藤澤 1 ゴミ拾い中の秘密話
「ep.8小春3」の続きでそこから4日後です。
5月31日日曜日、学校地域周辺のゴミ拾い活動があるため自転車に乗り制服で学校へ向かうと、校門では先生や生徒がすでに何人か集まっていた。
時間には間に合っているはずだが、急いで駐輪場に自転車を置き生徒会室に入ると、会長と常盤先輩が先にジャージに着替えて待っていた。
「おはようございます」
「おはよう藤澤」
「おーす」
「あれ? 他の人たちはまだですか?」
「違うっての。お前が最後だよ藤澤。私たち以外はもう始めてるっての」
「あ、そうですよね……。すみません、今すぐ着替えます」
「ああ、さっさと着替えろ」
「……あの常盤先輩」
「なんだ?」
「いや、その……」
「いやいや気にするな」
「すみません、気になります……」
「はいはいわかったよ。私先に校門とこ行ってるから」
「はい、すみません」
女子の常盤先輩の前で着替えるのは流石に抵抗がある。
着替えている最中に会長から経緯を伝えられた。
「俺が最初に来て生徒会室の鍵を開けて待っていたんだが、菊池と千葉と菱川がすぐに来てな。その3人でグループを作って先に始めてもらったんだ」
「そうだったんですね」
「そのあとに常盤が来たから藤澤が来るのを待っていた」
「すみません、1年なのに最後で……」
「いや、予定時間にはギリギリ遅れていないから問題ない」
「あれ? 佐々木先輩はどうしたんですか?」
「佐々木は清掃部員の友人と一緒にやっている」
「そうなんですか」
自分もジャージに着替え終わり、持ってきた荷物を生徒会室に置いて廊下に出ると、会長が生徒会室の鍵を閉め「鍵を置いてくるから先に校門まで行っててくれ」と足早に職員室へ向かった。
先に校門に行くと常盤先輩が待っていた。
ゴミ拾いには清掃部員も何人か参加している。先に到着した人からグループを作ってごみ拾いを始めているようだった。
会長もすぐに合流し、学校側から支給されたゴミ袋とトングを先生から受け取った。軍手は各々持参した物を使う。
邦南高校は東側が林や畑が広がっていて、南側には田んぼ道があり小さい堀のようなものもある。北側と西側は道路になっており、西側をまっすぐ歩いていくと駅がある。都会か田舎かと言われれば田舎寄りの学校だろう。
自分と会長と常盤先輩は学校の南側のゴミを探すことになった。
しばらくゴミ拾いを続けていると、常盤先輩と会長がゴミを探しながら話し始めた。
「夏実たちってどの辺やってんすかね?」
「わからん。佐々木はさっきチラッと見かけたから俺たちと同じ南側だろうな」
「佐々木って今友達とゴミ拾いしてんですよね?」
「ああ、そうだな」
「てことは真島だろうな。あいつ確か清掃部だったはず」
真島? 知らない人だ。2年の人だろうか?
「そうだ。真島ともう1人の友人と一緒にやっているはずだ」
会長も真島という人を知っているようだ。
「会長も真島知ってんすか?」
「ああ、知っている。とても愉快な生徒だ」
「あれは愉快ってレベルじゃないでしょ!」
そういえば校内放送の呼び出しで真島という名前を何回か聞いた気がする。その人だろうか?
「だが佐々木にはあれくらいのやつが近くにいた方がいいだろう」
「まぁそうかもですけど……」
「俺は来年にはいないからな。おそらくお前や藤澤では駄目だろう」
「私じゃそもそも論外ですよ。藤澤も学年違うし無理でしょ」
確かにそのとおりだ。
僕や常盤先輩では駄目だろう……。
「だから今の内に佐々木には友人たちともっと仲を深めてほしくてな」
「それは私もそう思います」
「ちなみに佐々木はこのあとのゲームには参加しないからな」
「え、なんで?」
「その友人たちと先に約束があったみたいでな。佐々木と相談したが、そちらを優先してもらったんだ」
「そっすか。でもあんなゲーム、佐々木は無理じゃないですか? どうせ副会長が考えたんでしょ」
「そうだ、菊池の発案だ。逆に佐々木はいなくてよかったかもしれないな」
あんなゲーム?
ただの早口言葉のようなゲームではなかっただろうか?
