第1話 学年首席
「流石ね、ミレイユ。また首席だわ」
廊下に張り出された夏期試験の席次を見上げて、友人のクララが感心するように言った。
成績上位者二十名が書き出された順位表の一番上には、ミレイユの名前が輝いていた。
特段、試験勉強に熱を入れて臨んだわけではないけれど。日々の努力が実を結ぶのは、純粋に嬉しい。
友人たちからの賛辞にミレイユがはにかんでいると。
「ミレイユ・マグノリア!」
喧騒の中で、つんざくような令息の声が響き渡った。叫ばれた自身の名に、ミレイユは目を瞬かせる。
人波をかき分けてやって来たのは、同学年の令息。クローゼフ伯爵家の長男チェスターだ。
所属するクラスが異なる彼は、ミレイユと目が合うとふん、と鼻を鳴らした。
「今回はちょっと調子が悪かっただけだ。僕に勝っただなんて思い上がらないでくれよ」
ミレイユはちらりと席次に視線を送った。学年次席には、チェスターの名前が載っている。
「『ちょっと調子が悪かった』って、前回も前々回も、ミレイユに負けていたじゃない」
ミレイユの友人がぼそりと突っ込めば、チェスターはう、と言葉を詰まらせた。ごにょごにょと言い淀んでいた彼が、捲し立ててくる。
「だいたいだな、女は頭が弱い方が愛嬌があって好かれるんだ。お前のように賢しい女は敬遠される。少しは身の振り方というものを意識すべきだと思うがな」
ミレイユはにっこりと微笑んだ。
「つまり、私が殿方からの好感度のために故意に手を抜いて試験に臨まなければ、クローゼフ伯爵令息は私に敵わないとお考えなのですね」
チェスターが目を剥いた。
「いちいち嫌味な言い回しだな! そんなだから、婚約者に捨てられるんだぞ! 可愛げの欠片もないっ」
「すでに新しい婚約者がおりますので、過去の婚約解消は些事かと」
ぴしゃりと言えば、彼はますます顔を怒りに染めて――。
「その調子じゃ、新しい婚約者とやらからも捨てられるのは時間の問題だろうな!」
吐き捨て、乱暴な足取りで去っていった。
ミレイユはほう、と嘆息する。
チェスターという生徒はよほど負けず嫌いなのか、こうして試験のたびに噛みついてくるのだから、困ったものである。
もはや恒例行事だった。
「気にする必要ないわよ、ミレイユ」
「オリビアの言う通りだわ。あんなろくでなしの言葉、真に受けるだけ時間の無駄というものよ」
「そうそう、アルヴィン様と言えば」
話題を切り替えるように、エステルがぱん、と両手を合わせた。
「今回の試験、一年生の学年首席はアルヴィン様と聞くじゃない? 首席同士で婚約者だなんて、素敵なお話ね」
「そうなのですか?」
科目数の違いで、一年生の試験は一足早く終了している。アルヴィンが首席と言うのは初耳だった。
「ええ。同学年の妹が話題にしていたから間違いないはずよ」
(アルヴィン様が、学年首席……)
アルヴィンは常日頃から勉強熱心だ。
彼の努力が報われることは喜ばしい。喜ばしいのだけれど。
ミレイユはとある可能性に思い至り、ちょっぴり顔色を悪くするのだった。
今話から主要人物の学年設定を変更しております〜!




