第4話:恋愛観と、作品感
その日の放課後、旧図書館で廣川さんと二人でいた。
魔法を解く調査をすることになったのだが、その前に、こっそりと旧図書館の奥でキスをした。
どこか業務的で、僕も以前ほど取り乱したり、変な感情に苛まされたりすることは少なかった。
それは廣川さんも同じらしく、どこか諦めたような表情をしていた。
「うがいはしなくていいの?」
「家に帰ったらしますよ。先輩こそ嫌じゃないんですか?その、私なんかが相手で」
「嫌といえば嫌かな。恋愛でもないのに、キスするのって」
「そうですよね」
「ちゃんと好きな人としたいし。そもそも、こういうのは自分のポリシーとはちょっと違うかな」
「真面目ですね」
「好きな人には、ちゃんと真面目に向き合いたいんだよ。好きだって言える、責任を持てる立場になってから」
「変わってますね。好きな人相手だったら良いんじゃないですか?責任とか考えなくても」
「そう?」
「はい。でも何となく先輩の人柄が見えました」
そんなくだらない会話をしながら、魔法の本を探していった。
しかし、見つけた数冊の中に、呪いを解く方法なんてものは載っていなかった。
結局、魔法をかけた時の本を二人で読み解き、意味を反転させた文章を作って詠唱してみたりした。
「で、どう? 治ってそう?」
「分かりませんよ。魔法がかかった時も時間差でしたし」
「明日にならないと分からない、ということかな」
「でしょうか」
「気持ちの方はだいぶ落ち着いた?」
「ぜんぜん。実際は、とても怖いですよ。治っていなかったらどうしようって。まだ少し、先輩を欲してしまうような感覚もありますし」
「まあ、そうだよね……ごめん。ちょっとデリカシーなかったかな」
「いえ。相手が先輩だったのは、不幸中の幸いというか、ほんの少しだけ希望は見えています」
「それは良かったけど、言うほどいい人間じゃないよ」
「そうですか? さっきの恋愛観とか聞くと、今の私の弱みを握って、変なことを要求してくるような悪人じゃなさそうで、少し安心しています」
「弱みを握るって?」
「だってそうでしょ? 私は先輩なしでは生きるのが辛い。キスしてほしければ言うことを聞け、って言われたら……」
「いいの? そんなこと言って。じゃあ、そうだな……ラーメン奢って、とか」
「ね、それくらいでしょ。エッチなこととか無理なことを要求しない人だ、くらいには信頼できそうかなと」
「まあ、そうかもね……」
なんとなく語った恋愛観だけど、廣川さんに安心感を持ってもらえたなら、それはそれで良かったのかもしれない。
「だから、ラーメンくらいは奢りますよ? 先輩、明日、土曜日のご都合は?」
「特にないよ。ネトフレで見たかったVガソのシリーズを見たいなとは思ってたけど」
「その、明日、一緒に遊んでみませんか?症状が続くなら、そばにいてもらいたいですし、せっかくなのでラーメンを食べに行きましょう」
「いいけど、どうして?しんどくなったらどこかで落ち合えばよくない?ラーメンも冗談だから、気にしなくていいのに」
「いえ、個人的に、もう少し先輩のことを知りたいんです。知らない人とファーストキスしたって怖いじゃないですか。少しでも知っていれば、あとで振り返って、まあ、仕方がないかって思えるかなって」
「すごい嫌な奴かもしれないよ? 後悔しない?」
「嫌な奴だったら嫌な奴で、それでいいじゃないですか。堂々と、治療行為だったって胸を張ります」
「別に今でも、治療行為として胸を張ればいいんじゃない?」
「理屈上はそうかもしれませんが、気持ちの問題です。知らないと怖いですから。だから、一緒に遊びませんか?」
「いいけど、どこで何する?」
「あー、えっと、何も考えていませんでした。どこか行きたいところは?」
「特にないかな」
「私も、本屋くらいしか……」
お互いの趣味とか、どんなゲームをするのかとか、そんな話をしつつ、結局、明日は午前中に市立図書館で呪いを解く方法を探した後、お昼にラーメンを食べて、その後に郊外モールの本屋に行くことになった。
帰り際、また業務的なキスをする。
ただ、最初にした時より、廣川さんの雰囲気は軽かった。
「今日は先輩のことを少し知れて良かったです。そうだ、オススメのガソダムで、ネトフレで見られるやつ教えてください」
「とりあえず、初代劇場版三部作だけど、別に興味ないなら見なくたっていいよ。無理に話を合わせようとしなくても」
「あの、先輩。私が先輩のことを知ろうとするのは嫌でしたか?」
「いや、そういうわけじゃなくて。なんか、一方的に無理させてない? 確かに今、廣川さんは僕に依存している関係だけど、無理に合わせる必要はないと思う」
「別に無理に合わせているわけじゃないですよ。純粋に知りたいだけです。趣味が合わなかったら、いっぱいうがいしておきますし」
「それはそれで傷つくな。ガソダムは名作だけど、人を選ぶかも知れないからなぁ」
「まぁ、冗談ですよ」
「じゃあ、僕も廣川さんのオススメを何か教えてよ。見ておくから」
「え? 私のオススメですか?男の人が見ても面白くないと思いますよ?」
「今どき、男向けとか女向けとか気にするのも、なんか違わなくない?」
「えっと、異世界転生女主人公目線の溺愛ものですけど」
そう言って、廣川さんはスマホでWeb小説のURLを送ってくれた。
「分かった。見ておくよ」
「あまり夜更かしして、明日遅刻しないでくださいね。朝十時ですよ」
「そっちこそ、ガソダム面白いから、イッキ見はしないこと」
「実は私、徹夜でイッキ見、得意なんですよ」
「自分も。抜け出せなくなるタイプ」
「めっちゃ分かります」
初めて、二人で目を合わせて笑い合った。
その時、僕も、廣川茜という女の子のことをもう少し知りたいなと、純粋に思ったのだった。




