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姫君は魔王への愛を語る


「今から1000年前、

魔王はこの世界に

生を受けた」


ミレイユは背筋を正し、記憶を辿るように

視線を下に向けた。


「彼は生まれながらにして

神に等しい強大な魔力を身に宿していた。

それ故に彼はこの世に

生を受けると同時に母を殺してしまった。」


その聞き覚えのある《《物語》》に

ディオンはピクリと眉を動かした。


「それほどまでに強い自分の息子を恐れた

父親は辺境の地に息子を置き去りにした。

2、3日と保たないだろう。

そんな甘い考えで。

しかし、魔王は生き延びた。

1日目でハイハイを覚え、

2日目でつかまり立ちを覚え、

3日目でついに歩けるようになった。

4日目には魔法を自在に扱えるようにとなる。

魔王は父親の想像を遥かに

超える生命力と器用さを持っていた。

周囲の魔族は赤子の魔王を天才だと崇め、

城を築き、彼を建国の王に据えた。


赤子から少年へと変化を遂げた魔王は、

戦闘狂となり、毎日のように他国と争っていた。

魔法と剣の才がずば抜けている彼に勝てるものなど

おらず、滅亡する国は数知れず。

赤い瞳を不気味に光らせ、魔王は言葉を紡ぐ。


「このわたしに挑みたいものはかかってこい!!」


返り血をペロリと舐めたその残虐さが

人々の脳裏にこびりついた。


魔王についた異名は『鮮血の魔王』。


……これは、ディオン様のお話でございますよね?」


にっこり微笑むミレイユにディオンは愕然とした。


「……何故、お前がその話を知っている……」


それは、他国では知り得ない自分の物語だった。


かいつまんでではあるものの

本の内容やセリフまで

ミレイユは言い当てた。


魔国でわたしの本を手に入れたのか?

いや……姫は魔国に到着してすぐにわたしの城に

来たと聞いている。


ならば、何故本の内容を知っている?


この娘は一体何者だ……?


そんな疑問が頭の中に渦巻く中

ミレイユは自慢げに手を腰に当てた。


「ふふふっ、何故ですって?

……それは、わたくしが……」


まさか、姫も魔族なのか?

ごくりと息を呑むディオン。


「わたくしが、ディオン様の

古参ファンだからですわ!」

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