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【連載版】幼馴染ばかりを優先する婚約者には、愛想が尽きましたので  作者: 雪菜


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2/22

第2話 ミレイユの婚約事情

 休日の朝。ミレイユはマグノリア子爵邸の応接間で、オスカーの来訪を待っていた。


 今日は午後から、とある伯爵主催のガーデンパーティに招待されている。

 元々はバークライト侯爵が招かれていたパーティだったが、侯爵の名代をオスカーが務めることになり、婚約者としてミレイユも同伴する予定になっていた。だが、待てど暮らせど、オスカーが一向に現れない。約束の時間はとっくに過ぎていた。


 ミレイユは小さくため息をこぼす。


(本日も、お約束のお約束……だわ)


 観劇、演奏会、夜会。昔からオスカーはミレイユとの約束をすっぽかしがちだ。事前の報せがなく、何時間も待ちぼうけを食らうことも度々あった。


 友人と遊んでいた。単純に億劫になってドタキャンした。理由は数あったが、最たる要因はオスカーの幼馴染、キャスリーン・ホプキンスだった。


ミレイユよりも付き合いの長い幼馴染を、オスカーは殊更に優先しがちだった。その日はキャスリーンと約束ができた。お前とはいつでも外出できるのだから、今回はキャスリーンを優先させてくれ。

 先約はミレイユなのに、そう言ってすっぽかされた回数は片手の指では足りない。耳にタコができるくらいに聞き慣れた常套句。婚約者のミレイユは軽んじるのに、オスカーは同い年の幼馴染をお姫様のように扱っているのだった。


(キャスリーン様を姫君のごとく扱っているのは、オスカー様に限った話ではないけれど)


 キャスリーンはいつだって、学内で多くの男子生徒に囲まれている。可憐で小動物のように愛くるしい令嬢に、多くの令息が首ったけなのだ。学院に在籍しているこの国の第二王子ですら、彼女の前では跪く。己よりキャスリーンに夢中な婚約者に腹を立てている令嬢は、学内にそれなりに存在した。


 まあ、中でも一際べったりなのが、自身の婚約者、オスカーなのだけれど。


「お嬢様。バークライト様がおいでになりました」


 侍女が呼びに来たので、ミレイユはソファから立ち上がった。


「応接間にお通ししている時間はないから、私が玄関まで向かうわ」


 急いで玄関に向かったミレイユは、エントランスホールに佇む人物を見て、たおやかに微笑んだ。


「ごきげんよう、アルヴィン様」


 立っていたのはオスカー――ではなく、彼より小柄で、顔立ちにあどけなさを残した、まだ少年の域を脱していない亜麻色の髪の貴公子。中性的な容貌はうっとりするくらい綺麗で、人目を惹く。


 バークライト侯爵家の次男、アルヴィン・バークライト。


 二つ年下のアルヴィンは、翡翠の瞳を揺らめかせて、整った顔に苦笑を浮かべた。


「驚かないのですね。兄様が来ないのは予想しておられましたか?」

「侯爵家の次期当主として、自覚に欠けるオスカー様ですから。お父上の名代という大切なお役目すらも普段の感覚で投げ出すのは、想像に難くありません」


 ミレイユの目から見て、オスカーという人は侯爵家の嫡男としての自覚に著しく欠ける人だった。


 友人や幼馴染と遊ぶことにかまけて勉学を疎かにし、卒業後に必要になるであろう領地経営について学ぶ気配もなく。そのことを度々両親から叱責されているのに、改める気配など皆無。また、社交に対する意識も低い。悪友たちとは積極的に遊ぶのに、将来のための人脈づくりには消極的。先が思いやられるばかりである。


 オスカーがミレイユとの約束を放り出す時、弟に代役を任せる。これも、お約束だった。


 ミレイユがアルヴィンと顔を合わせるのは、ひと月ほど前にオスカーと約束していた観劇に代役で付き合ってもらった時以来である。


「兄様は急用ができたとのことなので、僕が代理でエスコートを仰せつかりました」


 まだ十五歳なのに、ミレイユに手を差し伸べる仕草は非常に様になっている。彼の日々の努力の賜物だろう。


(先日オスカー様がご友人方と話していらした、キャスリーン様とのお出掛けというのは今日のことだったのかしら?)


 オスカーの急用というのは、どうせキャスリーンである。この三年間でミレイユはそう学習していた。


「共に、困った兄の尻拭いと参りましょうか」


 アルヴィンの顔には、やんわりと呆れの色が湛えられている。


 父親の名代で訪れるはずだったオスカーではなく、その弟が顔を見せれば、パーティの主催者である伯爵は不愉快に思うだろう。己を軽視している、と。嫌味を吐かれること間違いなしである。

 加えて、オスカーはまた婚約者より幼馴染を優先したのでは、と囁く輩もいるだろう。居心地の悪いパーティになるのは見えきっていた。


「少々気が重たいですが、共に務めを果たしましょう」


 淑やかに微笑んで、ミレイユはアルヴィンの手を取った。

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