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王立研究所

 

 翌日、オーロラたちは王立研究所を訪れていた。

 幸い、マリーはいないようで、オーロラは胸を撫で下ろす。


 だけどものすごく広い研究所内を歩き回るのは少し大変ではないか、とオーロラとエレンは困ったように顔を見合わせる。



「おや、君たちが新しく配属されるっていう人魚の王子様たちだね」



 オーロラたちが振り返ると、スタイルのよい綺麗な女性が立っていた。朱色のショートヘアが目立つ、はきはきしていそうな女性だとオーロラは思う。



「私はハンナ・ブランシェット。この研究所の所長を務めている。今日から君たちには私の研究に付き合ってもらう予定だから、よろしく」



 エレン、ユーリと自己紹介をし、オーロラも丁寧にお辞儀をした。するとハンナはわははと快活に笑う。



「そう畏まらなくてもいいよ、そのほうが私も気が楽でいい」



「では研究室へ案内しよう」とハンナは歩き出す。

 感じの良い女性だと、オーロラは思いつつハンナについていくべく駆け足になった。





 エレンが交わした条件では、王立研究所に通い海底王国の研究に協力する、ということだった。

 ハンナはその話について「まあそうなんだけどね」と苦笑する。



「こんなこと言っちゃあれかもだけど、王国側が調査するよう言ったのじゃつまんないからね。私は私のやりたい研究をしたいと思ってる」

「どんな調査をするよう言われたんです?」



 ユーリがそう怪訝な顔で尋ねるとハンナは「いいものじゃないよ」と呟いた。


 ハンナが言うには人魚の生態はもちろん、彼らの王国の仕組みなどを調べるよう言われたらしい。その言いぶりから、欠点などを探すことを主な目的としていることが窺えた。



「私は私のやりたい研究をするつもりなんだが、いいかな?」

「ハンナさんは、どのような研究がしたいのですか?」



 オーロラの質問に、ハンナは待ってました、というように熱弁をし始める。あまりの早口にオーロラたちはへらりと笑顔を貼り付けながら相槌を打つことしか出来なかった。


 要約すると、ハンナは海の生物全般に興味があるようだった。美しい植物や謎だらけの生き物たち、それからもちろん人魚たちについても。けれど人魚の欠点を探そうという気はさらさらなく、ハンナは彼らの歴史の方により興味があるようだった。



「というわけで、私は王族の君にたくさん話を聞くと思うからよろしくね」

「ふふ、僕たちの歴史はかなり複雑ですよ」

「その方が面白い。人間たちは馬鹿げた争いをしている歴史が半分を占めてるからな」



 ハンナはそう真面目な顔で言う。きっと、ポートリヒト王国が戦争をしていたことも気に入らないのだろう。オーロラは歴史をあまり学べなかったけれど争いは嫌だわ、と眉を下げる。



「そういえば、オーロラ嬢は珍しい魔法を持っていると聞いたけれど」

「はい、癒しの魔法です」

「そうか! へえ、長く所長をやっているけれど癒しの魔法を持つ生徒ははじめてだな」



 ハンナは嬉しそうにオーロラを眺め回す。

 そうして笑顔で眺めた後、一言、「もう少し食べた方がいい」とかなり心配した表情で言う。


 ハンナはオーロラの事情を知らないけれどオーロラがただ食が細い令嬢だと判断したわけではなさそうだった。しかし細かいことは聞かず、「いつでも頼ってくれて構わないよ」と笑う。



「君にも、たくさん協力してもらうつもりでいるからよろしくね。でもひとまず、君の魔法を見てみたいのだが、いいかな」

「どうすればいいでしょうか」



 オーロラは辺りを見回し、萎れた植物や壊れたものを探すがどれも無くて困ったように尋ねた。どうやらハンナも同じことを思ったらしく考える仕草をとる。



「あ! じゃあ私の腕はどうかな」



 ハンナはそう言うと着ているシャツの袖を捲り上げ、腕を見せる。

 意外にも筋肉質である腕には大きな傷がある。



「ど、どうされたのですか?」

「数日前に引っ掻かれてしまってね、なあにそんな大したことないからそんな苦しそうな顔しないでくれ」



 ハンナにそう言われて、オーロラは自分がかなり強張った顔をしていたことに気がつく。それからじっと腕を見つめる。


 数日前とはいえ、かなり痛々しい傷だ。かなり広範囲に抉られたようで見ているオーロラまで痛いような気がしてくる。


 オーロラはゆっくりと目を瞑りそれから手をかざした。オーロラが手をかざした部分に金色の葉の模様が現れる。



「ほぉ……」



 ハンナはじっと興味深そうに見つめ、エレンとユーリもその様子を覗き込む。

 目を開けたオーロラはみんなの顔が思いのほか近かったことに驚く。それから腕を見るとあの痛々しい傷はすっかり治っていた。



「すごいな、本当に強力な魔法みたいだね」

「そ、そんなにすごいのでしょうか……それよりももう痛みは感じませんか」

「ああ、もちろん」



 ハンナは「これはすごい」と連呼しながら部屋の中を歩き回る。オーロラは困ったようにハンナを見つめてから、エレンやユーリに顔を向ける。

 すると、ハンナは勢いよく顔をオーロラたちに向ける。



「さっそくだけど、手伝ってくれないかな」



 オーロラたちはその勢いに押され、思わず頷いた。


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