を、妹に殺させることで、悪者は自分1人になる。
それどころか、止めようとした俺も、殺した真希ちゃんも英雄扱いされ、周りの人でさえ一切批判させる事はないだろう。
この惨劇の中で、咄嗟にこれを思いついたのか……。
「悲しいな。」
俺は真希ちゃんにそう笑いかけると、すぐに弾の死体を持ってその場を離れた。
俺も少しくらい、手を汚してやるよ…。
お前の思う通りになると思うなよ…。
そう考えながら遠く離れた時、俺は死体を置いて、元の場所へ戻り、真希ちゃんを宝条に託し、2人を明王学園へ送り届けたのち、自宅へ帰った。
世紀の大事件は当然ニュースにもなり、テレビはどの時間どのチャンネルも同じ話題だった。
狙い通り、世間の批判は弾にのみ向けられたし、俺や真希ちゃんは英雄のように讃えられた。
同じ様な日々が続き、2週間ほど経った時、俺は臨時ではあるが、明王という立場にいた。
闇に溶けた弾と連絡をとれる場所。
それはここしかないだろうから。
真希ちゃんも宝条も、ようやく言葉は話す様になってきたが、2人とも笑うこともなかった。
これが、お前にとっての救うという事なのか…?
早く俺に教えに来てくれよ……。
かつて、明王として奴が座っていた椅子で、俺は外の景色を眺めた。




