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元木 17 5/31 日 1

ep.16·17藤澤1·2の元木サイド的な感じです。

 5月31日日曜日の朝、真衣が俺の弁当の中身をご飯だけにしていたので、台所の戸棚にある缶詰2つもカバンに加えてから学校へ向かう。

 生徒会室でジャージに着替え少し待っていると、ドアがノックされた。


 コンコン


「失礼します」


 この声は佐々木か。


「おはようございます会長」

「おはよう佐々木。俺が出るから佐々木はジャージに着替えてくれ」

「はい」


 生徒会室を出て廊下で待っていると、茜と千葉と菱川が到着した。


「コーイチおはよ〜」

「おはようございます会長」

「……おはようございます」

「おはよう。今佐々木が着替えているから少し待ってくれ」

「りょ〜かい〜」


 程なくすると佐々木が着替え終わり、入れ代わりで女子3人が着替え始めた。


「佐々木、先に行ってていいぞ。それとお前が先に戻ってきた場合、俺たちを待たずに帰って構わないからな」

「わかりました」


 少し待っていると常盤が到着した。


「会長おはようございまーす」

「おはよう常盤」

「校門とこで佐々木と会ったんすけど、あいつ先に始めてましたよ?」

「佐々木は友人たちとやることになっている」

「ああ、3人1組だからか」


 ガチャ


 生徒会室のドアが開き、3人が出てきた。


「あ、トッキーおはよ〜」

「常盤先輩おはようございます」

「詩音おはよう」

「おー、おはよー」

「コーイチ、アタシたち3人で先に始めてるね」

「わかった。なら常盤と俺は藤澤が来てからだな」

「お先に〜」

「んじゃ私着替えますわ」

「ああ」


 すぐに常盤は着替え終わったが、藤澤が来るまでは待つ必要がある。今は……9時52分か。


「あいつ1年のくせに遅いな。10時開始なんだから10分前には来いっての」

「確かに藤澤はいつも遅いな」

「会長は何時到着すか?」

「俺は9時半だ」

「普通の日も早いんすか?」

「ああ、早いな」

「副会長は?」

「あいつはなにもない日は遅い」

「ですよね」


 ガチャ


「おはようございます」


 藤澤が到着したが、ノックをしていなかった。

 確か水曜のお題スゴロクのときも……。


 その後、3人でゴミ拾いをしていると常盤が話しかけてきた。


「夏実たちってどの辺やってんすかね?」

「わからん。佐々木はさっきチラッと見かけたから俺たちと同じ南側だろうな」

「佐々木って今友達とゴミ拾いしてんですよね?」

「ああ、そうだな」

「てことは真島だろうな。あいつ確か清掃部だったはず」

「そうだ。真島ともう1人の友人と一緒にやっているはずだ」


 確か唐川だったか? 顔は知らないが。


「会長も真島知ってんすか?」

「ああ、知っている。とても愉快な生徒だ」

「あれは愉快ってレベルじゃないでしょ!」

「だが佐々木にはあれくらいのやつが近くにいた方がいいだろう」

「まぁそうかもですけど……」

「俺は来年にはいないからな。おそらくお前や藤澤では駄目だろう」

「私じゃそもそも論外ですよ。藤澤も学年違うし無理でしょ」

「だから今の内に佐々木には友人たちともっと仲を深めてほしくてな」

「それは私もそう思います」

「ちなみに佐々木はこのあとのゲームには参加しないからな」

「え、なんで?」

「その友人たちと先に約束があったみたいでな。佐々木と相談したが、そちらを優先してもらったんだ」


 というよりも、佐々木がいないからやるんだがな。


「そっすか。でもあんなゲーム、佐々木は無理じゃないですか? どうせ副会長が考えたんでしょ」


 正解だ。

 つまり常盤はあれに気付いたか。


「そうだ、菊池の発案だ。逆に佐々木はいなくてよかったかもしれないな」


 決して俺の発案ではない。

 そこだけは勘違いしないでほしい。


「ていうか会長、この前私いないときにあのお題スゴロクやったんすね」

「すまん、急にやることになってな」


 お前がいないことで都合が良かったしな。


「あれ私もやりたかったですよ。去年やったときけっこう面白かったんで。なんであの日急にやったんですか?」


 そうか、これは根掘り葉掘り聞かれるかもしれないな……。

 常盤は鋭い上にガンガン質問してくるが、黙っているのも怪しまれる。……話すか。


「……あの日は元々生徒会の仕事がなかっただろう」

「ええ、だから私歯医者の予約入れたんで」

「それが当日、急に教頭先生から用事というか依頼というか、そういうことを頼まれてな。それで藤澤たちを呼び出したんだ」

「でもあの日って教頭倒れて運ばれたんじゃなかったですっけ?」

「そうだ。だから結局それがなくなってしまった。だが、呼び出してしまってなにもしないというのもあれだと思ってな」


 そもそも佐々木が欠席だと知った朝の時点でやるつもりだったしな。


「だからゲームしたんすね」

「そうだ。本当は今日あれをやるつもりだったんだがな」


 ……マズい。

