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佐々木 5

 秋になり文化祭が終わると生徒会の3年生が引退するため引き継ぎの時期に差し掛かった。

 生徒会選挙が行われると思っていたが、生徒会長に立候補したのは元木先輩だけで、結局そのまま元木先輩が生徒会長を務めることになった。

 3年生が引退したことにより生徒会の仕事が多く割り当てられることになり、生徒会室に行く機会が増える。

 それでも雑務などがない日に真島と軽音部の部室に顔を出したり、放課後や休日に遊んだりして、奥井とも少しずつ仲良くなりながら日々は過ぎていく。

 

 冬休みに入る前に5人で初詣に行こうと約束をした。学校近くの神社で皆とお参りをしたいと真島が言い出したからだ。

 元日の午前9時過ぎ全員が神社に集まると、ここらではそこそこ大きい神社のため自分達以外にも大勢の人がいた。参拝者の列は複数に分かれている。なので皆バラバラの列に並ぶことにした。

 数分後、自分と宮本と奥井が先にお参りを終わらせ待っていると真島の番になった。誰も彼もが口を(つぐ)んだままお参りをしている中、真島は「俺の次の人の願い事が来年の夏に叶いますように〜」と、大声でお願いした。真島の後ろに並んでいた越後は「なんで来年の夏なんだよ! 1年半後じゃねーか馬鹿!」と直ぐ様突っ込みを入れ、自分達どころか周囲の参拝者からも笑われていた。越後は結局どんなお願いをしたのだろう?


 冬もあっという間に過ぎていき、クラス替えの季節になるとドキドキとした気持ちが付き纏う。

 結果は自分と越後と奥井が3組で、真島と宮本が2組だった。真島とはクラスが離れてしまったけれど、越後と奥井の2人とは一緒のクラスだったので安堵した。

 そして担任は1年と同じ風間先生だ。

 2年に上がっても昼休みになると真島と宮本がこちらのクラスへやってきて一緒にお弁当を食べる。最初の内は4人だったけれど、数日後奥井も一緒に食べることになり、そのときに奥井が知らない男子を連れてきた。


「僕は唐川常陸、よろしくね。奥井と1年のとき同じクラスだったんだ」

「俺は宮本夜長。よろしく」

「俺は真島禄斗〜。よろしくね〜」

「俺とこいつは同じクラスだから知ってるよな?」


 越後がこちらを指差しながら唐川に聞いた。


「うん、知ってるよ。越後君と佐々木君……だよね?」

「そうそう、よろしくな唐川」

「佐々木です、こちらこそよろしく」


 唐川は背が低く体重も軽そうで、体格だけならまるで女子のようだ。


「1年の頃から奥井に4人の話は聞いててさ。僕も今日から混ぜてもらっていいかな?」

「もちろんいいよ〜。そのかわり全員のことは苗字呼びで君付けは禁止ね〜」

「ちなみに破ったらしっぺかデコピンが越後からとんでくるから気を付けろよ」

「ふふふ、わかった、気を付けるよ」


 こうして昼休みは3組に集まり6人でお昼ご飯を食べるのが当たり前になった。

 それから数日後、席替えが行われた。結果自分は越後と奥井と近い席に決まり、前の席も同じ生徒会の千葉さんに決まった。このときは偶々そうなって良かったと思っていたけれど、あとからよくよく考えるともしかして風間先生が気を利かせてイカサマでもしたのではないか? と勘ぐってしまう程の偶然だった。


 ある日の放課後、生徒会の雑務がなく軽音部の活動もなかったため、6人でカラオケに行くことになった。自分はまだ真島以外とはカラオケに行ったことがなかったので、今日皆の前で歌うかどうか迷いながらカラオケ屋に歩を進める。

 目的のカラオケ屋に着き個室に入ると、いの一番に真島が例の曲を入れ歌い始めた。

 宮本は溜息を吐き、唐川は不思議な歌詞の曲を音痴な歌声で初めて聞かされたのが面白かったのか笑っている。

 越後はもう何回も聞いていて興味がないのか、急に全然違う話をし始めた。


「なんか唐川って女装似合いそうじゃないか?」


 そういうことを言われたら傷付くのではないか、自分はそう思ってしまった。けれど唐川は「それたまに女子にも言われるんだよね。そんなに似合いそうかな?」と、強く否定するわけではなく、慣れた様子で会話を続けた。


