3.計画を壊す者
エルと一緒に闘技場の会場へ行くと、アレクさんとロザリー、近衛騎士の面々と隊長さんが居る。
「ようやく起きたのかい」
「え?…はい」
私が寝てたこと、知ってるよね。
「こんなところで何やってるんだ?」
「フォルテの移動も済んだから、そろそろ撤収しようと思っていたところだよ」
「フォルテの移動?」
会場を見ると、フォルテが会場の中央から端の方に移動している。
あれ?斑の光がまだ残ってる。
「閉会式の邪魔になるから、移動させていたんだよ」
「俺はその助っ人ってわけだ」
だから隊長さんが居たんだ。
…フォルテ、死んでるんだよね?
死んでも、光ってすぐには消えないのかな。
「はじめまして。エル」
ロザリーがエルに会釈をする。
「はじめまして?違うだろ」
そうだ。私がバーレイグだってばれちゃったから、ロザリーがエルと一緒に観戦席に居たこと、気づいてるよね。
「大会二日目に、顔を合わせてるはずだ」
「まぁ。エルは、あれが私だったと思っているんですか?」
「え?違うの?」
「え?違うのか?」
だって、確か…。
「ふふふ。冗談です」
皆が笑ってる。
ロザリーは真顔で冗談を言うから、どっちかわからない。
「ロザリー。これ以上、からかうものじゃないよ」
「エルは本当に素直な人ですね。…大会一日目の午後からずっと、リリーシアの代わりにアレクの隣に居たのは私です」
「一日目の午後から?」
「あの、それは…」
「レクスの正体がエルだと気づいたリリーシアが、稽古をしたいと言うので。私が代わりを務めることになったんです」
エルには、まだ何も話してないのに。
「なんで俺だってわかったんだよ」
「だって、あんな動きするのエルだけだから」
今でも覚えてる。風のように舞うエルの動き。
エルは金色の光を持ってるって思いこんでなければ、もう少し早く気づけたと思うんだけどな。
「エル。自己紹介を続けて良いですか?」
「自己紹介?」
「はじめまして、エル。…ずっと会いたかった」
「俺もだよ」
本当に、ずっとすれ違いだったから。
良かった。会うことが出来て。
「ロザリーと申します。よろしくお願いしますね」
「エルロックだ。よろしく」
「本当に金髪にブラッドアイなんですね。びっくりしました」
そういえば、ブラッドアイの人は黒髪だって言ってたっけ。
確かに、珍しい容姿なのかも。
「真空の精霊を連れてるんだって?」
「はい」
『ふふふ。久しぶりねぇ、ルキア』
『ユール!元気そうね』
『当然よぉ。ルキアも元気そうで良かったわぁ』
『最近見かけないと思ってたら、メディシノでもない男の子と契約してたなんて。本当に変わってるわねぇ』
『エルは特別だものぉ』
ユールとルキアが上空でお喋りしてる。
「っていうか、優勝決定戦はどうなったんだよ」
「優勝者は閉会式で陛下が発表されるよ」
「え?勝負がついてないのに?」
「閉会式では試合は行わない。それが現時点で決まっている唯一のことだよ」
エルとはもう、戦えないんだ。
アレクさんが笑う。
「不満そうだね。でも、おそらく優勝はリリーシアだよ」
「だろうな」
「どうしてですか?」
「審判が試合の中断を宣言する前にエルは試合放棄と取れる行動をしていたからね。エルは君に対し、無防備な背を晒した」
フォルテを見つけて、私の上を飛んでいたエルが着地した直後。確かに、エルは私に背を向けてフォルテを仰ぎ見たけど。
「あれは、フォルテが来たからです」
「そのフォルテに止めを刺したのも君。戦功からも君を優勝者として選びやすい」
「でも私、フォルテの上では酔ってたから、ちゃんと戦えたわけじゃないです」
「なんだって?」
『船酔いと同じ感じになってたみたいだよ』
「なんで言わなかったんだよ」
「あの、大丈夫だったよ。立っていられないほどじゃなかったから」
「良くない。無茶するなって言ってるだろ」
「…ごめんなさい」
『ナターシャは平気だったの?』
『上空で揺れなんて感じないわ』
そうだよね。精霊が空中で酔うわけないよね。
「だから、優勝者に選ばれるなんて…」
「良いんだよ。どうせ、俺の負けが確定してる試合だったんだから」
「え?」
「俺はリリーとは戦わないってアレクに言ってある。正体に気づいた時点で試合放棄してたんだ」
「いつ気づいたの?」
「いつでも良いだろ」
教えてくれない。
でも、試合は本気で相手してくれてたんだよね?
