14 お金儲けの作戦
翌朝、朝食を摂ったあと妹と一緒に冒険者ギルドに向かう。
ギルドは大勢の人であふれていてすごい熱気だ。俺達も人ごみにまぎれて依頼を見て回るが、やはりどれも俺ではこなせないようなものばかりで、できそうなのは報酬が1000アストルくらいの大変お安い仕事だけだった。
だが、今日の本命はそれではない。
依頼の大半が受注されてしまい、受付が空き始めたのを見計らって、昨日と同じお姉さんに声をかける。
「あの、少し訊きたい事があるのですが」
「あ、昨日の。はい、なんでしょうか?」
にこやかな営業スマイルで対応してくれる。
「常設の採集依頼が出ている実とかキノコのサンプル……見本があれば欲しいんですけど」
「見本ですか? はい、昨日買い取ったものがまだあるはずですよ」
エリスさんはいったん奥へと引っ込んでいき、袋を持って戻ってくる。
「今出ている常設の採集依頼は五つ、順に『フランの花 1400アストル』『ツマ茸 800アストル』『トウの実 300アストル』『トギリ草 100アストル』『キヨウの実 10アストル』です」
カウンターに並べられたのはオレンジ色の小さな花、マツタケみたいなキノコ、桃みたいな実、どう見てもただの草、ラグビーボールの両端を少し切り落としたような木の実だった。
最後の実はなんか見覚えがあるな?
「フランの花は乾かして香辛料に、ツマ茸とトウの実は高級食材、トギリ草は薬の材料、キヨウの実は割って中身は家畜の餌、殻は簡易な容器として使われますので、採取に行かれるのでしたら用途を考慮して、取り扱いに気をつけてくださいね。買取価格は基準値で、質が悪いと安くなりますから。逆に上質な物は高額で買取させていただきますよ」
ああ思い出した。昨日屋台で買ったジュースが入っていたのがキヨウの実だった。なるほど、上下に切ればコップ、縦に割ればお皿の代わりになる訳だ。便利だな。
でもこの大きさで一個10アストルでは、大きな利益にはならなさそうだ。
「すいません、キヨウの実以外を一つずつ売ってもらう事はできますか?」
「構いませんよ。それぞれ2100アストル、1200アストル、450アストル、150アストルで、ええと……合計3900アストルになりますがよろしいですか?」
販売は買取の五割増しか。まあまあ良心的な値段かな?
お金を払って品物を受け取ると、一直線に宿に戻る。妹は不思議そうな顔をしていたが、俺の事を信頼してくれているのか、黙ってついてきてくれる。信頼に応えられる結果になるといいな……。
宿に戻ると掃除をしていたリンネを捕まえて、買ってきた物を見せる。
「ねえリンネ、これなにかわかる?」
「あ、はい。これはトウの実、おいしいですよね。これはトギリ草、ちょっとした傷につける薬草です。これはツマ茸、香りが独特で私はちょっと苦手です。こっちはフランの花ですね、布を染めるのに使います」
いきなりの事に当惑気味のリンネだったが、期待通りの答えを返してくれた。
「リンネ、森に行ったらこれ見つけられる?」
「えっと……トギリ草は森ではなく草原に生えるものなので難しいでしょうが、他のものなら」
おお、草はこの中で一番安いので問題ない。
「じゃあさ、明日俺達と一緒にこれ採りに行ってくれない? もちろんお礼はするからさ」
「それは……私には宿の仕事がありますから……」
「そっちは俺が交渉するからさ。ね、お願い!」
「は、はい。ご主人様のお許しがいただけるのでしたら……」
「ありがとう! あ、トギリ草は傷に効くみたいだからリンネにあげるよ。トウの実も良かったら食べて」
半ば強引に押した感があるが、リンネの同意は取り付けた。あとはあのお婆さんだ。
俺達は再び街に出て、一本5000アストルの高級酒を五本買う。よし、やるぞ!
……今、俺達はリンネの所有者である老婆と対峙している。妹は部屋に置いてこようとしたが、俺から離れたがらなかったので後ろに隠れて震えている。小動物みたいでちょっとかわいいな。
昼間からお酒の臭いがする老婆に、俺は恐る恐る話を切り出した。
「あの、お願いがあるのですが……」
そう言いながらお酒を二本取り出して、老婆の前に置く。
老婆の目の色が変わったのを確認し、すかさず本題に入る。
「実は明日一日、リンネをお借りしたいのです。もちろん相応の対価はお支払いしますから」
俺の申し出に、老婆は訝しそうな視線を向けてくる。
「今は客の少ない時期だから構わないけどね、アレを連れ出してどうする気なんだい?」
「その、ちょっとお願いしたい事がありまして」
曖昧な返答に、老婆が俺を見る目がますます胡散臭そうになる。
「アンタもしかして性倒錯者かい?」
「スキモノ?」
「動物を犯す趣味がある変態かって意味だよ。まぁそれはともかく、貸すのはいいが壊されるのは困るからね」
『動物』というのがリンネを意味するのだと気付くのに少し時間がかかってしまった。嫌な感じだ。
「ちゃんと五体満足で返すとお約束します。傷つけるような事もしません」
そう言いながら、もう一本追加でお酒を出す。
「まぁ、傷がつこうが仕事さえちゃんとできればそれでいいけどね。そうさね、預かり金100万の一日5000でどうだい?」
預かり金というのは俺がリンネを殺してしまったりした時の保障。つまりリンネの命の値段という事だろう。安すぎると思うが、今の手持ちでは足りない。
「今は手持ちが足りません。預かり金は40万でお願いできませんか? 代わりに一日1万お支払いします」
預かり金を値切るのは疑いを生むので、四本目のお酒を出しながら正直な交渉をする。
「……いいだろう、決まりだ」
老婆はあっさりと条件を飲んでくれた。目が完全にお酒に行っている。アル中だこれ。
「だけど、その額じゃ首輪のネジは渡せないよ」
首輪のネジ……? ああ、リンネが前に言っていたゼンマイの事か。別にリンネを連れ去ったりしようという訳ではないので、それは問題ない。
その場で41万アストルを渡し、余ってしまった残り一本のお酒も進呈すると、老婆はニヤリと笑みを浮かべる。歯のない口がなんか不気味だ。
「ホラ、外出用の鎖だよ」
冷たく、ズシリと重い鎖が渡される。
「奉仕させたりするのは構わないけどね、本気でヤるなら教会の連中に気をつけな。あいつらその辺うるさいからね」
どうやら俺は獣姦趣味の変態だと思われているようだ、吐き気がする。リンネが動物扱いされている事にだ。
ともあれ、これで必要条件は全て満たした。あとは明日どうなるか次第だ。
妹も多分に不快な思いをしたのだろう。初めて見る敵意のこもった表情をしているのを優しく促して、部屋に戻る。
今日もリンネと夕食を共にして明日の予定を話し、体を拭いて早めに寝る事にした……。
大陸暦418年11月3日
現時点での大陸統一進捗度 0%
資産 所持金 9000アストル(-44万3300)
配下 なし