「いつか機会があれば1回やってみるのもありかもね」


 てっきり男子はそういうことに拒否反応があるものだと思っていたので唐川の発言には驚いた。


「ハハハ、唐川が女装したら奥井が困るんじゃないか?」

「なんでだよ!」

「あー、確かにな。面白そうではある」

「だからなんでだよ!」


 越後と宮本が奥井をからかっているけれど、自分には振らないでほしい話題だ……。


「ちょっとトイレ行ってくる!」

「おーう、行ってこい行ってこい」


 越後が適当に返す。そして奥井が部屋を出ても越後は同じ話をし続けた。


「佐々木が女装したら奥井は絶対駄目だろうな」


 越後の発言で一瞬その場が凍りついたように感じた。

 しかし真島はこちらの会話が聞こえなかったのか歌い続けている。



 自分は絶対に女子の服なんて着たくない!!



「おい!!」


 宮本が強い口調で越後に食って掛かろうとした。


「違う、違う、女装だぞ女装。あくまで女装だよ! 女装の意味分かるだろ?」

「……分かるけど、お前そういうこと言うなよ!!」

「……お前ら佐々木に気を遣い過ぎじゃないか? 男同士なら女装が似合うか似合わないかくらいの話題で怒らないだろ。実際唐川は全然怒らなかったし、俺だってそんなことでわざわざ怒らない」

「……唐川と佐々木は違うだろ」

「そうやって庇い過ぎじゃないか? なんで佐々木は駄目なのに唐川はセーフなんだよ。俺やお前や奥井は多分女装は似合わない。唐川と佐々木は似合いそう。ただそれだけの話だろ?」

「……」


 宮本も唐川も黙っている。

 ……確かにそれだけの話だ。女装しろと言われたわけでも実際にするわけでもない。

 越後の言うとおり、自分も気にし過ぎていたのかもしれない。あくまでただの雑談なのだから。


「別に俺は佐々木を困らせたいわけじゃないよ。男同士で会話したいならこういう話題にも慣れろってことだ。そんで真島が女装したら……ハハハ、絶対似合わないだろ。ハハハハハ!」


 越後が歌っている真島を見て笑い出した。それを見て唐川も笑い出し、自分と宮本も結局笑い始めてしまった。確かに真島の女装は全然似合わないだろう。


「なんでみんな笑ってるの〜?」


 丁度真島が歌い終わったようだ。


「お前は女装似合わないだろって話してたとこだ」

「えぇー、越後だって似合わないでしょ〜。それに俺より3組の曽我の方が酷いことになるよ〜」

「ハハハ、曽我は壊滅的だろ!」

「やめろ、曽我の女装想像しちまったじゃねぇか……」

「ふふ、曽我はそもそも着れる服がなさそうだよね」


 一瞬空気が悪くなりかけたけれど大丈夫そうだ。


「次誰歌う? ……あれ、奥井は?」

「あいつは今トイレだよ。佐々木歌うか?」


 急に越後に勧められ一瞬どうしようか迷ったけれど、さっきも思ったとおり自分も声のことを気にし過ぎていたのかもしれない。なので思い切って皆の前で歌うことにした。

 ジャカドーラの『大雨日和』を入力し、歌い出しまで心を平静に保とうとする。


「佐々木メチャクチャ歌うの上手いからね〜」

「へぇ、そうなのか。宮本は聴いたことあるのか?」

「ない。初めてだ」


 イントロが流れ歌い始める。少し緊張しているけれど、無意識でも歌えるくらい歌い慣れた曲なので、おそらく歌い始めてしまえば問題ない。

 結局入りだけは一瞬心臓がキュッとなったけれど、やはり大丈夫だった。皆も静かに聴いている。歌っている最中に奥井が戻ってきても、すぐ椅子に座り皆と同様会話などをせずに聴いていた。

 緊張と不安と恥ずかしさと少しの自信、いろんな感情が渦巻いたまま歌い終わった。

 少しの沈黙のあと越後が口を開いた。


「……上手くね?」

「……だよな」

「やっぱり佐々木は歌上手いなぁ」


 『パチパチパチ』と唐川が拍手をし始めたると、他の4人からも拍手をされ、少し照れくさくなった。


「……なぁ、俺達のバンド今ボーカルいないだろ? 佐々木にやってもらうってのはどうだ?」


 !?


