15 採集
翌朝、俺と妹にリンネを加えた三人は、街を出て少し離れた森へと向かう。宿は今日一日看板を下ろすが、元々この時期はほとんどお客が来ないのだそうだ。
途中で朝食用のパンと串焼肉を買い、採集した物を入れる用の背負い籠と袋、水筒を買って水筒に水を詰めてもらうと、手持ちが2400アストルになってしまった。
ナイフやリンネ用の靴や弓も欲しかったけど予算不足だ。危険回避は妹のスキル頼みでなんとかしよう。
周りに人目があるうちは荷物の全てをリンネに持たせ、首輪に鎖を繋いで俺が持って歩く。なんだかすごく非道な事をしているようで、居心地が極めて悪い。
街を出て草原をしばらく進み、森に入って少しした所で休憩して朝食を食べる。首輪につけた鎖を外してやると、リンネは驚いたように俺を見た。
誰かに見られたらと心配するリンネを、行動の邪魔だからと説得する。一緒に同じものを食べるのには慣れてくれたようだが、それでも少し落ち着かないのか、ソワソワしていた。
「さて、行くか。リンネ、お願いね」
俺が籠と荷物を背負い、妹には袋を持ってもらって、いよいよ森の中へと入っていく。ここから先は妹の危険察知と、リンネの採集スキル頼みだ。俺は荷物持ちに徹しよう。
薄暗い森の中を、リンネは迷う様子もなくどんどん進んでいく。なんだか気持ち足取りが軽いようだ。森に来てテンション上がってるのかな?
歩いていると辺りには結構な数のキヨウの実が落ちているのが目に入るが、かさばる上に一個一キロくらいありそうな事を考えると、力のある人でも30個くらいが限界だろう。
五往復して1500アストルと考えると割に合わないが、森の浅い所で容易に集められるので、駆出しの冒険者や一般市民の日銭稼ぎにはいいのかもしれない。
「あ、ありました。トウの実ですよ!」
リンネが嬉しそうに頭上を指差すが、俺には葉っぱばかりでなにも見えない。
視力2.0が自慢の妹もよくわからないようだ。
というか、たとえこの上に実があるとしてどうやって採るんだ? 軽く五メートル以上はあるぞ。
ちょっと絶望しかけたが、リンネは身軽な動作でピョンピョンと木を登り、あっという間にピンク色の実を三つ抱えて降りてきた。
「どうぞ」
差し出された実を、ちょっと呆然としながら受け取った。これで900アストルの収入だ、幸先いいぞ。
傷とかがついたら値段が落ちそうなので、クッション代わりの落ち葉と一緒に籠に収める。そうしているうちにリンネは別の木に登り、追加で二つのトウの実を採ってきてくれた。この子、もしかしてすごく優秀なのでは?
リンネはやはり森の中が性に合っているのだろう。すごく生き生きとしていて、次々に収穫をゲットしてきてくれる。
「あ、あそこに」
リンネが採ってきたツマ茸を妹の袋に入れる。というか、なんで落ち葉の下にあるキノコの場所がわかるんだろう?
元の世界で豚にトリュフを探させる方法があったのを思い出し、さすがに失礼な連想だと反省する。
まるで上下が同時に見えているようなリンネの活躍で、お昼前には俺の籠も妹の袋もいっぱいになっていた。昼食代わりにトウの実が食べ放題だったくらいだ。
トウの実は味も桃みたいで美味しく、リンネにとっては懐かしい味なのか、それとも甘い物なんて食べさせてもらってなかったからなのか、次々に10個くらい食べてすごく幸せそうだった。
初めて心の底から笑顔を浮かべるリンネを見れた気がして、俺も嬉しくなる。
採集を再開するとすぐに昼食で食べた分のトウの実も補充され、数えてみるとトウの実が38個、ツマ茸が46本もあった。合計で5万アストル近く、思った以上の大収穫だ。
満足して帰還を提案しようとした時、不意にリンネの長い耳がピクピクと動く。
「近くに滝があるようです、フランの花の群生地があるかもしれません」
「そうなの?」
「はい。フランの花は草原などにも咲きますが、滝近くの水煙が舞う場所には群生して生えている事が多いのです」
リンネは嬉しそうに、踊るような足取りで森の中を進んでいく。その様子を見ていると、とても『今日はもういいよ』とは言い出せなかった。
俺と妹がついていくのやっとの速さで……いや、正確には俺がついていくのがやっとの速さで、リンネは森の中を進んでいく。元引きこもりには森歩きとかつらいのだ。
……近くと言う割には結構歩いた気がする。リンネの耳どれだけ良いんだろう? そんな事を思っていると不意に視界が開け、小さな滝つぼに出た。辺りには一面、真っ白い小さな花が咲いている。
リンネは目を輝かせて、さっそく摘み取りを開始していた。
……ん? 真っ白い?
「ねえリンネ、フランの花ってオレンジ色じゃなかった?」
「生えている時はこの色ですよ。摘んでからすぐ太陽の光に当てながら乾かすと、一時間ほどで鮮やかな色になります。昨日洋一様が持っていらしたオレンジ色のは、草原に生えるタイプですね。半端に乾燥し、半端に太陽の光に当たって育つのでオレンジにしか発色しないのです。ここの物なら、目が覚めるような鮮やかな赤色が出せますよ!」
そう説明して、ちょっとドヤ顔のリンネ。初めて見る表情でかなりかわいい。
それからしばらく、三人で花を摘んでは乾かしての作業を繰り返し、両手に山盛り二掬いほどの干し花が完成した。確かに鮮やかな赤色だが、サンプルとずいぶん違うんだけど大丈夫かなこれ?
時間もいい具合になったので、名残惜しそうなリンネをなだめて帰路につく。いつか、リンネがずっと森で暮らせるようにしてあげられたらいいな……。
帰り道で一度、妹が俺の袖を引いて警告を発したので進路を変え、何事もなく森の外れまで帰り着いた。このパーティ、実は最強なんじゃないだろうか? 俺は荷物運びでしか役に立ってないけど。
そして街が近づくと、その荷物運びの任務もお役御免だ。
リンネに荷物全部を持ってもらい、首輪に鎖を繋ぐ。心が痛むけど、今悪目立ちをする訳にはいかないのだ。
帰り着いた宿の前で、リンネは嬉しそうに『今日は本当に楽しかったです、ありがとうございました』と言ってくれたが、実際は上手い事利用しているだけのような気もするので、ちょっと気まずい。
リンネは帰り道で買った夕食の食材と薪、俺達のとは別に持てるだけのトウの実を抱えて宿の調理場に消えていき、俺はリンネの所有者の老婆と会って、鎖と引き換えに預かり金を返してもらう。
よく考えたらこれ、契約書もなしに結構危ない取引だな。
リンネと別れ、俺と妹は冒険者ギルドへと向かう。これからの結果で、この世界での生活基盤が確保できるかどうかが決まるのだ。
いい査定が出るといいな……。
大陸暦418年11月4日
現時点での大陸統一進捗度 0%
資産 所持金 40万1400アストル(+39万2400)
配下 なし




