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風間

私は高校教師をしている。担当教科は数学だ。一部の生徒からは影で「フーセン」と呼ばれている。正直やめてもらいたいが、生徒が教師にあだ名をつけるのは自分達が学生時代のころにも頻繁にしていたことなので、如何ともし難い。


今日は珍しく丸々一日休みなので、学生時代からの友人と久々に会うことになった。待ち合わせ場所までは徒歩と電車で向かう。


最寄り駅まで歩き、電車に乗り込むと乗客がまばらだったため、空いている座席に座った。扉が閉まり電車が次の駅へ向かい始める。目的地は3駅隣だ。


「ママー、あれなに?」

「なんだろうねぇ?」


正面には5歳くらいの男の子と母親がいる。男の子は靴を脱ぎ座席の上に立って、窓から外の景色を見ている。よく見ると母親はかなりの美人だ。自分と同じ30歳くらいだろうか?


隣駅に着き乗客が乗り降りする。乗ってきた人物の中に自分が受け持つクラスの生徒らしき姿が見えた。目が合ってしまった。佐々木だ。マスクをしている。学校以外では普段からしているのか、それともまた体調を崩したのかはわからない。佐々木の私服姿は初めて見たが、普通の男子高校生らしい格好をしている。軽く会釈をしてきたので、こちらも軽く頷く。佐々木は私から少し離れた左前方に座った。流石に近くには座らなかった。わざわざ休日まで教師と関わりたくはないだろう。


佐々木は成績優秀で、生徒会役員もしていて、生活態度も問題なしの優等生だ。学内にはそう思っていない者もいるのだが、誰が何と言おうと優等生である。2年連続で佐々木の担任をしている私が断言する。しかし真島と仲が良い部分が不安要素だ。佐々木と最も仲が良いのが真島なのだが、いつか真島が起こす問題行動に巻き込まれないか心配だ。あいつは1年の頃から問題ばかり起こしている。授業中にブーブークッションでいたずらしたり、学校中にゴキブリのおもちゃを設置したり、2月14日に職員室の私の机の上に綺麗に包装されたチョコを置いたこともあった。最初に見つけたときは少し嬉しかったものだが、まさか真島からだとあとから知ったときは本当にガッカリした…。私にだけではなく、友人や他の先生に対してもやっていたようだが。


真島はつい先日も問題を起こし説教したばかりだ。昼休みに真島を呼び出したのだが、真島は弁当を持ったまま職員室に入ってきた。


「なんで弁当持ったまま来たんだ?」

「だって先に食べてから来ればいいのか、食べたあとに来ればいいのかわからなかったんだよ」


確かにその前日には「昼食をとってから来い」とは言った。ただあの日は私が寝坊で朝食を摂り損ねた上に、4時間目まで授業が続いてしまった。本来であれば2時間目は受け持ちの授業はなかったが、自分と同じ2年の担任を務めている堀江先生が急に体調を崩したため、私がその授業の穴埋めをすることになってしまった。なので途中で軽食を碌に摂れず空腹状態だったため、私自身が先に昼食を摂りたかったのだ。通常であれば呼び出すのは放課後でもよいのだが、その放課後も堀江先生の仕事の穴埋めがあったため、昼休みに呼び出したのだ。しかし昼休みに教頭先生が倒れられたこともあり、結局放課後はその仕事どころではなかった。あの日は朝から大変な1日だったのだ…。


「お前なぁ、はぁ…まぁいい、それよりもだな…」


5分ほど説教し、真島を解放した。しかし、


「ここで弁当食べていってもいい?」


はぁ!?なんでだ、全く理解出来ない…。


教師には敬語を使えと説教したばかりなのに、そんなことがどうでもいいと思えるくらいの驚きだ。何故わざわざ先程まで自分が説教されていた場所で弁当を食べる気になれるのか…。もちろん職員室内でなど許可できるわけがないので「他の場所で食べなさい」と伝えた。


