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【連載版】幼馴染ばかりを優先する婚約者には、愛想が尽きましたので  作者: 雪菜
第一章

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第2話 ミレイユの婚約事情

 マグノリア子爵家の令嬢ミレイユがオスカー・バークライトと婚約を交わしたのは、三年前。互いが十四歳の時だ。

 親同士が決めた婚約関係は良好――とは、お世辞にも言い難かった。


 休日の朝。ミレイユはマグノリア子爵邸の応接間で、オスカーの来訪を待っていた。

 

 今日は午後からとある伯爵主催のガーデンパーティに招待されている。

 元々はバークライト侯爵が招かれていたパーティだったが、侯爵の名代をオスカーが務めることになり、婚約者としてミレイユも同行する予定になっている。だが、待てど暮らせど、オスカーが一向に現れない。約束の時間はとっくに過ぎていた。


 ミレイユは小さくため息をこぼす。


(本日も、お約束のお約束……ですね)


 観劇、演奏会、夜会。昔からオスカーはミレイユとの約束をすっぽかしがちだ。


 友人と遊んでいた。単純に億劫になってドタキャン。理由は数あったが、最たる要因はオスカーの幼馴染キャスリーン・ホプキンスだった。


 ミレイユよりも付き合いの長い幼馴染を、オスカーは殊更に優先しがちだった。その日はキャスリーンと約束ができた。お前とはいつでも外出できるのだから、今回はキャスリーンを優先させてくれ。

 

 先約はミレイユなのに、そう言ってすっぽかされた回数は片手の指では足りない。婚約者のミレイユは軽んじるのに、オスカーは同い年の幼馴染をお姫様のように扱っているのだった。


(キャスリーン様を姫君のごとく扱っているのは、オスカー様に限った話ではありませんけれど)


 キャスリーンはいつだって、学内で多くの男子生徒に囲まれている。可憐で小動物のように愛くるしい令嬢に、多くの令息が首ったけなのだ。己よりキャスリーンに夢中な婚約者に腹を立てている令嬢は学内に結構いて、キャスリーンは同性からの評判があまりよろしくなかった。


 まあ、中でも一際べったりなのが自身の婚約者、オスカーなのだけれど。


「お嬢様。バークライト様がおいでになりました」


 侍女が呼びに来たので、ミレイユはソファから立ち上がった。


「応接間にお通ししている時間はないから、私が玄関まで向かいます」


 急いで玄関に向かったミレイユは、エントランスホールに佇む人物を見て、おっとりと微笑んだ。


「ごきげんよう、アルヴィン様」


 立っていたのはオスカー――ではなく、彼より小柄で、まだ少年の域を脱していないあどけない顔立ちをした鳶色の髪の貴公子。


 バークライト侯爵家の次男、アルヴィン・バークライトだ。


 二つ年下のアルヴィンは、髪色よりも若干色味の薄い瞳を揺らめかせて、整った顔に苦笑を浮かべた。


「驚かないのですね。兄様が来ないのは予想していましたか?」

「侯爵家の次期当主として自覚に欠けるオスカー様ですから。お父上の名代という大切なお役目ですらも、普段の感覚で投げ出すのではないかと思っておりました」


 ミレイユの目から見て、オスカーという人は侯爵家の嫡男としての自覚に著しく欠ける人だった。


 友人や幼馴染と遊ぶことにかまけて勉学を疎かにし、卒業後に必要になるであろう領地経営について学ぶ気配もなく。そのことでよく両親から叱責されているのに、改める気配はない。また、社交に対する意識も低い。悪友たちとは積極的に遊ぶのに、将来のための人脈づくりには消極的。先が思いやられるばかりである。


 オスカーがミレイユとの約束を放り出す時、弟に代役を任せる。これも、お約束だった。


 ミレイユがアルヴィンと顔を合わせるのは、ひと月前にオスカーと約束していた観劇に代役として付き合ってもらった時ぶりである。


「兄様は急用ができたとのことなので、僕が代理でエスコートを仰せつかりました」


 まだ十五歳なのに、ミレイユに手を差し伸べる仕草は非常に様になっている。彼の日々の努力の表れだろう。


(先日オスカー様がご友人方と話していらしたキャスリーン様とのお出掛けというのは、今日のことだったのかしら?)


 オスカーの急用というのは、どうせキャスリーンである。この三年間でミレイユはそう学習していた。


「共に、困った兄様の尻拭いと行きましょう」


 アルヴィンは柔和な面立ちに、やんわりと呆れた色を湛えている。


 父親の名代で訪れるはずだったオスカーではなくその弟が顔を見せれば、パーティの主催者である伯爵は不快に思うだろう。己を軽視している、と。嫌味を吐かれること間違いなしである。

 加えて、オスカーはまた婚約者より幼馴染を優先したのでは、と囁く輩もいるだろう。居心地の悪いパーティになるのはわかりきっていた。


「少々気が重たいですが、共に務めを果たしましょう」


 淑やかに微笑んで、ミレイユはアルヴィンの手を取った。

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