「リリーシア。願いは決めたのかい」
「え?願い?」
「優勝者は陛下に願いを叶えてもらえるんだよ」
『まだ決めてないの?』
「だって…」
それどころじゃなかったから。
「ロザリー。私が優勝できるかどうかわかるの、明日になっちゃうんだけど…」
しかも、すっきり優勝したとは言えない形だ。
判定勝利なんて。
こんなんじゃロザリーのお願いを叶えたことにはならない気がする。
「いいえ。十分です」
ロザリーがアレクさんに向き直る。
「アレク。話したいことがあります」
「何かな」
「私はどこまでも貴方について行きます」
「リリーシアと賭けをしていたのかい」
「はい」
「ロザリー。私が完全に君のものになることはない。君は君の望む生き方を選ぶべきだ」
「アレクは勘違いをしています。リリーシアとの賭けは、私の処遇を決めるものではありません。優勝したら、アレクに私の気持ちを伝えるように言ったんです」
アレクさんが苦笑する。
「面白い内容だね」
「皇太子アレクシスはラングリオン王国のもの。…その事実を私はわかっています。それでも私は、これまでのようにアレクの傍に居たい」
アレクさんがロザリーの手を取って、手の甲に口づける。
「君が願うなら。私が隣に置く女性は、この先ずっと君一人だよ」
「…はい」
えっと…。今の、告白?
「恋人じゃなかったのか?」
「今、恋人になったよ」
「はい」
「…それも冗談か?」
二人が笑う。
どうしてだろう。
二人のやり取りが、この前みたいにドキドキしないのは。
愛を確認し合った恋人のようには見えない。
だって、一番大切な言葉は言わずに終わってしまった。
これで良かったの…?
「リリーシア、こいつの鞘を貸してくれないか?」
バーレイグだ。
背負っていたバーレイグの鞘を外して隊長さんに渡すと、隊長さんが背負っていたバーレイグを鞘に納める。
「フォルテから抜いてくれたんですか?」
「あぁ。ちゃんと回収して来たぜ」
『少々手間取ったが。ガラハドなら十分に抜ける』
コートニー、ずっとバーレイグの傍に居たのかな。
「ガラハド。俺のイリデッセンスは?」
「まだフォルテに刺さったままだ」
「なんで抜いて来ないんだよ」
「抜けなかったんだから仕方ないだろ」
「は?」
「え?」
抜けなかったの?