「良かったら私のところで食べていくかい?」


たまたま職員室にいらっしゃっていた校長先生からとんでもない提案が飛び出した。


「それってもしかして校長室でってこと?」

「ああそうだ。お茶くらいなら出せるが、どうするかい?」

「こ、校長先生、何を仰って…」

「まぁまぁ風間先生、私に任せて」

「やった〜。お願いしま〜す」

「ははは、元気な生徒だ。私についてきなさい」


校長先生が真島を校長室に案内した。なんてやつなんだ…。私だったら校長先生と2人きりで食事など御免被りたい。緊張で食べ物が喉を通らないだろう。おそらく自分から積極的にそんなことをする生徒は真島と生徒会長の元木くらいだろう。あいつもかなりの変人だ。変人といえば、もしかしたら曽我も平気かもしれない。



先日のことを思い出していると次の駅に着いた。また乗客が乗り降りする。佐々木はまだ座ったままだ。扉が閉まり再度電車が動き出す。





ん、何か臭い。誰かがおならをしたのだろうか?非常に臭い。私もマスクをしてくればよかった。いや、おそらくマスク越しでもわかるくらいの異臭だ。犯人は私ではないが、佐々木に私がしたと思われていそうで不安になる。ただ、佐々木はこんなことを言いふらすような生徒ではないのでおそらく大丈夫だろう。そもそも断じて私はしていない。


「ママー、おならくさーい」

「しー、静かに」


正面の男の子から素直な感想が漏れる。


「でもママのおならもけっこうくさいよね」


とんでもない爆弾発言が飛んできた!!

思わず吹き出しそうになるが、なんとか堪える。


「な、なに言ってるの!しー、静かにして!」


母親がとても慌てふためいている。当然だろう。こんな場所でそんなことを言われたら赤っ恥だ。目が合うと気まずいので目線を左に逸らしつつ笑うのを堪える。


「でもパパのおならがせかいいちくさいよね」

「しー、静かにしなさい!」

「なんでママはあんなにおならがくさいパパとけっこんしたの?」


だめだ、今すぐ大声で笑いだしたい。しかし堪えるしかない。周囲の乗客も笑うのを押し殺そうとしているが

「ふ、ふふふ」「くくくくく」

声が漏れているぞ。つられるからやめてくれ!佐々木も2人の方向から顔を逸らし笑わないようにしているが、体が小刻みに震えている。母親が注意しているのに男の子はさらに喋り続けた。


「わかった。どっちもおならがくさいからけっこんしたんでしょ。パパとママみたいにぼくもおとなになったらおならせいじんになるのかなぁ、いやだなぁ…」


異臭に対する不快感など、とうに何処かへ行ってしまうほど、2人以外皆必死に笑うのを堪えるので精一杯だ。


「〜〜〜〜〜〜〜〜」

次の停車駅を知らせるアナウンスが流れてきた。


「ほ、ほら、行くよ。靴履いて」


母親が男の子に靴を履かせる。元々降りる予定の駅だったのかはわからないが、母親は今すぐにでもここから去りたいのだろう。


電車が停止しドアが開くと、子供を抱きかかえすぐさま電車から降りていった。私の目的地はこの駅なので降りようとしたが、車両内では笑い出す者もいた。私も今すぐ大声で笑い出してしまいたかったが、そういうわけにもいかない。佐々木はクスクスと笑っていた。



電車を降り、一旦トイレに向かい気持ちを落ち着かせる。友人に面白い話ができそうだ。



待ち合わせ場所は駅前だ。友人らしき者を発見する。誰か女性と一緒のようだ。誰だろうか?向こうも気付いたようで手を振ってきたので、こちらも軽く手を振り返し声をかけた。



「久しぶりだな」

「ああ、風間久しぶり。こいつら俺の妻と息子だ。ついさっきたまたま会ったからついでにな。確か初対面だよな」



一緒にいた女性が軽くお辞儀をし、顔を上げる。同じタイミングで2人の後ろから子供がひょっこり現れた。2人の顔を確認する。先程の母親と子供だ。



ということは…



私は我慢の限界だった。




「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ」

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