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狼は振り向かない【完結済】  作者: 月影野里
第三章

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47/47

47:潮風

桜が咲き始めた頃、輝虎は仕事の都合でワゴン車を使うようになっていた。

それを知った道安は、ある日曜日、キャリーケースを持って輝虎の自宅を訪れた。

「今日、織部と横浜の埠頭で落ち合うんですけど、車、貸してもらえますか?」

「…は!?」

「レンタカーってものがこの国にはあるでしょう」

「だってここにあるんだから、いいじゃないですか、あのワゴン車で」

「…あなたは、そういう論理で本当にこれから法廷に立つおつもりですか」

と言いながらも、輝虎は車のキーを持って、一緒に駐車場まで降りて行った。

ついでに運転を任された輝虎は、「じゃぁ」と一旦、自分の会社に寄り、

アルバイト中だった丹生を連れ出して巻き添えにした。


埠頭に着くと、ボートには織部の姿が見えた。

「あっ 織部いたっ! 」

「あ、リンシ、輝虎さん…」

「すごいね、ここ。気持ちいい〜。

 これかぁ、去年の夏とかに寝泊まりしてた大切なボート」

「うん」


織部は微笑んでいた。

道安を見つけると、「これじゃない? ミッチャンが言ってたやつ」と言って、

持っている資料を軽く掲げている。

「ナンバリング打ってあんだろ、何番になってる?」

道安はビールケースやお弁当、お菓子をボートの中に運んでいた。

「37」

「それだ。これで師匠のスクラップブックは全て揃ったぜ。サンキュー」

7月の試験で、どうしても裁判事例を押さえる必要があった。

この資料を取りに行くだけでは勿体ないので、道安はみんなを巻き込んでいた。


キャビンの中では宴会が始まっていた。

「あれ……私も迂闊でしたね、今頃気づきましたよ」

「え?」織部が反応した。

「いや、あなたのお兄さんですよ。はじめからビールを飲む気でいたんですから、

 運転なんか出来ませんよね」

丹生が反応した。

「そっかぁ 最初っから輝虎さんを運転手にするつもりだったんだー」


道安は分(ブ)が悪くなってきたと見るや、缶ビール片手にキャビンの外に出て、

デッキで飲み始めた。織部も道安のあとから、デッキに出てきた。


「ミッチャン、あんまり飲むなよ、あとでキャッチボールすんだから」

「あはっ キャッチボールかぁ 懐かしいなぁ〜」

さざなみの音が響く中、なだらかな風に道安のシャツが揺れていた。

『潮風の香りだけは、あの頃と少しも変わらないな…』

道安は静かに海を見つめていた。


「前にさ...」織部は少し躊躇したが、思い切って言ってみた。

「俺のこと、同志だと思ってる って言ってくれたでしょ」

「うん」

「なんか、あの時は何言ってんだろ......

 って思ってたけど、最近  なんとなく分かってきた」

「そうだろ。おまえしかいないんだよ、俺の同志は。

 もう年齢なんかどうでもいい、乾杯したい気分だな」


道安は缶ビールを織部のほうに差し出しておどけてみせた。

「……ねぇ ほんとに司法試験大丈夫?」

「あっはっは」道安は大声で笑った。


キャビンからデッキのほうに乗り出して兄弟のやりとりを

見守っていた丹生と輝虎は、その背中から清々しい空気を感じていた。




読者の皆様

拙い小説を最後まで読んでいただき、本当に有難うございました。

読んでいただけただけで、

こんなにも心が震えるものだとは思っておりませんでした。

ここに投稿させていただいて良かったです。心より感謝申し上げます。

https://53293.mitemin.net/i1289106/

挿絵(By みてみん)

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