 今の発言は墓穴を掘ったか……。

 茜にあんなゲームを提案され、俺が受け入れたことに対して違和感を持たれるのは非常にマズい……。

 どうするか……。


「……ってことは会長は教頭が倒れたの当日から知ってたってことですか?」


 やはり鋭いな。

 すぐに気付いたか。


「ああ、たまたま職員室にいたからな」

「へぇー。……で、その教頭から頼まれたってのはなんなんすか?」


 こいつ本当にガンガン聞いてくるな……。


「……うーーーん、これは言っていいものか……」

「教えてくださいよ。私あれ参加しなかったんですから、少し話聞くぐらいいいでしょ」

「……なら常盤も藤澤も他の人には絶対話すなよ」

「そんな秘密にしなきゃいけないことなんすか?」

「一応な」


 本当は言ってはいけないだろうが、惑わせるために使わせてもらう。


「誰にも言わないんで聞かせてくださいよ。藤澤も絶対誰にも言うなよ」

「わかりました」

「……わかった。まず簡単に言うと教頭先生がお孫さんを学校に連れてきてしまってな」

「え? なんで孫?」

「……悪い、話す順番を間違えたな。最初から話すから質問はあとからにしてくれるか」

「わかりましたよ」

「……教頭先生の家は教頭先生と高齢の母親と教頭先生の息子さんとそのお嫁さんとまだ幼いお孫さんの5人暮らしでな。それで息子さんが出張でいない間にお嫁さんが怪我をして入院したらしい。なのであの日だけはお孫さんを高齢の母親が面倒を見ることになったという。それで教頭先生が車で学校に着いたらお孫さんが後部座席にいてびっくりしたそうだ。おそらく後部座席に荷物を積んだときにお孫さんが潜り込んだんだろう。学校に着くまで静かで全く気付かなかったと言っていた。学校に着いてどうするか迷っていたところを養護教諭の丹羽先生が見てしまってな。学校から教頭先生の家までは結構距離があり、家に戻るのもなんだから1日だけ学校で預かればいい、と言われてそうすることにしたようだ。教頭先生の母親が来られればよかったんだが、高齢で足が悪く、電話で連絡したら邦南高校の場所もわからないみたいでな。結局お孫さんは生徒に見つからないように校長室で面倒を見ていたんだが、放課後は校長室を使う予定で生徒会室ならいいんじゃないかということで俺に頼んできたんだ。俺1人で面倒を見るのは大変だから皆を呼ぶことにした。しかし教頭先生が昼休みに倒れてな。救急車で病院に行くときに司馬先生が同行し、それとは別に梨田先生と丹羽先生がお孫さんを連れて病院へ向かったんだ。だから結局俺たちはなにもしなかったというわけだ。それと当日の夜に息子さんが主張先から急いで駆けつけてお孫さんは無事家に帰れたらしい。以上だ。なにか質問あるか?」


 長々とあの日のことを説明した。

 敢えて本当のことと嘘を混ぜつつ。


「……なんで会長はそんな詳しいんすか?」


 当然そう思うよな。


「俺は当日お孫さんと会っていたし、昨日教頭先生のお見舞いに行って話をいろいろ教頭先生本人から聞いたからな。それと丹羽先生にも話を聞いたからだ」


 孫ではなく猫だがな。


「会長教頭のお見舞い行ったんすか!?」

「ああ。心配だったからな」


 たまたまだがな。


「誰と?」

「1人でだ」


 本当は父とだがな。


「……教頭お孫さん連れてすぐ帰ればよかったんじゃないすか?」

「あの日は午後から他校の教師たちとなにか大事な仕事があったとか言っていたな。だから学校にいなくてはいけなかったようだ。教頭先生は結局倒れたからその仕事もできなくなったようだが……。だからあの日は職員室で教師たちがてんやわんや状態だったらしい。俺たちがなにか力になれればよかったんだが、いかんせん教師たちの問題だったからな。部活も顧問がいないせいで休みになったところが多かっただろう」

「確かにあの日部活休みのとこ多かったな。……他校と大事な仕事って何すか?」


 しつこいな。


「さすがに俺も教師の仕事内容までは知らん。だが俺たち生徒会も他校と関わる活動があるだろう。おそらく教師同士でも横の繋がりのようなものがあるんじゃないか?」

「へぇー。……校長もよく許可したなぁ」

「ウチの校長先生と教頭先生は昔からの知り合いらしいぞ」


 校長先生のことを『耕ちゃん』呼びしてたぐらいだ。


「そうなんすか? そんなの初めて聞いたな」

「僕も初耳です」

「俺も昨日お見舞いに行ったとき教頭先生から聞いたばかりだ」

「で、教頭の家は大丈夫なんすか? あと教頭本人も」

「息子さんがしばらく休みを取ったらしくてな。なんとか大丈夫そうだ。そんなに心配なら常盤も教頭先生のお見舞い行ったらどうだ?」

「イヤですよ。行くなら藤澤が1人で行け」


 だよな。お前がわざわざ行くわけがない。


「流石に1人は嫌ですよ。行くなら常盤先輩も一緒に行きましょうよ」

「イヤだよ、めんどい。会長が行ったんだからいいんじゃないすか?」

「無理強いはせん。行きたいなら行けばいいというだけだ」

「……こんなプライベートなこと言ってよかったんすか?」


 そうだな、本当は駄目だ。

 だから逆に嘘は混ぜつつも全部言ってやった。

 

