30 エルフの生態
翌朝。朝食を終えると家を出て、三人で森へ向かう。
森の端で夕方まで解散にして、妹と二人だけ森へと進む。リンネと約束した三日目だけど、ちゃんと来てくれてるかな? 午前か午後かくらいは決めておけばよかった。携帯電話がないのは不便だ……。
「お帰りなさい。洋一様、香織様。街はいかがでしたか?」
いきなり木の上からリンネが降ってきて、思わず悲鳴を上げそうになった。お迎えはありがたいけど、もうちょっと心臓に優しい登場をして欲しい。
「……ねえリンネ、エルフの事について色々訊きたいんだけど、いいかな?」
「はい、私にわかる事でしたら。お話をするのならこちらへどうぞ」
そう言われて、しばらく歩いた所にある仮設の小屋に案内される。木の枝で組んだ三角形のテントのような物だが、中は枯葉が敷いてあって存外快適だ。
俺は早速話を切り出す。
「エルフ族って、人間より成長が早かったりする?」
俺の問いに、リンネはキョトンとした表情を浮かべた。この表情ちょっとかわいい。
「普通は遅いと言われるものですが……あ、でも最初の一年くらいは早いかもしれません」
「それはどんな風に?」
「多分ですけど、産まれてから最初の一年は一ヶ月で人族の一年分くらい成長します。それで大人の仲間入りをして以降は、逆に人族の30分の1くらいでしょうか?」
まさかのピンポイント情報だ。前の世界でも動物は幼少期の成長が早く、大抵の動物は産まれてすぐに立って歩くし、犬や猫は1歳にもならないうちに子供を産む事ができた。それに近い感じだろうか?
リンネで考えてみると、今116歳だから、最初の一年で12歳相当になって、115年を30で割ったおよそ4を足すと、16歳相当。なるほど、そんな感じだ。
にしても、今の話はかなりびっくりだ。幼少期が短くて少青年期が長いとか、生物種としては理想に近いのかもしれない。完成された種族だと言われていたというのも納得できる。
「ちなみに寿命ってどのくらい?」
「300~400年くらいだと思います」
人間換算で肉体年齢22~25歳相当か……ホントに完成された種族なのかもしれないな。
そして、市場で見た少女達がみんな1歳だったのも納得できた……いや、ちょっと待てよ?
「答えにくいかもしれないけど、エルフってどうやって繁殖するの?」
その問いに、リンネの長い耳がサッと赤くなる。そりゃ話しにくいよね……。
リンネは赤くなった耳をせわしなくパタパタさせながら、視線を逸らしつつ答えてくれる。
「い、以前もお話しましたが、エルフ族は人族でいうメス個体しか存在しません。そして、人族と違って生殖行為の欲求もなく快楽も感じませんから、気の合うパートナーが見つかって子供が欲しくなった時だけ体を重ねて……という感じです。お互い同時に子供を宿すのが普通ですね。妊娠期間は……人族よりちょっと長めの一年ほどでしょうか」
なるほど、だんだん状況が掴めてきた。そしてそれは、俺の中に恐ろしい想像を掻き立てる……。
「一つ確認したいんだけど、体を重ねるのってお互いの合意がなくても……むりやりやっても子供ができるのかな?」
「そ、それは……実例は知りませんが、多分できると思います。そんな事をする意味は思い当たりませんが……」
リンネは思い当たらないかもしれないが、俺は思い当たる。そして多分、行われてもいる。
「リンネ、急な用事ができた。また街に戻るから、三日後にまたここででいいかな?」
「あ、はい。そうだ、集めたフランの花がありますが、お持ちになりますか?」
「う~ん、今はいいや。ごめんね」
「いえ、ではお気をつけて。あ、香織様これをどうぞ」
妹はリンネから、一抱えもある包みを受け取っている。訊いてみると、森の食材らしい。妹からもなにかお土産らしき物を渡していて、リンネが嬉しそうに受け取っていた。
それにしても、今の話は妹からすると意味がわからないばかりか、セクハラにさえ聞こえただろう。
だが理由を問うてくるでもなく、今は食材を抱えて嬉しそうに微笑んでいる。これが俺への信頼からくるものだと考えると、嬉しい反面かなりのプレッシャーでもあるな。
荷物は俺が持ち。リンネと別れて、ライナさんを探して合流する。夕方よりはだいぶ早かったが、特になにも言う事なく帰路についてくれた。ちなみに大きな籠いっぱいのキヨウの実は、すでに収集済みだった。
「ねえライナさん。この辺りでエルフが多い場所って心当たりありませんか?」
街に戻る途中で、あえて遠まわしに訊いてみる。
「エルフが多い場所ですか? ……と言うとやはりあそこでしょうね。ここから王都をはさんで反対側にある牧場だと思います」
牧場……その響きに、俺の中で嫌な想像が確信に近い物に変わる。
ホントにこの世界、どれだけ優しくないんだよ……。
大陸暦418年12月7日
現時点での大陸統一進捗度 0.001%(リンネの故郷の村を拠点化)
資産 所持金 1520万400アストル
配下 リンネ:エルフの弓士 ライナ:冒険者
次話は家畜と同じ扱いを受けるエルフ族の話ですが、ちょっと酷めの話なので、そういうの苦手な方はパスしてください。
エルフ達が現代世界の家畜と同じような扱いを受けていると認識していただければ、物語の進行上問題ありません。




