32 新しい仲間
牧場へ行った三日後。俺達はリンネに会うべく森に来ていた
本当は翌日すぐに来たかったのだが、別れる時に三日後と言ってしまったので三日後だ。携帯電話がないの地味に不便だな。頭を冷ます時間にはちょうど良かったかもしれないけど。
ちなみにこの三日間は、情報収集をして過ごしていた。
ライナさんの妹さんはさすが王立学校に通っているだけあって色々な事に詳しく、技術や科学のレベルから、産物・政治・貴族王族・他国の事についてまで凄く参考になった。
所々違う所もあるけど、文明度的にはおおよそ元の世界のローマ帝国時代くらいのイメージだ。
ある意味中世より高度という不思議。
エイナさんにはまだ少し警戒されている気配があったけど、妹の美味しい料理攻勢でかなりデレてきたと思う。さすが香織。
そんな訳で、いつもの通り森の入り口でライナさんと別れてしばらく進むと、木陰からリンネがそっと姿を現した。
前回いきなり木の上から降ってきてびっくりしたので、配慮してくれたのかもしれない。いい子だ。
「ねえリンネ、街にいるエルフの多くは捕らえられてから街で産まれた人達みたいなんだけど、森産まれのエルフとの見分け方ってなにかないかな?」
この三日の間に数が許す限り街で見かけたエルフを鑑定してみたが、歳に多少のバラつきはあったものの、みんな牧場産まれと思しき人達だった。
見学に行った牧場だけでも年に4000人ほど産まれていると言っていたので、割合的には圧倒的なようだ。
リンネは街産まれのエルフという言葉に少し引っかかりを感じたようで、わずかに首をかしげる。そりゃあ、あんな事が行われてるなんて想像したくないよね……。
「……確実にとは言えませんが、歳で判断すればある程度わかるのではないでしょうか? 人族がエルフ族を積極的に捕らえ始めたのはここ100年以内の事ですから、100歳を超えていればかなりの確率で森産まれだと思います」
おお、なるほど。エルフの100歳は人間で言うと3歳と少し相当だったかな? でも12歳と15歳ならそこそこ違う。長寿のエルフならではの見分け方だ。
だけど今までに見たエルフを思い出してみると、みんな12~13歳くらいの外見だった気がする。リンネがちょっと年上に見えるくらいだ。やはり森産まれのエルフは希少なのだろう。
「そうだ、私がいた宿屋の近くにお肉屋さんがあるのですが、そこにいる方が多分私と同じか少し上くらいだと思います。試しに訊いてみてはいかがでしょう?」
「ホントに! わかった、早速行ってみる。戻ってきて報告するから、今日はこの近くにいて!」
「は、はい……」
俺の勢いに呆気にとられた様子のリンネと別れ、ライナさんと合流してリンネが以前働いていた宿を目指す。
元リンネの所有者だった老婆は別に懐かしくもないし会いたくもないので、宿屋はスルーして肉屋を探す。店はすぐに見つかった。
店頭にいるのは人間のおじさんだったが、こっそり裏へ回ってみると洗濯をしているエルフがいた。これまたこっそり鑑定を発動してみる。
レナアント エルフ 129歳 スキル:布加工Lv6 飼育Lv3 状態:空腹(中) 疲労(弱) 地位:奴隷
ビンゴ! 特技持ちのエルフさんだ。
初めて会った時のリンネほどやつれてはいないが、空腹という事はあまり食べさせてもらっていないのだろう。お肉屋さんなのに……。
早速店頭に戻って、店主と思しきおじさんと交渉する。
「すみません、裏にいるエルフを譲って欲しいのですが」
「あん?」
いかん、思いっきり不審がられてしまった。焦りすぎたか。
「これは失礼を、怪しい者ではありません。実はさるお金持ちから、注文に合うエルフの買付を依頼されておりまして。たまたま依頼と合うエルフをお見かけしたので、ぜひ譲っていただけたらと。金貨二枚でいかがですか?」
口からでまかせを並べたて、疑われるより先に金貨を見せて意識を引きつける。案の定、おじさんは相場の倍の値に食いついてきた。
さすがは商人らしく値段の交渉をされたが、銀貨30枚を上乗せして、230万アストルで譲ってもらう事ができた。
俺の行動にライナさんは訝しそうな視線を向けているが、護衛の任務に徹してなにも訊いてこない。ごめんね、いつか説明するから……。
街中なので首輪に繋がれた鎖を引き、戸惑っている様子のエルフさんを連れて、人気のない建物の陰に入る。
途中で買った肉の串焼きを差し出すと、エルフさんは最初警戒していたが、二回勧めると遠慮がちに受け取り、その後は凄い勢いで食べ始めた。
もう何本か買っておけばよかったかなと思ったが、あっという間に串焼きを食べつくしたエルフさんは、おもむろにヒザをつく。
「お情けを頂戴し、ありがとうございます……」
……これだけでもう、ロクな扱いを受けていなかった事がよくわかる。気にしないよう伝えて立ち上がらせ、自己紹介をする。
「俺は洋一、こっちは妹の香織、向こうは護衛のライナさん。キミの名前は?」
「……今までは『おい奴隷』と呼ばれておりました」
おおう、名前くらいつけてあげようよ肉屋のおじさん。
「元々の名前とかない?」
「――レナと、そう呼ばれておりました」
鑑定で見た名前は『レナアント』だったけど、そういえばリンネも『リングネース』だったんだよね。エルフは名前を略して呼ぶ習慣でもあるのかな?