「なんでバーレイグが抜けて、イリデッセンスが抜けないんだよ」
「さぁねぇ。一月以上も刺さりっぱなしだから、ドラゴンと同化しちまったんじゃないのか?」
「…取って来る」
エルがフォルテの方に走って行く。
「リュヌリアンはもう返してもらったのかい」
「えっと…。はい」
エル、私がリュヌリアンを持ってても何も言わないよね。
「ガラハド。持ち主に返却するまで、バーレイグの管理は任せたよ」
「御意」
『ガラハドが持つなら、私はアレクの傍に戻るぞ』
コートニーがアレクさんの傍に行く。
「あの…。アレクさん、バーレイグを用意してくれて、ありがとうございました」
お礼、言ってなかったよね。
「良い試合を見られたよ。君はやっぱり大剣が似合うね」
「こいつも似合うんじゃないのか?」
そう言って、隊長さんが私に向かって投げたものを受け取る。
「宝石…?」
どこかで見たような煌めき。
「フォルテのカーバンクルだ」
「カーバンクル…」
精霊の祝福の結晶だって、エレインが言ってたよね。
そして、竜殺しの証でもある。
「フォルテを討伐してくれてありがとう。ラングリオンの皇太子として礼を言うよ。陛下からも感謝の言葉を頂けるだろう」
「お礼なんて…。私…」
本当に良いことをした実感はない。
きっと、殺さなければいけなかったのだろうけど。
「君は正しいよ。誰かを殺めて正当化できる理由などない。だから、私はこの国を守る立場から感謝しよう。国の脅威に対し立ち上がり、フォルテ討伐に関わった者の功績を称える」
「はい」
アレクさんは、強い。
すべてを自分の責任にできる人だ。
「…あれは」
『何?あの光』
「え?」
アレクさんの視線の先。エルが居る場所…。
フォルテの体から飛び出した斑の光が、真っ直ぐ、宵の空に向かって伸びる。
その光を中心として、天空で黒い雲が渦巻くように広がる。
あの黒い雲は、見たことがある。
「ロザリーを安全な場所へ」
アレクさんがフォルテに向かって魔法で飛ぶ。
「嫌な感じだな」
「マリユス、ロザリーの護衛は任せたよ。エミリーとライーザの所へ」
「はい。ロザリー様、こちらへ」
ヴェロニクさんの指示に従って、マリユスがロザリーを連れて闘技場を出る。
「リリーシアはどうするの?」
「私も戦います」
だって、あの雲、前にも見たことがある。
「ベネトナアシュが…」
「出て来るのはベネトナアシュじゃないかもな」
フォルテの上。光の柱の傍に、エルとアレクさんが居る。
その光の柱が消えたかと思うと、上空の雲から放たれた雷光がフォルテのすぐそばに落ちて…。
浮遊する人間が現れる。
この人、前に会った人じゃない。
「思ったよりも力が戻ってこなかったな」
良く響く、男の人の声。
この声は…。
―アーク、リフィア。
あの時、脳内に響いた声と同じなのに。
持っている武器だって、ベネトナアシュと同じ紅の剣なのに。
どうして姿が違うの?
白髪に紅の右眼。…左眼は何故か開いていない。
「そういえば、今の人間は私のことを知らないんだったな」
その人が高く飛ぶ。
まるでレイリスみたいな飛び方。
人間って、飛べないんじゃ…?
「さぁ、歓迎するが良い。お前たちの神の復活を」
脳に直接響くかのような高らかな声。
「私こそが、この地上を支配する神。お前たち人間を祝福する人間の神だ」
人間の神…?
どういうこと?
「さて、配置を決めておくか」
「え?」
配置?
「グリフは左翼、ツァレンとローグは右翼。…場所を選ぶのは難しいが、戦闘が始まるまで待機だ」
「了解」
「了解」
「了解」
「シールとロニーは後方支援。特に、エルの援護を頼んだぜ」
「了解」
「了解」
「殿下が何を考えてるか知らないが、エトワールとして動け。今、闘技場の観客席にいる連中もエトワールだ」
エトワール?
「以上。散開」
近衛騎士が返事をして、ばらばらに走って行く。
「あの…。アレクさんの近衛騎士なのに、隊長さんが決めて良いんですか?」
「今は団長だぜ」
「団長…?」
どういう…。
あ。
隊長さん、襟にブローチをつけてる。
「アレクさんから、エルのことを任されてるんですね」
「そういうことだ」
「浮いてる人と戦うんですよね?」
「浮いてる人、ねぇ」
今は、何故かエルとアレクさんを攻撃せずに話しをしてるみたいだけど。
「戦うかはまだ決まっていないが。あいつはアルファド帝国に力を与えて圧政をさせた元凶だぜ」
「でも、前に見たベネトナアシュとは全然姿形が違います」
「そうだな。俺も初めて見るぜ。封印されていた本体なんて」
封印?
