10 お金稼ぎ
しばらく街を探索したらまたお腹がすいてきたので、屋台でホットドッグのようなものを買って、妹と食べる。
外見こそホットドッグだが、固いパンに塩気ばかりが強く、香辛料がほとんど使われていないソーセージなので、これまたあまりおいしくない。
妹は一つを食べきれずに、俺が一個と三分の一くらいを食べる事になった。
妹の齧りかけを前にちょっと動揺したのは内密の案件だ。
固いパンを朝と同じ果実ジュースで流し込みながら、これからの事を考える。
妹のおかげで当面の生活費は確保できたものの、やはり継続した収入源は不可欠だ。
一番に思いつくのは鑑定の力を使った古道具屋などだが、数回使ったら倒れてしまう現状では、さすがにちょっと無理だと思う。
元の世界の知識でなにか作って売ろうにも、なにが売れるのかさっぱりわからないし、そもそも作れるものも大してない。
引きこもり中に色々本を読んでいたとはいえ、しょせん俺は単なる高校生相当の元引きこもりなのだ。
火薬の作り方を思い出してみるが、木炭と硫黄と硝石で黒色火薬ができる事は知っていても、硝石がなんなのかわからない。
農家の床下の土から作るという話も読んだ記憶があるが、具体的な作り方はさっぱりだ。
アオカビからペニシリンが作れるというのは知っているが、実際にどう作るのかは見当もつかない。
自動車は無理でも自転車くらいなら……と思ったが、タイヤに張るゴムがないし、そもそもチェーンがない。自作は多分無理だろう。
石鹸はたしか油に水酸化ナトリウムを混ぜて……水酸化ナトリウム?
半端な知識ではどれもできそうになく、途方にくれていると、ふと目の前を皮鎧に剣を背負った男の人が歩いていくのが映る。
行き先を目で追うと、市場から少し離れた所にある、この辺りでは一際大きな建物に入っていった。
建物の看板には剣と盾の絵が描いてあり、入り口には『冒険者ギルド 出張所』と書いてあった。
本部は壁の中にあるのかな?
さっそく立ち上がり、ギルドの入り口から中をのぞいてみる。
時間がお昼過ぎであるせいか中にいる人はまばらで、受付では数人の女の人が暇そうにしている。話を訊くには絶好のタイミングだ。
妹も特に危険を訴えなかったので、俺は妹を連れて中に入り、一番優しそうなお姉さんに声をかける。
「あの、冒険者について知りたいんですけど?」
俺の声に、うたたねをしていたお姉さんがビクッと反応して、慌てて姿勢を正す。
オレンジ色の少しウエーブがかかった髪をした、結構な美人さんだ。せっかくなので鑑定をしてみよう。
『ピコン』
エリス 人間 18歳 スキル:交渉術Lv2 状態:寝ぼけ 地位:冒険者ギルド受付嬢
この世界の人は苗字ないのかな? などと思っていると、エリスさんは取り繕うように一つ咳払いをし、営業スマイルを浮かべて言葉を発する。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドは初めてですか?」
「はい。なので基本から教えてもらえると助かります」
「承知しました。と言っても、特に難しい事はありませんよ。冒険者ギルドとは要するになんでも屋です。他の商業ギルドや職工ギルドなどで扱わない事全般、店番や子守から魔物退治まで、どんな依頼でも引き受けて仲介するのが仕事です。子供やお年寄りでもできる仕事もありますからご安心を」
エリスさんはそう言って、俺の後ろに隠れている妹に微笑みかける。妹は半歩俺の陰に引っ込んだが、袖を握る力が強くなっていないのでただの人見知りだろう。
「冒険者登録という制度があって、登録していただくと身分証にもなるカードが発行され、国内の各都市への出入りが自由になったり、成果に応じてE~Sまでのランク付けがされて護衛などの依頼が受け易くなりますが、登録に銀貨50枚、毎年の更新に銀貨20枚が必要になりますので、本気でいわゆる『冒険者』を目指す人以外にはお勧めしませんね。普通の依頼なら登録無しでも受けられますよ」
なるほど、冒険者カードは経歴書兼通行料のまとめ払いみたいなものか。高いし、今の所は必要なさそうかな。
「依頼は向こうに、種類別に分けてぶら下げてあります。字が読めない方は20アストルで係の者がご希望の依頼探しと内容の代読をいたしますので、お気軽に声をかけてください」
示された方を見ると、壁に幾つかの黒い石板がぶら下がっている。紙が貴重だから使いまわせる石板なのだろう。時間のせいか、残っている依頼は少ないようだ。
「依頼を受けたい場合は、石板を外して受付へ持ってきてください。中には日時指定の依頼もありますのでご注意を。依頼達成を確認したらこちらで報酬をお支払いしますが、未達成となった場合などには違約金を徴収する場合もあります。その辺りも石板に書いてありますので、受注前にはよくご確認ください。他に常設依頼というものもあって、それは受注手続きが必要ありません。主に素材などの採取依頼ですね。現物を持参いただければ報酬をお支払いします」
「なるほど、他には?」
「冒険者ギルドの説明としてはこんな所です。あとは、暴力沙汰などの問題行為を起こしたら出入り禁止になるとか、常識の範囲内の事ですね。早速依頼を受けていただくこともできますので、よかったらボードをご覧になっていってください」
笑顔で勧めてくれるエリスさんにお礼を言って、俺達は奥の壁へと移動し、まばらに吊ってある石板を読んでいく。
<対モンスター依頼>
・リザードマン討伐 C級パーティ以上推奨 場所:マヌス湖畔 依頼主:マヌス村 成功報酬15万アストル
あ、やっぱりいるんだモンスター。
・ゴブリン討伐 D級パーティ以上推奨 場所:リーヒル村北の森 依頼主:リーヒル村村長 成功報酬7万アストル
・アスマラまでの道中護衛片道 11/6出発 五日間予定 C級以上限定で三名 食事支給 依頼主:アセム商会 報酬一人5万アストル 預かり金10万アストル 残り一名
あ、この世界にも日付あるんだ。今日何日なんだろう?
近くにいる人に訊いてみたら、11/2だそうだ。寒いわけだ。
とりあえずモンスターが出るのは無理っぽいので、他の依頼を探す。
<商業依頼>
・重量物運搬 力自慢五名求む 11/4朝ハンサ商会集合 依頼主:ハンサ商会 日当4000アストル 預かり金8000アストル 残り二名
はい却下、絶対無理。
預かり金というのが気になったので受付のお姉さんに訊いてみると、依頼を受ける時点で指定額をギルドに預け、依頼達成時に返却されるが、未達成になったりサボって逃げたりしたら没収され、そのお金で臨時の人を雇うのだそうだ。
臨時の依頼は通常より報酬がいいので、それを目当てにギルドにたむろしている人もいるとの事。なるほどね。
他にもいろいろ依頼を見ていくが、どうにもこれといった物は見当たらなかった。
常設依頼の方も見てみたが、なんとか草の採取とかなになに茸の採取とか、聞いた事もないものばかりで、とても探せる気はしない。
やはり世の中、そう甘くはないようだ。
妹は<その他の依頼>の所にあった
・絵のモデル 15歳以下の女の子限定 委細面談 日給3万アストル以上……
というのに興味を示していたが、いやそれ絶対アカンやつやからな。
結局その日はこれといった収穫はなく。明日の朝依頼が多い時にまた来てみようという事で、早めに宿に帰る事にした。
これから大丈夫なんだろうかという不安がますます強くなる……。
11/2時点での大陸統一進捗度 0%
資産 所持金 45万7800アストル(-900)
配下 なし




