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佐々木 1

 幼い頃は良かった。何も気にすることなく皆と楽しく遊べていたから。小学生中学年くらいになると少しずつ友達が離れていった。高学年あたりになると仲のいい友達はほとんどいなくなっていた。

 その少なかった友達とも中学は別になり、中学生活は独りぼっちだった。クラスメイトが直接危害を加えてくることはなかったけれど、無視をされたり悪口や陰口は言われていた。自分がこんな人間だからだ。それでも学校には通い続けた。一度でも休むとそのままズルズル不登校になると思ったからだ。耐えるだけの3年間だった。

 高校は電車で通える少し遠い高校を選んだ。人間関係をリセットするためだ。それでもやっぱり駄目だった。入学以降ほとんどの人に話しかけられず、興味本位で少しちょっかいをかけてきたりするのが少しあったくらいで、結局その後は中学のときと同様の高校生活が過ぎていく。唯一好意的だったのは入学初日に同じクラスの男子から「俺真島禄斗〜、よろしく〜」と挨拶されたときだけだった。


 6月、担任の風間先生の提案で生徒会に入ることを決めた。自分のような人間でも生徒会の人達であれば爪弾きにしないだろうから、その人達と一緒にいることで少しでも高校生活を楽しいものにしてほしい、と説得されたのがきっかけだ。

 不安な気持ちを抱えたまま初めて生徒会室へ行くと、生徒会長を含めた先輩達3人が手作りのスゴロクのような物でもてなしてくれた。

 その後正式に生徒会に加入すると、その3人以外の人達からもこんな自分を受け入れてもらい、初めて自分の居場所ができたようでとても嬉しかった。

 でも元木先輩にはこのままでは駄目だと言われた。 

 それは自分でもわかっている。でも自分自身ではどうしようもない問題だ……。


 7月に入り生徒会の皆とは少しずつ親睦を深めてはいたけれど、結局自分のクラスでは話せる相手すらいないまま夏休みに入った。

 ある日、学校の最寄り駅よりさらに2駅先のA駅から少し歩いた場所にある服屋に行った。遠出すれば自力でなんとか服は買うことはできる。ただの気持ちの問題かもしれないけれど、地元では足が進まない。

 でも自分と逆の人はもっと苦しんでいるんじゃないかと考えると、自分はまだマシなのかもしれないとも思う。

 服を買って店を出た直後、前方から歩いてきた男子に急に話しかけられた。


「あれ? 君佐々木だっけ? 俺同じクラスの真島。知ってるよね? ここで何してるの?」

「あ、え、えっと……」


 店から出た瞬間だったのでとても慌ててしまった。

 ……いや、クラスメイトだったのも理由だろう。

 

「今暇?」

「え?」

「暇なら一緒にカラオケ行かない?」

「う、うん……」


 真島君はクラスでも問題児として有名なのは知っている。自分とはまた別の意味で問題のある生徒だ。

 それでも同じクラスの男子に誘われたせいか、つい一緒に行くと言ってしまったけれど、何故親しくもない自分に声をかけたのだろうか? 

 真島君に案内され駅の方に戻るとカラオケ屋があった。個室に入る前から真島君は楽しそうにしている。  


「何歌う? 俺から歌っていい?」

「う、うん、いいよ……」


 カラオケ屋に入ったのはいいけれど、自分の歌声は聴かれたくなかった。正直どうしようか迷っていたので先に真島君が歌ってくれて少しほっとした。けれど真島君が歌い終わったらどうするべきか……。そんなことを考えていると真島君が歌う曲を入力した。


「じゃあ、やっぱりこの曲かな〜」

「あ、その曲……」


 真島君が選んだのはワムリグシャの曲だった。

 ワムリグシャは少しずつ売れ始めているバンドグループだけど、真島君が選んだ曲だけはファンの人達からも変わり種の曲として扱われていて、メンバーの1人が「ただの趣味で作った曲」とも公言している。

 歌詞が独特でテンポが早く、自分が好きな曲でもある。


「香車がサイドを駆け上がりー

 角がミドルシュートを狙うー

 桂馬がキラーーパスを出しー

 持ち駒の金が得点王!」


 真島君が歌っているけれどとても音痴だ。

 リズムもズレている。


「桂馬の高跳びボールをロスト

 金底歩打ちでピンチを脱す

 馬がダイアゴナルランで飛び出し

 腹銀バイタルエリアでキープ!」


 それでもとても楽しそうに歌っている。


「詰めーろ逃れの詰めーろ逃れの

 詰めーろ逃れの詰めろを返して」


 自分も歌うのは好きだけれど、人がいる前でこんなに楽しく歌えるだろうか……。


「ゲーゲンプレスで詰めろをかけろ

 自陣はZだカテナチオ!」


 真島君は歌い終わると話しかけてきた。


「佐々木はこの曲知ってる?」

「……うん、知ってる」

「意味わかる?」

「うん、わかるよ」


 自分はサッカーも将棋も両方知っている。

 欧州サッカーやW杯も観ているし、将棋もスマホのアプリでよく指したりテレビで観たりもしている。

 比較的多趣味で広く浅くという感じだ。


「おー、ホント? 俺の周りにこの曲の意味わかる人いなくてさぁ」

「……真島君も将棋指すんだ?」

「俺弱いけどね〜」

「ぼ、僕も弱いよ」

「佐々木は自分のこと『僕』って言うの?」

「う、うん……。変かな……」

「んー、『俺』にしたら?」

「オ、オレ?」


 確かに 俺 の方が男っぽくはあるけれど……。


「だってその方がいいよ。……ねえ、佐々木って友達いるの?」


 心に突き刺さる質問が飛んできた。嘘を吐くのも嫌だけれど、正直に答えたくもなかった。それでも黙ったままでは駄目だと思い「……い、いない……」と、小声で返した。


「そっか。やった~」


 え!?


「じゃあ俺が佐々木の初めての友達だなー。友達1号だー」


 昔は友達がいたわけだから正確には友達1号ではなかったのだけれど、今はそんなことはどうでも良かった。


「僕と友達になってくれるの……?」

「だから『俺』の方がいいってー」

「う、うん。……オレ」

「もちろんいいよ〜」

「……オ、オレのこと知ってて言ってるんだよね?」


 そうじゃなかったらあとから嫌われるかもしれない……。


「俺そういうの全然気にならないからなぁ。佐々木はゲームとかする?」

「う、うん、好きだよ!」

「なら今度俺の友達に夜長ってやつがいるからそいつと一緒に俺ん家でゲームしよ〜。あと俺と将棋もしようよ〜。夜長将棋知らなくて指す相手がいないんだよねぇ」

「う、うん!」

「じゃあ連絡先交換しよ〜」


 同じクラスの男子の真島君と友達になり、連絡先まで交換できた。

 大袈裟かもしれないが、人生が変わっていく瞬間のように感じた。


 高校生になってから初めての友達ができた。

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