本体って…。
「コールポ?」
「良く知ってるな。エルが調べたのか」
「はい。でも、これって転移の魔法陣を使う時の言葉じゃないんですか?」
「魔法陣の言葉でもあるが…。それだけしか言ってなかったか?」
他にも意味があるんだ。
「エルは、私には何も教えてくれないから…」
「あいつは大昔に人間と精霊によって、封印の棺に封印された人間だ。本体はずっと神の台座で封印されていたはずだが」
―考えられるとすれば、どこかの棺が開いたってことだろうな。
―それか…。
「封印に失敗していたのか、誰かが開いたのか。そもそも封印から逃れた一部があったのか。あいつは外部との干渉が可能だったらしい。その力でアルファド帝国を実質支配してたんだ」
「どうしてそんなこと知ってるんですか?」
「俺は初代国王と共に、バーレイグでベネトナアシュ討伐に関わってるからさ」
「やっぱり、あれは隊長さんだったんですか?」
「なんだ。驚かないのか」
「オルロワール家で見た英雄の絵が、髭のない隊長さんの顔だったから。…ロザリーみたいに眠ってたんですか?」
隊長さんが笑う。
「まぁ、不老なんて色んな理由でなるからな」
ロザリーとは違う方法なんだ。
「ベネトナアシュとあの人は何が違うんですか?」
「ベネトナアシュは実在したアルファド帝国の最終皇帝だ。その首も斬り落とされたんだが、御使いとして肉体を使われてるみたいだな」
「御使いって…。じゃあ、本当にあの人は神さまなの?」
「本人はそう名乗ってるが、元は人間だったんだよ」
神になった人間?
「あの人の名前って?」
「色んなのがあるぜ。有名なのならサンゲタルにユッグ。バーレイグもそうだな」
サンゲタルは、真実をおしはかる者の章。
ユッグは、恐ろしき者の章。
バーレイグは、炎の眼差しを持つ者の章。
「名もなき王…」
「それもあいつを表す言葉だな」
神の章は。
「ヴェラチュール」
「その名を冠した剣は、聞いたことがないな」
名剣の名前。名もなき王の名前。それは全部、あの人を指す名前。
「リグニス、アルディア、ルミエール。この三人が、その技術の結晶として作り上げるのは、あらゆる魔法に対抗できる剣なんだぜ」
魔法に対抗?リュヌリアンと同じ?
「バーレイグも、魔法が斬れるんですか?」
「もちろん。神に対抗するために作られた剣だ」
リュヌリアンも、あの人の力に対抗できる剣なんだ。
浮遊する人に視線を移すと、フォルテの上に居たアレクさんが地上に降りたのが見える。
アレクさんが持っているのはエイルリオンだ。
あれ…?この景色…。
アレクさんがエイルリオンから手を離すと、エイルリオンが刃を下にした状態で浮く。
「聖母ヴィエルジュよ。アークトゥルスの契約代行者、アレクシス・サダルスウドの名の元に、契約の終了を宣言する」
待って…。
「エイルリオンをその御手に返還し、エイルリオンと共に在った、すべての精霊の解放を願う」
夢と同じ。
急に立っている場所が揺れて、膝を突く。
「大丈夫か?」
どうして、夢と同じなの?