「お前が聞いたんだろう」

「他に知ってる人は?」

「おそらく生徒では俺たち3人だけだろうな」

「じゃあもし他の生徒に漏れたら藤澤が犯人ってことだな」

「なんでそうなるんですか。僕は誰にも言いませんよ。それより常盤先輩の方が怪しいですよ」

「いやいや、私口は堅いからな」


 どこがだ?

 茜のことはダダ漏らすだろ。

 俺も人のことは言えないが。


「とりあえず聞かれたから話したが、他の人には絶対黙っていろよ」

「はーい」

「わかりました」

「というのは冗談でだな」


 こう言っておけばお前たちからすればわけがわからないだろう。さぁ、混乱してしまえ。


「は!?」

「え!?」

「いや会長! どこが冗談なんすか!?」


 当然そういう反応だよな。


「どこだろうな。教頭先生が倒れて入院しているのは本当だ」

「それは知ってますよ!」

「気になるなら教頭先生のお見舞いに行って本人に直接聞けばいいんじゃないか? 教師の何人かは教頭先生が入院している病院を知っているだろうからな。生徒会としてお見舞いに行きたいと言えば場所を教えてくれるだろう」

「いやいや……」

「言っておくが、教頭先生以外に聞いたり話したりするのは駄目だぞ。さっき他の人には絶対黙っていると約束したからな」

「……それって会長の話が本当かどうか確認したかったら教頭のお見舞いに行けってことですよね?」

「それはお前たちの捉え方次第だろう。とりあえず俺はゴミ拾い再開するからな」


 巻き込んだ藤澤には悪いが、これで常盤は無駄に考えるだろう。俺が言ったことがどこまで本当なのかを。もし嘘がバレても問題はない。ふざけただけだと言えば済む。だから本当のことと嘘を混ぜた。そもそもこの話の中に俺が隠していたいことなど1つもない。わけのわからないことを考えさせるのが目的だからな。結局は俺が茜の提案であんなゲームを受け入れたことに対して疑問を持たれないようにするためだけの身代わり話に過ぎない。

 さて、あの2人はなにを相談しているやら。


 ゴミ拾いを終え、生徒会室へ戻りジャージから制服に着替える。

 荷物がないので佐々木は先に帰ったようだ。

 レポートと生徒会日誌に今日の活動内容を纏め終わると、茜と菱川が2人でトイレに行った。いつの間にか藤澤もいない。すると常盤がまた質問してきた。


「会長、お題スゴロクはどっちやったんすか?」


 くそ、あの話はあまり意味がなかったか……。


「普通バージョンだ。あの日は佐々木がいなかったからな」

「元々は今日やる予定だったんすよね? 佐々木いないから」

「そうだ」

「じゃあ、あの日佐々木がいたら違う方やってたんすか?」


 ここで「そうだ」はおかしい。

 元々今日やる予定だったということは、元々普通バージョンをやる予定だったということなのだから。なのに『あの日佐々木いたら難易度易しいバージョンをやった』では『それなら何故茜のあんなゲームの提案なんぞ受け入れてまで予定を変えたんだ?』と思われる可能性がある。そこに疑問を持たれるのは絶対に駄目だ。


「いや、あの日佐々木が休みなのは朝から知っていたんだ」


 茜と菱川がいないのは助かったな。

 だが、当然千葉が疑問に思ってなにかを言ってくるかもしれない。しかしその場合も「あのときは一応確認しただけだ」と返せば済む。


「あ、そうすか」


 千葉がこちらをチラッと見てきたが、なにもなかったかのように目線を読んでいる小説に戻した。

 常盤の質問ラッシュもこれで終ればいいんだが……。


「お題スゴロクでなんか面白いことありました?」


 よし! その話題になるなら大歓迎だ!

 絶好のネタがある!


「菊池がものすごく微妙な投げキッスをして生徒会室がシーン……となったな」

「それ詳しく」


 食い付いた!

 あとは千葉に任せるか。


「すまん、トイレに行きたいから千葉に聞いてくれ」

「夏実、副会長の投げキッスどんなんだった?」

「……誰も笑わなくて副会長恥ずかしがってた」

「へぇ」


 トイレから戻ると女子4人が既に食べ始めていた。


「会長すんません、腹減ったんで」

「先に食べ始めたのアタシじゃないからね! トッキーだからね!」


 どっちでもいいっての。


 数分後、藤澤が相変わらずノックをせずに生徒会室に戻ってきてから昼食を済ませ、少しの休憩を挟んでからゲームを開始した。

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