第10話 衝突
その日、家に帰ると真希が怒ったようにして俺を睨んだ。
「お兄ちゃん…!」
その目には涙が浮かんでいる。
「……ま、言いたいことは分かるぞ、真希。でも、とりあえず中に入ろう、な?」
ここは玄関だ。
一果が先に帰って、真希に話したんだろう。
中に誰かいる様子だったし、きっと一果と3人で話し合うことになるだろう。
「………。」
真希は黙って中へ入っていった。
俺の予想どうり、リビングには一果もいて、3人机を囲むように座った。
「…ごめん弾、私真希ちゃんに言っちゃった。」
初めに切り出したのは一果だった。
「一果ちゃん、良いんだよ言ってくれて!お兄ちゃん私にすぐ何でも隠そうとするから!」
話だけを聞いていると俺が悪者みたいだ。
「まぁ待て2人とも。俺が何がしたか?何もしていない。俺は何か真希に隠したか?隠してない。」
「隠したじゃん…」
一果が震えながら言った。
「鳳にあったことか?別に俺が今日1日で誰にあったとか、真希に報告する義務はないが?」
「そのことじゃない!鳳が食えるもん食っとけよって、喧嘩売ってきた時にお前もなって言って買った事!」
涙を浮かべて叫んだ。
近所迷惑だ、と言わんばかりの呆れた顔を俺は浮かべたが、心の中はまた2人に心配をかけている、というふうに自分に対して呆れていた。
「まぁまぁ、売り言葉に買い言葉ってヤツだよ。うん。」
苦し紛れに俺はそう言ったが、
「何のフォローにもなってないよ、お兄ちゃん。」
と真希に言われた。
「お兄ちゃん、私達は別にお兄ちゃんの行動を制限したい訳でも何でもないの。ただ…」
ただ、の続きはきっと1人で何も抱え込まないで、私達で解決していこ、何ていうつもりだったのだろう。
いつも言われてきた事だ。
真希の言葉は突然鳴ったインターホンによって遮られた。
「はい。」
俺がでると、モニターにニヤけ顔をした男がいたので、
「阿部と杉田がきた。泊まるかもしれないから、早く寝ろよ。」
と嘘をついて家をでた。
2人が何か言っていたが、黙って家をでた。
「よう。着替えたのか。」
「あー、癖でな。今帰ってきたとこなんだが、家族会議が始まる前にぱっぱと。」
そう言って俺は笑った。
リビングに行く前に、オレンジのTシャツとジャージの半パンというラフな格好に着替えていた。
「家族会議?なんかあったの?」
「お前の挨拶のせいだよ。俺が1人でいる時にしてくれりゃ良かったのに。」
「ハハッ!悪いな。」
そう言って笑っていたのは、鳳組の当主である鳳大輝だった。
「…そこまで行くか…。」
と、俺は近くの廃倉庫を指差して言った。
「あぁ、そうだな。」
と鳳が言って、俺たちは歩き出した。
「なぁ、悪く思うなよ。これはもう宿命だったんだ。」
歩きながら鳳が言う。
「分かってるよ。お互い様だ。」
「だな…。」
あとは沈黙が続き、俺たちは倉庫の中へと入っていった。
中は校庭くらいの広さはあり、俺たち2人が闘うには広いくらいだった。
「早速……始めるか?」
「だな!」
叫んだ鳳は俺のふくらはぎを蹴る。
上に飛んで避けた俺はすかさず鳳の顔に回し蹴りを入れる。
反射的に避けられたせいで、完璧にとは言えないが口元に少しあたり、切れて血が出ていた。
口を擦りながら
「やるじゃん…」
と言って鳳は笑った。
そのまま睨む俺は鳳に向かって走り出し、足元に滑り込んだ。
今度は鳳がそれを飛んでかわし、俺の上に馬乗りになって、膝で俺の手を押さえつけて顔を殴ってきた。
7発程殴られた後、俺は足を鳳の首にかけ、後ろに倒し、今度は俺が上になった。
同様に7発程殴って鳳の顔を見ると、こいつは笑っていた。
「何が面白い。」
俺は聞いた。
「お前、気付いてるか?青眼…でてるぞ。」
冷静になってみると、確かに目元が熱かった。
きっと本当の事を鳳は言っているのだろう。
「お前、そんなもんかよ…。赤眼、出すまでもないか?」
俺は焦ったが、すぐに俺にも笑みがでた。
「…お前、気付いてるか?そう言ったお前にも今、赤眼がでたぜ。お互い様だな。」
俺たちは互角だった。
このままいけば、どちらかが死ぬ。
2人とも、きっとそう思っていただろう。