「だめ!」
地面から現れた輝く蔦がエイルリオンに絡まって、花を咲かせる。
急いで、アレクさんの傍に行かなきゃ。
『リリー?待ってよ』
このままエイルリオンが消えて、エルがアレクさんに近づいたら。
「だめ!アレクさん!」
蔦がエイルリオンの全身を覆うけれど、夢とは違う動きをする。
胸が熱い…。
胸元で光を放つ紋章を外に出す。
剣花の紋章が、光ってる。
『契約の終了か。継続か』
聞いたことのない声。
「継続!」
終了なんてさせない。
「リリー!」
エルが私の傍に来る。
「アレク。何やってるんだよ」
光が収まって、蔦が消えて。
エイルリオンだけがその場に残る。
…良かった。
「失敗したな。紋章にある宝石はエイルリオンの契約の証。君が契約の終了を拒否してしまうと、エイルリオンを返還できないんだ」
―さぁ、これで因縁も消えた。
―ヴェラチュール。
―私は完全に人間が支配する、人間の為の世界を創ることを約束しよう。
「人間の為の世界なんて。アレクさんが目指してるものはそんなものじゃないですよね」
「君には、ポラリスのような力でもあるのかい」
「また夢と同じだったのか?」
「うん」
だって。この後、エルがアレクさんに刺されて…。
「仕方ないな。作戦は変更。今、ここであいつを仕留めるとしよう」
「…は?」
アレクさんがエイルリオンの切っ先を浮遊する人に向ける。
「ヴェラチュール。私はエイルリオンを持つ宿命に従うしかないようだ」
「残念だな。お前となら上手くやれると思ったのだが」
「私もそう思っていたのだけどね。この世界はもう、貴方を必要としていないようだよ」
「不要か。…確かに、神も精霊もすべて不要な存在だ。私もまた、排除される側の存在だと言うのならば。その力を私の前に示すが良い」
空から、黒い槍が降る。
「斬ります」
「援護するぜ」
私の隣に並んだ隊長さんと一緒に、黒い槍を斬る。
あの人と戦うには…。
「スタン…」
「こら!」
「んん」
エルが私の口を塞ぐ。
「言うなって言ってるだろ」
「だって…」
「封印解除の魔法を唱えてはいけないよ。君の力は、あれが欲しがっている力だ。レイリスに守られている限り干渉はされない」
同じ力…?
「あいつに攻撃できるのはアレクだけか」
「幾つか検証しなければならないことはある。リリーシア、君の瞳に…」
突然、ドラゴンの咆哮が響く。
「え…?」
紫竜フォルテが、動いてる…?
「多勢に無勢だからな。屍に働いてもらうことにしよう」
「なんでフォルテがお前の言うこと聞くんだよ」
「私の言うことなど聞かないぞ。あれは破壊と殺戮の為だけに生きる生き物。過剰な精霊の力で満たされた存在。亜精霊だ」
「亜精霊?」
ドラゴンの亜精霊?
「ガラハド、ドラゴンは任せた」
「御意」
アレクさんがエイルリオンで浮遊する人を斬ると、相手はふわり、と高く飛ぶ。
アレクさんがそれを追って飛ぶ。
「アレク!待て!」
「エル!」
エルまで飛んでいくの?
飛びながら戦うなんて無理だ。
エルがいくら魔力が強いからって…。
「どうしよう」
『下からじゃどうしようもないよ。ボクも行って来る』
「待って、イリス」
『何?』
「アレクさんが言ってたこと…」
―幾つか検証しなければならないことはある。
―リリーシア、君の瞳に…。
アレクさんが言いかけたこと。
あの人の色は、斑色。
混ざってないから良くわかる。
赤は、炎の精霊の色。
水色は、氷の精霊の色。
黄色は、光の精霊の色。
黒は、闇の精霊の色。
青は、水の精霊の色。
緑は、大地の精霊の色。
紫は、雷の精霊の色。
白は、雪の精霊の色。
黄緑は、風の精霊の色。
だから。あの人の持っていない色は、金色と、銀色。
「エルとアレクさんに伝えて。あの人は、ほとんどの魔法を使える。でも、真空の魔法と月の魔法は使えない。そして、たぶん合成魔法は使えない」
普通の魔法使いと違って、色が混ざってないから。
『わかったよ。リリー、何かあったらすぐに呼んで』
「うん」
私も援護が出来ないかな。
