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幸せがつまった新生活 2

 

「王立学園!?」



 そこは、オーロラのずっと憧れだった場所。

 王都内にある上流貴族、王族しか通えない学園であり、敷地内には生徒しか使えない大きな図書館も有る。


 学園にも通わせてもらえなかったオーロラにとって学園は憧れで、図書館で本に囲まれることが夢だった。



「そう。その学園内に王立研究所があるのだけど、僕たち人魚のことや魔法などについて研究しているらしくてね。僕たちがその王立研究所に属して研究材料を提示する代わりに僕とユーリ、それからオーロラも王立学園に入学してもいいと」

「でも、私までいいのですか……?」

「もちろん。というか、僕がオーロラと一緒じゃないと嫌だと言ったんだ」



 そうはにかむエレンにオーロラは思わず頬を染めた。



「あの、ポートリヒト王国からの条件はそれだけなのですか?」



 いくらなんでも少ないのでは、とオーロラが疑問に思っていると「まあそれ以外にも色々あるんだけど」とユーリが言い切った。


 言いぶりから海底王国の財宝などそんなところだろう。

 王族どうしの取引には口は挟まないでおこうとオーロラはそれ以上の追求をやめた。



「で、僕が条件に出したのはその王立学園に通って陸での暮らしを学ぶことと、それからオーロラと結婚することを願い出たんだ」

「えっ」

「まあ離宮も貸してくれたし、思っていたよりは親切にしてもらっているからいいんだけどね」



 海底王国ももしかしたらお宝などを貰っているのかもしれないけど、それと自分が対等な扱いだなんて、とオーロラは目を丸くした。



「うーん、それすら守られるか怪しくなってきたけどね……」



 エレンにとって1番はオーロラとの結婚。

 しかしオーロラの癒しの魔法をなんとかして取り返そうとしている節があると思うとエレンはため息をつきそうになった。


 オーロラはエレンの心配などよそに「私だけ……軽すぎませんか」と呟いている。

 エレンはなんとかして守り切ろうとオーロラをまっすぐ見つめてから話を続ける。



「それで学園への入学は2週間後なんだよ。それまでに僕とユーリは歩けるようにならないとだし、陸についても最低限のマナーは知らないといけない」



「本当、急かしますよね」とユーリも呆れている。

 エレンは「それに!」と強調した。



「僕とオーロラの結婚式もしなくちゃいけない!!」

「え!? け、結婚式も!?」



 勢いよく立ち上がったエレンは相当意気込んでいるようだった。こればかりはオーロラも口をぱくぱくさせて言葉を探すが驚きの方が勝って上手く言葉がでない。



「エレン、2人の結婚は陛下の前でないと認められないだろ。海底王国での結婚式に意味があるんだから」

「そうだけど、それでは僕が落ち着かない!! 簡易でもいい、いやよくないけど! なんとしてでも陸で一回式をあげてオーロラは僕のだって……」

「エレン、落ち着け。オーロラ様が倒れそうだぞ」



 部屋をぐるぐると回って力説するエレンを制し、ユーリはそう促す。

 オーロラは顔を真っ赤にして、今にも蒸発してしまいそうだった。

 そしてそばに控えるヘレンたちは「尊い、尊い……」と呪文のように言葉を噛み締めている。



「ご、ごめん、オーロラ。僕はそんな君を急かすつもりは断じてなくてね……」



 わたわたと言い寄るエレンにオーロラはふるふると首を横に振る。



「嬉しいのです、そんな風に言っていただいて……私は結婚式はいつでもかまいませんわ。たしかに急ではありますが、誓いを交わすならいつでも……アクアライト様?」



 そこまで言い、オーロラはエレンが顔を手で覆っていることに気がついた。

 淑女が結婚にあまり熱意を見せるのはまずいのかしらとオーロラが取り繕おうとすると、エレンががしっと手を握った。



「ありがとう、オーロラがそう言ってくれて嬉しい。それと……僕のことはどうかエレン、と」

「エ、エレン、さま……?」



 オーロラがぎこちなくそう呼ぶと、エレンは満足げに微笑んだ。



 部屋には和やかな空気が流れている。

 こうなってしまうとエレンはもう自分の世界だし、オーロラも断る術がないようだし、ヘレンたちも完全にこの世界を堪能してしまっている……ユーリは仕方なくため息をついて「それは2人きりの時に」とエレンを引き剥がした。


 エレンは少し不服そうにユーリを見たが、すぐに元の表情に戻り、咳払いをする。



「じゃあ、結婚式のことはまたおいおいと。でもなるべく早くできるようにするね」


 エレンが微笑み、オーロラも微笑む。

 それからオーロラはそれなら、と顔を輝かせた。



「それでは私が歩き方や、陸での生活のことをお教えします!」

「オーロラが……? いいの?」

「はい、エレン様と、ユーリ様のお役に立てたらと思って……」



 学園に通っていなくても必死に勉強はした。それにオーロラはマナーは教えられなくても見て覚えたし、義姉が全く手をつけない本も隠れて読んだ。


 こんなにも自分を大切にしてくれるエレンにお礼がしたいと、その一心で。



「オーロラが教えてくれるなら心強いね」

「はい、オーロラ様なら立ち振る舞いも素晴らしいですし安心ですね」



 エレンとユーリはオーロラの気持ちを汲み取り、にこにこと笑う。

 また褒められてしまった、とオーロラは過度の幸せの供給にそろそろパンクしそうだった。


 照れくささを紛らわすようにオーロラは紅茶を飲むけれど、内心明日からの生活へのわくわくでいっぱいだった。


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