 越後が宮本と奥井の方を見て提案したけれど、こちらからすれば寝耳に水だ。

 

「……俺はありだと思う」


 奥井は賛成のようだ。


「……別に俺も問題ないけど、佐々木がやってくれるかが一番問題だろ」

「で、でもオレ生徒会入ってるし……」

「軽音部に入ってくれってわけじゃなくてさ。臨時というか、文化祭なんかで演奏するときの助っ人みたいな形というか」

「越後〜、急に佐々木にそんな話しても困るでしょ」

「まぁ、そうだな。少し考えてみてくれ」


 もし引き受けた場合、文化祭で歌うことになるだろう。当然そのときは自分のことを嫌っている人達もいるわけだ。果たしてそんな人達の前で歌えるだろうか……。

 その後自分は一曲も歌わずにカラオケは終了し、その日はずっとそのことを考えていた。


 数日間考えたけれどやはり自分には無理だと感じたので、放課後越後に断りの返事を伝えることにした。


「越後、ちょっといい?」

「なんだ?」

「ボーカルの件なんだけど、やっぱり無理だと思う」

「……そうか」

「え〜、なんでー? やってみればー?」


 振り向くと真島がいた。どうやら会話を聞いていたようだ。


「で、でも……」

「ん〜、文化祭とかで歌うかどうかは後回しにしてさ、軽音部内で歌ってみればいいじゃん。俺聴きたいな〜、3人の演奏に合わせて佐々木が歌ってるとこ」

「……そうだな、とりあえず皆の前とか関係なしにさ、俺達のためだと思って歌ってくれよ。やっぱりボーカルがいるのといないのとじゃ俺達のやる気が全然違ってくると思うんだよな。駄目か?」

「……わかった、いいよ」


 4人だけなら大丈夫だろう。


「じゃあ明日の放課後空いてるか?」

「うん、明日なら生徒会の集まりもないし大丈夫だと思う」

「なら明日だな。真島と来てくれ。曲はデャバロームの『孤独の逆鱗』な」


 デャバロームの『孤独の逆鱗』は真島と軽音部に行くと3人がいつも演奏している曲で自分も歌うことができる。


 翌日、軽音部の空き教室に5人が集まった。

 宮本と越後と奥井が少し練習し、少し休憩したあと自分も加わり歌うことになった。

 真島だけが聴き役なので「なんかこいつだけが客みたいで腹立つな」と宮本が不満を漏らし、越後はそれを聞いて「真島だけが客でも腹立つし、客が真島だけでも腹立つよな、ハハハ」と笑い出した。すると「いいから真面目にやってよ」と珍しく真島が2人を注意した。「お前が言うな」と絶対心の中では思ってはいただろうけれど、2人とも何も反論はしなかった。


 越後の合図から演奏が始まり自分も歌い始める。

 3人の演奏はお世辞にも上手とは言えない。……いや、正直に言って下手だ。でもリズムやテンポがズレることもあり歌を合わせるのに意識を向けていたためか、途中から自分の歌声を聴かれていることをすっかり忘れながら歌っていたから逆に気が楽だったのかもしれない。

 演奏が終わるとすぐに宮本が口を開いた。


「佐々木云々以前に俺達が下手くそ過ぎるだろ。全然合ってねぇじゃねぇか」

「でもやっぱりボーカルいるのといないのとじゃ違うだろ?」

「だな」

「確かに俺も練習でもボーカルいた方がいいと思う……」

「なぁ佐々木、俺達の練習に手を貸すって意味で、ちょくちょく合わせてくれないか? 生徒会優先でいいからさ」


 さすがにそういう頼み方をされたら断ることはできなかったけれど、自分を必要としてくれる友達がいると実感できて嬉しかった気持ちもあった。


「……わかった」

「よし、なら時間あるしもう1回やろうぜ」

「だな。ていうか真島、なんで黙ってんだ。なんか感想言え」


 宮本の言うとおり真島が静かだ。そういえば聴く前からいつもと様子が違っていたように思う。


「ん〜、なんか聴いてたら俺も混ざりたくてさぁ〜。でも俺楽器できないしな〜って思ったんだけど、そういえば小2のとき学芸会でトライアングルやったんだよね。だからトライアングルならできると思ってさ〜。俺も入っていい?」

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