手塚
俺は手塚、邦南高校の3年で演劇部の部長をしている者だ。弱小演劇部なので大会等に出ることはない。実際劇をやるのは新入生に対する部活紹介と生徒会主催の地域交流会と文化祭のときだけだ。おまけに劇というよりもコントだ。しかも短い。なので部費自体はほとんど無いが、ある程度の人数はいるため部活動と一応認められている。活動が少ない部活から適当に決めたが、なんだかんだでサボらずやってきた。ちなみに現在演劇部には男子しかいない。
文化祭でやる劇の脚本が完成した。脚本を考えたのは2年の高橋だが、今年の文化祭が俺達演劇部3年にとって最後の活動だ。部長という立場もジャンケンで負けたせいで押し付けられただけなのだが、やれるだけやってみることにした。
しかし問題が浮上した。劇は短いのが3本なのだが、その内の1本が下品なのだ。俺が高橋から受け取った脚本を顧問の堀江先生に見せると「こんな下品な内容を許可するわけにはいかない!」と、却下をくらってしまった。しかし高橋は「これだけは譲るわけにはいきません!」と、引く気がなく、俺は顧問と高橋から板挟み状態になっていた。
さてどうしたものか、と悩んでいたが「体育館じゃなければいいんじゃないか」と思い付いた。演劇部は毎年文化祭では体育館で劇を披露しているのだが、要は少人数の見たい者に対してだけならいいのではないか?ということだ。所詮弱小演劇部の劇なので、他の部員も含め、観客が少人数だとしても問題ないのではないだろうか。俺は高橋と堀江先生のところへ行き相談し、堀江先生が職員会議で他の教師に頭を下げた結果「武道場であれば許可する」と、なんとか武道場であればやってもいいことを許された。場の転換シーンはほとんどないため、演出的にはおそらく大丈夫だろう。むしろ武道場であれば畳があるため、3本の内2本と世界観がマッチしていて、逆にラッキーだったかもしれない。
しかしまた問題が浮上した。その下品な内容の劇に竹刀で素振りをするシーンがあるのだが、部員の誰も上手く素振りが出来ないのだ。邦南高校では男子は必ず体育で剣道をさせられるため、当然それなりにはできる者もいたが、いかんせん文化部の集まりだ。高橋が「皆さん全然強そうに見えないです。この役は強そうに見えるから面白いんですよ」と結局部員全員高橋には認められなかった。高橋自身は運動音痴なので当然論外だ。
「じゃあ誰がやるんだ?」
「剣道部員に頼んでみますか?」
「剣道部員がわさわざ助っ人でこんな役引き受けるわけないだろ。しかも断られたらネタバレしかねないぞ!」
さてどうしたものか。一応男子全員は体育で剣道を経験しているが、もし頼んで断られたらそいつからネタバレの恐れがあるため、慎重にならざるを得ない。台詞は少なく、演技力より強そうに見える方が重要なため、ガタイが良い方が良いだろう。剣道が上手くガタイも良くネタバレの恐れがない……。
生徒会長の元木だ!!!
あいつはガタイが良い。運動部じゃないのが勿体無いくらいだ。それに断られたとしても生徒会長がネタバレなどするわけがない。変わったところはあるが、文化祭を台無しにするようなことはまずないはずだ。おまけに大声も出せる。肝心の強者に見えるかどうかだが、あいつは中学では剣道部だったと言っていた。実際体育であいつが試合しているところを見たが、現役の剣道部員とほぼ互角に渡り合っていた。俺もあいつと試合をした時はあっという間に負かされてしまった。当然素振りも迫力があるはずだ。
そうとわかれば善は急げだ。翌日の昼休み2年2組へ行き、高橋に「生徒会長の元木ならどうだ?」と提案すると「元木生徒会長がやってくれるのなら願ったり叶ったりですが、引き受けてもらえるのでしょうか?…これ一応賄賂的なやつです。お願いする時微妙なリアクションだったら渡して下さい」と、紙袋に入ったある物を渡された。そして放課後生徒会室に行き、元木へ引き受けてくれるか頼みにいった。断られた場合、次の候補者が思い浮かばなかったため必死に頼み込む想定もしていたが、その場で脚本を読むと元木はあっさり引き受けてくれた。
「ハハハハハ、確かに普通のやつはこんな役引き受けないだろう。だからこそ生徒会長の俺がやるべきだな。これなら俺個人にとっても愉快な文化祭になりそうだ。菊池、文化祭で俺が演劇部の劇に参加しても問題はないよな?」
「別に大丈夫でしょ〜。文化祭実行委員だっているんだし。あたしだって楽しみたいから交代で自由に動ける時間作れば問題ないでしょ〜」
「そうですよね、せっかくの文化祭なんですから私達も楽しみましょう」
「僕に手伝えることがあればなんでも言ってくださいね会長」
「オレも出来る限り力になります」
「…私も」
「私は可能な限り自由に回りたいわ」
「手塚、演劇部の活動予定教えてくれ。演劇部が活動していて生徒会の仕事がないときにそちらに顔を出すようにする」
「ああ、ありがとう。助かる」
ということで、生徒会長の元木がやることになった。その旨を高橋に伝えると「元木生徒会長で決まりですか!最高の配役です!」と喜んでいた。良かった、これで問題は解決した。
さて、次は他の配役だが、ん…そういえば壺振りの役はどうするんだ?壺振りなんか素人がやっても格好がつかないだろう…。
え、また問題発生か?なんでこんなこと気が付かなかったんだ…。
しかし翌日他の部員に相談すると
「俺マジック得意で壺振りもできるから問題ないぞ。高橋が脚本考えてる途中で一応確認もされてたしな」と、沼下が言っていた。ならそうと早く言ってくれ。
何はともあれなんとかなりそうだ。下品な劇を最後の3本目に持っていき、それの直前に「次の劇は不適切な内容を含むので、そういったものに抵抗がある人は観ないでください」とでも注意喚起すればいいだろう。可能な限りネタバレはしたくないので「下品」というワードは使いたくない。観るかはわからないが、女子がいた場合はどんなリアクションをするのか少々不安だ…。おそらく男子は大丈夫だろう。
下品といえば、高橋に賄賂として渡されたこのエロ本の方が余程下品だろう……………返すの忘れてたな。