「ていうか会長、この前私いないときにあのお題スゴロクやったんすね」
「すまん、急にやることになってな」
確かにあのときは常盤先輩がいなかった。
「あれ私もやりたかったですよ。去年やったとき、けっこう面白かったんで。なんであの日急にやったんですか?」
「……あの日は元々生徒会の仕事がなかっただろう」
「ええ、だから私歯医者の予約入れたんで」
「それが当日、急に教頭先生から用事というか依頼というか、そういうことを頼まれてな。それで藤澤たちを呼び出したんだ」
「でもあの日って教頭倒れて運ばれたんじゃなかったですっけ?」
「そうだ。だから結局それがなくなってしまった。だが、呼び出してしまってなにもしないというのもあれだと思ってな」
「だからゲームしたんすね」
「そうだ。本当は今日あれをやるつもりだったんだがな」
「……ってことは会長は教頭が倒れたの当日から知ってたってことですか?」
「ああ、たまたま職員室にいたからな」
「へぇー。……で、その教頭から頼まれたってのはなんなんすか?」
「……うーーーん、これは言っていいものか……」
「教えてくださいよ。私あれ参加しなかったんですから、少し話聞くぐらいいいでしょ」
「……なら常盤も藤澤も他の人には絶対話すなよ」
「そんな秘密にしなきゃいけないことなんすか?」
「一応な」
「誰にも言わないんで聞かせてくださいよ。藤澤も絶対誰にも言うなよ」
「わかりました」
ゴミ拾いを一旦中断し、僕と常盤先輩は会長から話を聞くことにした。
「……わかった。まず簡単に言うと教頭先生がお孫さんを学校に連れてきてしまってな」
「え? なんで孫?」
「……悪い、話す順番を間違えたな。最初から話すから、質問はあとからにしてくれるか」
「わかりましたよ」
「……教頭先生の家は教頭先生と高齢の母親と教頭先生の息子さんとそのお嫁さんとまだ幼いお孫さんの5人暮らしでな。それで息子さんが出張でいない間にお嫁さんが怪我をして入院したらしい。なのであの日だけはお孫さんを高齢の母親が面倒を見ることになったという。それで教頭先生が車で学校に着いたらお孫さんが後部座席にいてびっくりしたそうだ。おそらく後部座席に荷物を積んだときにお孫さんが潜り込んだんだろう。学校に着くまで静かで全く気付かなかったと言っていた。学校に着いてどうするか迷っていたところを養護教諭の丹羽先生が見てしまってな。学校から教頭先生の家までは結構距離があり、家に戻るのもなんだから1日だけ学校で預かればいい、と言われてそうすることにしたようだ。教頭先生の母親が来られればよかったんだが、高齢で足が悪く、電話で連絡したら邦南高校の場所もわからないみたいでな。結局お孫さんは生徒に見つからないように校長室で面倒を見ていたんだが、放課後は校長室を使う予定で生徒会室ならいいんじゃないかということで俺に頼んできたんだ。それで俺1人で面倒を見るのは大変だから皆を呼ぶことにした。しかし教頭先生が昼休みに倒れてな。救急車で病院に行くときに司馬先生が同行し、それとは別に梨田先生と丹羽先生がお孫さんを連れて病院へ向かったんだ。だから結局俺たちはなにもしなかったというわけだ。それと当日の夜に息子さんが主張先から急いで駆けつけてお孫さんは無事家に帰れたらしい。以上だ。なにか質問あるか?」
あの日そんなことがあったのには驚いたけれど、自分はほとんど関わっていないので正直あまりピンとはこなかった。
というより会長があまりにも詳しいので、何故そこまで詳しいのかがむしろ気になる。
「……なんで会長はそんな詳しいんすか?」
常盤先輩も同じくそう思っていたようだ。
「俺は当日お孫さんと会っていたし、昨日教頭先生のお見舞いに行って話をいろいろ教頭先生本人から聞いたからな。それと丹羽先生にも話を聞いたからだ」
「会長教頭のお見舞い行ったんすか!?」
「ああ。心配だったからな」
「誰と?」
「1人でだ」
「……教頭お孫さん連れてすぐ帰ればよかったんじゃないすか?」
「あの日は午後から他校の教師たちとなにか大事な仕事があったとか言っていたな。だから学校にいなくてはいけなかったようだ。教頭先生は結局倒れたからその仕事もできなくなったようだが……。だからあの日は職員室で教師たちがてんやわんや状態だったらしい。俺たちがなにか力になれればよかったんだが、いかんせん教師たちの問題だったからな。部活も顧問がいないせいで休みになったところが多かっただろう」
「確かにあの日部活休みのとこ多かったな。……他校と大事な仕事って何すか?」
常盤先輩が次々質問していく。
