16 一攫千金
冒険者ギルドはまだ夕方の混雑前で、人影はまばらだった。いくつもある受付からいつものエリスさんの窓口を選んで籠を下ろす。
「あの、常設依頼の引取りってここでいいですか?」
「はい、こちらで受けたまわっております……って、すごい量ですね!」
枯葉のクッションの中からトウの実を次々と出すと、エリスさんの表情がみるみる驚きに染まっていく。
「しかも質もいい……普通は長い棒で叩いたり弓矢を使って落とすから、もっと傷がついているものなのに……」
ああ、やっぱり普通はそうやって採るんだね。あんな高い木をひょいひょい登るリンネは、やっぱり特殊なんだ……。
他の窓口からも応援の人が来て、一つずつ丁寧に査定が行われる。
「……トウの実が38個。全て上質な品ですので、一個300アストルで1万1400アストルの所、上乗せして1万3000アストルでいかがでしょう?」
カウンターに銀貨と、銅貨30枚が置かれる。もちろん異存などある訳がないのでありがたく皮袋に納め、続いて妹が持っていた袋を出す。
「これも査定をお願いします」
袋からゴロゴロ出てくるツマ茸に、受付の人達の表情が一斉に驚きに染まる。
「……ツマ茸が46本。一本800アストルで合計3万6800アストルになります」
本当に合計で5万アストル近くになった。毎日続けたら収穫は減るだろうが、これはもう安定財源が確保できたと言っていいだろう。
そしていよいよ問題の、フランの花をカウンターに出す。
「あの、これもあるんですけど……」
「…………」
人間、本当に驚くと無表情になるんだな。
両手に山盛り二掬いほどの干し花を前に、ギルドは騒然となった。
女の人がこの世界では珍しい透明なガラスコップに水を入れてきて、花一つの花びら一枚の、さらに半分ほどをちぎって浮かべる。水はみるみる鮮やかな紅色に染まっていき、空間いっぱいにさわやかな香りが広がった。ああ、これは食欲そそりそうだ。
「……間違いなくフランの花です。それも最上級品の」
「まさかこの近くに群生地が?」
「そんな訳ないだろ、俺達が普段どれだけ探してると思ってんだ」
「そもそもこんな真っ赤なの見た事ねぇよ」
「ああ、腹減った……」
いつのまにか野次馬も集まってきて騒がしくなったからか、俺達はエリスさんに別室に連れていかれ、そこで待つようにと言われる。
妹が不安気に俺の手を握ってくる中、しばらくして戻ってきたエリスさんは真面目な顔で次の事を告げた。
・最上級のフランの花、1587個を確かに受領した。
・買値は並品で222万1800アストルだが、特別質が良いのでもっと高くなる。今日はとりあえず並品としての値段を支払うが、三日後に改めて差額分を支払うので受け取りに来て欲しい。
・万が一盗品だったりした場合に備えて、滞在先を明らかにして欲しい。
・大金を手にしたせいでならず者に狙われるかもしれないので、ギルドの負担で三日間の護衛をつける。
これ、護衛というより監視だよね?
監視がつくのは嫌だったが、事情もわからないではないので了解する。
そして、一つ確認だ。
「フランの花って、もっと沢山あっても同じ値段で買い取ってもらえますかね?」
……今日はよく人の顔色が変わるのを見る日だなと、俺はぼんやり思うのだった……。
大陸暦418年11月4日
現時点での大陸統一進捗度 0%
資産 所持金 267万3000アストル(+227万1600)
配下 なし




