第81話 夜明け前の誓い
頼朝の容態が急変した夜。
鎌倉の空気は、
まるで世界が息を止めているようだった。
「鎌倉殿……今夜が峠だ」
「政子様が付き添っているらしい」
「北条殿も……眠らずに見守っているとか……」
(そう……
町の声が震えている。
光が沈む時の声)
私は頼朝の枕元に座り、
その手を握り続けていた。
頼朝の呼吸は浅く、
その瞳はもう、
遠い世界を見ているようだった。
「政子……」
かすかな声が漏れた。
「頼朝さん……」
「私は……
もう……
長くは……ない……」
胸が締めつけられた。
「そんなこと……言わないで……」
頼朝は微笑んだ。
「政子……
お前が……
光だ……
鎌倉を……
頼む……」
その手から、
少しずつ力が抜けていく。
(頼朝さん……
まだ……
まだ行かないで……)
*
──深夜。館の外。
義時が待っていた。
その顔は、
これまで見たことのないほど強張っていた。
「姉上……
鎌倉殿は……?」
私は静かに首を振った。
「……今夜が最後よ」
義時は拳を握りしめた。
「姉上……
鎌倉殿が亡くなれば……
鎌倉は……
空気そのものが崩れます」
私は義時を見つめた。
「ええ。
でも──
崩れた空気は、
“作り直せばいい”」
義時は息を呑んだ。
「姉上……
あなたは……
もう覚悟を……?」
私は頷いた。
「頼朝さんの光が沈むなら──
次の光は、
私たちが作るのよ」
義時の目に、
強い光が宿った。
「姉上……
私は……
あなたと共に……
鎌倉を守ります」
私は義時の肩に手を置いた。
「義時。
あなたは頼朝さんの“右腕”だった。
でもこれからは──
“鎌倉そのもの”を支える柱になる」
義時は震えた。
「姉上……
私は……
そんな器では……」
「器は、
時代が作るものよ」
義時は目を閉じ、
深く息を吸った。
「姉上……
私は……
覚悟を決めます。
鎌倉のために。
政子様のために」
私は静かに頷いた。
「義時。
これからの鎌倉は、
あなたと私が作るのよ」
その瞬間、
夜風が二人の間を通り抜けた。
まるで──
新しい時代の始まりを告げるように。
*
──夜明け前。
私は灯りの下で筆を取った。
(頼朝さん……
あなたの光は沈みつつある。
でも──
光が沈む時、
新しい光が生まれる)
筆が走る。
「……北条の時代が始まる」
私は静かに笑った。
──悪女は、
光の終わりを恐れず、
光の始まりを迎える。
そしてこの日、
**政子と義時は“鎌倉の未来”を背負う覚悟を固めた。
頼朝の死は、もうすぐそこまで来ている。**




