第2話 ミレイユの心配事
――その日の夜。
ミレイユは自室でソファに腰を下ろし、クッションを抱きしめて頭を抱えていた。
(大変なことに気づいてしまいました……っ)
エステルが語っていた、アルヴィンが学年首席だという話。成績が優秀なのは素晴らしいことだ。アルヴィンの日々の努力の賜物なのだから。だが、この事実は一つの問題を生んでしまう。
勉強熱心で努力家なアルヴィンである。その熱意は学院の科目だけに留まらず、領地経営にも向けられている。優秀な彼のことだから、侯爵から後を継ぐ頃には相応の知識を有している可能性が高い。つまり。
(もしかしなくても、アルヴィン様に私は必要ないのでは……?)
ミレイユが侯爵のお眼鏡に適ったのは、侯爵領の安定した運営のため。だが、アルヴィンはこのまま成長すれば優秀な領主になることを期待できそうだ。
侯爵家の跡継ぎとなった今、アルヴィンにとって、ミレイユとの婚約はメリットが薄れてしまっているのではないだろうか。
マグノリア子爵家は領地こそそれなりに豊かだけれど、家格は貴族の端っこにぶら下がっている程度。結婚して莫大な持参金が得られるわけでもなく。
(考えれば考えるほど、私との結婚にメリットがありません)
後ろ盾がしっかりとした名家の令嬢と新たに婚約を交わすほうが遥かに建設的である。一度破談になったところで、アルヴィンなら引く手数多だろうし。
(私、このままではアルヴィン様に捨てられかねないのではないでしょうか……っ!?)
一瞬青褪め――いやいや、と頭を振る。
家督を手に入れるのに利用するだけ利用して、用が済んだらポイするような人では流石にない、はず。だが――。
(この先なんのメリットもないお荷物の婚約者では、アルヴィン様に申し訳が立ちません……)
総合的には子爵家の方が美味しい想いをしていて、このままではこの婚約は天秤のつり合いが取れていない気がした。
何か他にも、ミレイユとの婚約にメリットはないものだろうか。
うんうんと頭を悩ませていたミレイユは、ふと立ち上がり、姿見の前に移動した。
部屋着を纏った、すらりとした令嬢の姿がくっきりと映っている。
(我が家に価値がないのなら、私自身が価値ある令嬢になるというのは、ありなのでは……?)
他者から美人と褒められる機会はあれど、中身が伴っていない自覚はある。昼休みには可愛げがないとはっきり言われ、オスカーには血も涙もない冷たい女だとすら告げられた自分。
世間一般では、哲学よりも詩を好み、砂糖菓子のようにふわふわと微笑み、何も知らない天使のような令嬢が淑女の理想像だとされる。
ミレイユが世間的に見て理想的な令嬢になればアルヴィンにとっても自慢になるだろうし、結婚する価値というのも出てくるのではないだろうか。
これだ、とミレイユは瞳を輝かせた。
「何事も挑戦あるのみです。試してみましょう……っ!」
よしっと気合を入れるのだった。