「さすがに俺も教師の仕事内容までは知らん。だが俺たち生徒会も他校と関わる活動があるだろう。おそらく教師同士でも横の繋がりのようなものがあるんじゃないか?」
「へぇー。……校長もよく許可したなぁ」
「ウチの校長先生と教頭先生は昔からの知り合いらしいぞ」
「そうなんすか? そんなの初めて聞いたな」
「僕も初耳です」
「俺も昨日お見舞いに行ったとき教頭先生から聞いたばかりだ」
「で、教頭の家は大丈夫なんすか? あと教頭本人も」
「息子さんがしばらく休みを取ったらしくてな。なんとか大丈夫そうだ。そんなに心配なら常盤も教頭先生のお見舞い行ったらどうだ?」
「イヤですよ。行くなら藤澤が1人で行け」
「流石に1人は嫌ですよ。行くなら常盤先輩も一緒に行きましょうよ」
「イヤだよ、めんどい。会長が行ったんだからいいんじゃないすか?」
「無理強いはせん。行きたいなら行けばいいというだけだ」
「……こんなプライベートなこと言ってよかったんすか?」
「お前が聞いたんだろう」
「他に知ってる人は?」
「おそらく生徒では俺たち3人だけだろうな」
「じゃあもし他の生徒に漏れたら藤澤が犯人ってことだな」
「なんでそうなるんですか。僕は誰にも言いませんよ。それより常盤先輩の方が怪しいですよ」
「いやいや、私口は堅いからな」
「とりあえず聞かれたから話したが、他の人には絶対黙っていろよ」
「はーい」
「わかりました」
会長の話が終わったのでゴミ拾いを再開した。
……が、
「というのは冗談でだな」
え!?
「は!?」
「え!?」
思わず僕も常盤先輩も会長の方を振り向いた。
「いや会長! どこが冗談なんすか!?」
常盤先輩が会長に詰め寄った。
「どこだろうな。教頭先生が倒れて入院しているのは本当だ」
「それは知ってますよ!」
「気になるなら教頭先生のお見舞いに行って本人に直接聞けばいいんじゃないか? 教師の何人かは教頭先生が入院している病院を知っているだろうからな。生徒会としてお見舞いに行きたいと言えば場所を教えてくれるだろう」
「いやいや……」
「言っておくが、教頭先生以外に聞いたり話したりするのは駄目だぞ。さっき他の人には絶対黙っていると約束したからな」
「……それって会長の話が本当かどうか確認したかったら教頭のお見舞いに行けってことですよね?」
「それはお前たちの捉え方次第だろう。とりあえず俺はゴミ拾い再開するからな」
そう言うと会長はゴミを探し始めた。
すると常盤先輩が今度は僕の方に近づいてきた。
「どう思う藤澤?」
「……もしお見舞いに行って教頭先生に話を聞いても、もし会長の言っていたことが嘘だったら教頭先生から変な生徒だと思われますよね」
「だよな。なんだこいつって絶対思われるだろ。他の教師に聞くのはダメか?」
「駄目でしょう。絶対って約束でしたから」
「……だよな。……生徒会で教頭のお見舞い行くとかいう話は出てないよな?」
「はい、そういう話は聞いてないですね」
「てことは会長はお見舞いには行ってるっぽいような気がするんだが……」
「僕もそう思います。……でももし面会謝絶されるくらい重症だったら、会長はお見舞い自体行ってないってことですよね?」
「他の教師に教頭の状態聞くのはありか?」
「聞いて重症だったら会長は嘘ついてるってことですか」
「逆に軽ければ……いや、その場合結局お見舞い行ってこいとか言われそうだな……。お前1人で行ってくるってのは」
「だから嫌ですって! 行くなら2人で行きましょうよ」
「めんどいな……」
「もうどっちでもいいんじゃないですか?」
「え?」
「もう終わったことですし、元々僕たちにはほとんど関係ない話ですよね?」
「……確かにそうだな、私ら全然関係ないわこの話。それに復職してから聞くってのもアリか」
「そろそろ再開しましょう」
「……ああ、そうだな」
話を切り上げてゴミ拾いを再開することにした。
ゴミを探している最中、もしかすると会長が言っていたことは全部本当のことで、僕たちに説明したあとに話し過ぎたと思い、はぐらかすために「冗談だ」なんて言ったのかもしれない、なんてことを考えていた。
「お、エロ本みっけ。おい藤澤、エロ本見るか?」
「見ませんよ」
「またまた〜。遠慮すんなって」
「見ませんってば!」
「会長〜、エロ本いります?」
「ハハハハハ、いらん!」
その後は真面目にゴミ拾いを続け、しばらくすると終了時刻になった。
学校の校門まで戻り、拾ったゴミを回収してもらいトングを学校側に返したあと、手を洗ってから生徒会室へ向かった。




