表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】幼馴染ばかりを優先する婚約者には、愛想が尽きましたので  作者: 雪菜
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

第6話 侯爵家の憂い

 オスカーが右手を振り上げた瞬間、ミレイユの視界に鳶色の髪が飛び込んできた。


 ぱんっと乾いた音が響く。


「……っ」


 オスカーの平手打ちを食らったのは、割って入ったアルヴィンだった。

 

「アルヴィン様――っ」


 ミレイユは蒼白になって、アルヴィンの顔を覗き込む。大丈夫ですから、とやんわり微笑んだ後、アルヴィンは滅多になく厳しい目で兄を見上げた。


「兄様。女性に手を上げようとするなんて、どうかしていますよ……っ」

「どうかしているのはこいつだ! 俺が必死に頭を下げているんだぞ! だというのに、まともに取り合いもせず、あまつさえ嘲笑うなどとっ」


 憤慨するオスカーに、ミレイユは眉根を寄せる。


「嘲笑ってなどおりません。事実をお伝えしたまでです」

「事実というなら、次男が家督を継ぐなど侯爵家の恥。長男である俺が継ぐべきだろう!」

「まだそんなことを……」


 呆れて仕方ないと言わんばかりに、アルヴィンが嘆息する。往生際の悪いオスカーに、ミレイユも困り果ててしまう。


「何を騒いでいる」


 鋭い声は、バークライト侯爵のものだった。騒ぎを聞きつけて様子を見に来たらしい。


「何事だ、これは」


 三人を順に見渡して、侯爵が双眸を眇めた。


「いえ、その……」


 旗色が悪くなって口ごもるオスカーに代わって、ミレイユが前に出る。


「オスカー様が、家督の件で私にお父君を説得して欲しい、と」

「通りかかったら、兄様がミレイユ様に手を上げようとなさっていたので、僕があいだに入りました」


 途端に、侯爵の顔が険しくなった。頭痛を堪えるように額を押さえて、侯爵はオスカーを睨み据える。

 

「オスカー。不満があるならこれからはミレイユ嬢ではなく、私のもとへ直接来なさい」

「ですがっ、父上は俺の話など取り合ってはくださらないでしょう!」


 オスカーの反論に、侯爵は冷ややかに応える。


「実のある話なら、私も耳を傾ける。これ以上ミレイユ嬢に負担を強いるようなら、家を継げなくなるだけでは済まなくなるぞ。ミレイユ嬢。私の執務室に」

「はい」


 反射で頷いてから、ミレイユはハッとなる。

 

「あ、いえ。先に氷を取りに行ってもよろしいでしょうか?」


 アルヴィンをちらりと窺う。頬は腫れてはいなさそうだけれど、わずかに赤くなっている。冷やした方がいいと思うのだ。

 

 目が合うと、アルヴィンは苦笑した。

 

「一人で大丈夫ですから、ミレイユ様は父様と話をしてきてください」

「でも……」

「きちんと処置しますから。そんなに心配しないでください」

「……わかりました。しっかり冷やしてくださいね? 後で確認に参りますから」


 念を押すと、アルヴィンはくすくすと笑って、わかりました、と頷く。


 ホッと胸を撫で下ろして、ミレイユは侯爵の背中を追いかけた。

 


◆◆◆◇◆◇◆◆◆


 

 執務室に入ると、書斎の椅子に腰を下ろした侯爵は深々と息を吐き出した。


「すまなかったな、ミレイユ嬢。怖い想いをさせてしまった……」


 心底申し訳なさそうな侯爵に、ミレイユはふるふると首を横に振る。


「私の方こそ、アルヴィン様を巻き込んでしまい、申し訳なく思います……」


 しゅん、と肩を落とす。黙って聞き流せばよかったのだ。

 オスカーの神経を逆撫でし、アルヴィンを巻き込んでしまったのは申し訳なかった。


「君が気に病むことではないさ。少しは懲りたかと思ったが、変わらんな。卒業後は事業の一部を任せるつもりでいたが、これでは……今後も何をしでかすやら」


 オスカーの傲慢な気質では、今後も侯爵家の長男という立場を笠に着て、至るところで衝突しそうである。後継から外されて少しは変わるかと思ったけれど、彼は相変わらずみたいだ。


「いっそのこと、鉱山送りにでもして荒波に揉まれるのがオスカーのためか……」


 ううむ、と侯爵は悩ましげな様子。


 ミレイユとしてはオスカーの将来に関してはこうすればいいのではないかな、という考えがあった。

 口にするか迷ったが、言うのはタダである。せっかくなので切り出してみることにした。

 

「おじ様。オスカー様の今後について、私に一案がございます」


 頭を抱える侯爵に、ミレイユはそう持ち掛けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