だってレイリスの魔法は、アレクさんとエルには効果がなくて、敵にだけ効果のある魔法。
イメージ、出来るかな。
「黄金の剣」
目の前に、金色の剣が出来る。
出来た。
アレクさんと同じもの。
…一本だけじゃ、当てられる気がしない。
もっと、たくさん作らなきゃ。
体の周囲に、金色の剣を並べる。
そして。
「飛べ!」
三人が居る場所に向かって、魔法を放った瞬間。
「リリーシア!」
誰かに体を抱えられて移動する。
「シール」
「地上にはフォルテが居るんだ。あのブレスに当たるのはまずい」
隊長さんと近衛騎士が、亜精霊化したフォルテと戦ってる。
紫色のブレスは、前より毒々しい色だ。
「手伝います」
「私とロニーが援護する。怪我をしたり、ブレスを浴びたら一旦引くんだ。フォルテの動きは生きていた頃とは違う」
「わかりました」
シールに降ろしてもらって、リュヌリアンを抜く。
ここから見て、右手にツァレンさんとローグさん。
左手にグリフさんとヴェロニクさん。
中央に隊長さん。
左側から、砂の魔法で加速しながら走る。
隊長さんの攻撃に続いて、隊長さんが攻撃したのと同じ場所を斬る。
…斬っても、斬れない。
本当に亜精霊になったんだ。
「リリーシア」
「援護します」
隊長さんが笑う。
「逆だろ?俺が援護するから好きにやりな」
「はい」
どこが弱点なんだろう。
大柄な巨体の首の付け根に斬りつけると、フォルテが足を振り上げる。
それを防ごうとしたところで、横から誰かがフォルテの足を攻撃した。
黒いマント。ローグさん。
「こっちの翼はもう動きません。私とツァレンは裏に回ります」
「はい」
ローグさんが移動したのを見計らって、リュヌリアンでフォルテに攻撃して数歩引くと、隊長さんが続けて攻撃する。
「耐久力がやたらと高いだけだ。総攻撃で一気に攻め落とすぞ」
「はい」
間髪入れずに、フォルテを攻撃する。
生きている頃とは全然違う。
単に暴れているだけのような動き。
…そういえば、人狼もそうだったよね。咆哮を上げる前と後で動きは全然違った。
―あれは破壊と殺戮の為だけに生きる生き物。
それが、亜精霊の本質?
それとも。
―人間は永遠に私の敵だ。
その気持ちだけで動いてる?
ブレスの予備動作をしたフォルテの頭めがけてリュヌリアンを振ると、フォルテが咆哮を上げながら、リュヌリアンに噛みつき、私を振り回す。
「っ」
振り回されて大きく宙を舞って。
エルとアレクさんが戦っている場所が見える。
アレクさんが、エルを庇って黒い槍の魔法を受けて。落下するアレクさんに止めを刺そうとした紅の剣に、エルがイリデッセンスを当てて防ぐ。
けど、相手がイリデッセンスを掴んで。
エルの…。
「だめー!」
空間すべてを埋め尽くす砂嵐。
自分が今、何処に居るのかさえ分からない。
エル。
どこ。
探せない。
金色の光…。
「リリーシア」
「アレクさん…?」
「魔法を止めるんだ」
「魔法…?」
私、魔法なんて…?
「これだけ視界が塞がっていたら何も見えないよ」
そうだ。
砂嵐が邪魔で探せない。
エルを。
そう思った瞬間、砂嵐が止む。
そして、一面、砂の大地が現れる。
ここは、砂漠?
「レイリス。…エル!」
レイリスが、エルを抱えて座ってる。
砂に足を取られながら、走って傍に行く。
「エル…」
嘘だ。
こんなの。
…そうだ。
「レイリス、お願い。エルを生き返らせて。私の命を、」
「無理だ」
「どうして?」
レイリスが黙って、エルの体を抱きしめる。
その体から、紅の剣に斬られた部分が落ちる。
「リリーシア。精霊はリンの力で斬られたものを元通りにすることは出来ないんだよ」
「アレクさん…」
もう、開かない瞳。
頬に触れて。柔らかい髪に触れて。
その頭を抱き上げる。
エル…。
「レイリス」
「何だよ」
「あいつを殺すのに力を貸して欲しい」
アレクさんがレイリスにサンゲタルを差し出す。
「私の考えてることぐらい、わかるだろう」
アレクさんの考えてること。
私にも、わかる。
大切な人が居ない世界なんて。
消えてしまえば良い。