「そっか、よろしくレナ。ところで一つ訊きたいんだけど、100歳以上の歳のエルフに心当たりない?」
「……申し訳ありません、存じ上げません」
あ、今一瞬目が泳いだ。
他にも確保できればと思ったけど、どうも警戒されているらしい。無理もないか。
むりやり訊き出すのはやめにして、鎖を引いて森へ向かう。
例によってライナさんと別れ、リンネと合流する。レナさんの鎖を外し、肉屋のおじさんから貰った首輪のネジをリンネに渡す。
「リンネ、この人レナさんっていうんだけど、森の拠点に連れて行ってあげて。そこでレナさんが得意な仕事ができる環境を整えて作業をしてもらって、リンネはまたここに戻ってきて。何日かかりそう?」
俺の問いに、リンネはレナさんをじっと見る。
「往復に10日、この方の特技がなにかわかりませんが、数日あれば環境を整えることができるかと」
さすが森の民。俺達が同行した時よりずっと速い。
「じゃあ、15日後にまたここで。レナさんの首輪のネジはタイミングを見て渡してあげて。できれば仲間になって欲しいけど、どうしても嫌だと言われたら自由にしてもらって構わないから。あ、それと、ご飯ちゃんと食べさせてあげてね」
「承知しました。たしかにお預かりします」
呆然としているレナさんをリンネに預け、代わりにリンネはここ数日で集めたフランの花と、香織用の食材を渡してくれた。
街に戻ろうとした俺達の背中に、レナさんが声をかける。
「あの! 私がいた店から二本表通りに寄った鍛冶屋に100歳を超えたエルフがいます。私と同じ村の出身なのです、彼女も救い出してやってください!」
「――了解! リンネ、出発もうちょっと待って。もう一人連れてくるから!」
信用してくれたらしい事に嬉しくなって、荷物を置いて街に戻る。
鍛冶屋を探し出して、ふいご吹きをやらされていたエルフさんを200万アストルでお買い上げた。
鑑定してみると
セレスティナ エルフ 107歳 スキル:木材加工Lv5 状態:疲労(中) 空腹(弱) 地位:奴隷
との事。念願の大工さん要員だ!
自己紹介の結果セレスさんと呼ぶ事になり、森に戻ってリンネに引き渡す。同じ村の出身だというレナさんと、抱き合って涙を流していた。
セレスさんにも100歳越えのエルフ。もしくは100歳以下でもいいから同じ村出身のエルフに心当たりがないか訊いてみたが、残念ながら心当たりはないとの事だった。
まぁ、二人見つかっただけでも善しとしよう。
森の拠点へ向かうリンネ達三人を見送り、すでに暗くなりつつある中を街壁内の拠点へ戻る。リンネにもらったフランの花は後日換金に行こう。
ずっと怪訝な表情をしていたライナさんには『来年になったら話すから今はなにも訊かないで』と言って了承を貰った。
さて、リンネが戻ってくるまでに街でやっておきたい事を済ませておこう。仲間ももう少し見つかるといいな……。
大陸暦418年12月10日
現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化)
資産 所持金 2876万1200アストル(-432万2000)
配下 リンネ(エルフの弓士) ライナ(冒険者) レナ(エルフの織物職人) セレス(エルフの木工職人)




