鈴山
月曜日の1時間目は音楽で、おまけに2時間は体育だから月曜日はいきなり移動が続く。
「渉、諒太、音楽室行こう」
弘和に声をかけられ3人で音楽室に移動していると、廊下で知らない女子が近づいてきた。上履きが黄色ということは3年だ。
「あれー、弘にリョーもいる〜」
「おはよ」
「おはようございます」
「おはよ〜。2人友達なの?」
「はい、同じクラスなんです」
諒太が答えた。2 人の知り合いらしい。どういう関係だろうか?よく見るとけっこうタイプかもしれない。
「弘は相変わらずコーイチと似てないな〜」
「それ毎回言うよね」
弘和はフランクに話してる。彼女じゃないよな?
「どこかに移動中?」
「音楽室だよ」
「そっか。じゃあね〜。あ、リョーはまた放課後ねー」
「はい」
諒太とまた放課後ということは生徒会の人か?まさか諒太の彼女じゃないよな?
「お前ら今の人とどういう関係?」
「あの人生徒会の先輩で副会長だよ」
「へぇ」
だよな。諒太の彼女なわけないよな。
「弘和は?」
「俺はあの人と従姉弟なんだよ」
「あー、だからなんか親しかったのか」
そうか、成程。どちらの彼女でもなかったか。
「今の人けっこう可愛いよな?」
「「え!?」」
あれ?
「何そのリアクション?」
俺何か変なこと言った?
「…あの先輩、中身あれだからね」
「あ、諒太も知ってるんだ?」
「あー…。昨日ちょっとね…」
「何?あの人なんかあんの?」
「んー、まぁ、あんまり知らない方がいいんじゃない?そういうこともあるでしょ」
「そうそう、弘和の言うとおり知らない方がいいこともあるよ」
「えー、なんだよそれ…」
結局あの人がどんな人なのか2人共教えてくれなかった。
少し遅れて1時間目の授業が終わり、2時間目は体育なので急いで教室へ戻ろうとしていると、音楽室を出たすぐの廊下でまた知らない女子が話しかけてきた。今度は上履きが緑だから2年だ。
「お、藤澤見っけ」
「おはようございます」
諒太の知り合いか。また生徒会の人か?
「なんだ、お前1時間目音楽だったのか。私ら次なんだよ」
「そうなんですか。すみません、俺達2時間目体育なんで急いで戻らないと」
「まぁまぁ、そう言うな」そう言うと、その2年生が諒太の目の前をブロックし笑いながら通せんぼし始めた。
「ちょ、なんなんですか!」
「あっはっは」
「俺先行ってるからな」
弘和が諒太を放って2年女子の横をすり抜けていった。俺は2人の様子が少し気になったので残ることにした。
「邪魔ですって!」
「なら無理矢理通ればいいだろ」
「ほんとに遅れるんでどいてくださいよ」
「はいはい、どけばいいんだろ。また放課後なー」
「……」
諒太が先輩を無視して教室へ戻り始めたので自分も付いていく。急げばまだ大丈夫なはずだ。今の人も生徒会の人か?
「今の人は何?」
「生徒会の先輩。なんか俺に対して当たりが強いというか、ちょっかいかけてくるというか…」
「ふーん。お前生徒会の先輩と仲良いな」
「でもあの人もちょっとあれだからね…」
だからあれって何だよ…。
急いでジャージに着替え体育館へ向かう。体育は通常2クラス合同なのだが、クラスの総数が奇数のため、俺達1組だけは他クラスとは合同にならない。体育はバスケで、諒太·弘和と適当にチームを組み、適当に試合をして終わった。だが試合に連敗したせいで片付けをさせられた。
散らばったバスケットボールを片付け、2人と体育館を出ようとしていると、前から2年の2人がジャージ姿でこちらへ向かってきた。1人は背が小さくて160cmくらいか。男子のはずだが少し可愛く見える。もう1人はイケメンだ。おそらくこの人達が3時間目、体育館を使うのだろう。こちらに近づくと今度は諒太からイケメンの方に声をかけた。
「おはようございます」
「おはよう藤澤。そういえば昨日藤澤とだけは会わなかったね」
「そうですね」
あれ、この人…。
「じゃあまた放課後」
「はい」
すれ違いざまむこうの声が聞こえた。
「今の人って生徒会の後輩?」
「そうだよ。藤澤諒太っていう1年生」
もしかしたらそうかもしれない…。
自分達も教室へ戻る。
「今の人も生徒会の人?」
先に弘和が諒太に聞いた。
「そう。2年の佐々木先輩」
ああ。やっぱりあの人が例の佐々木先輩か。そうじゃないかと思ったんだ。
教室へ戻り3時間目、4時間目の授業が終わり昼休みになった。いつもと同じように諒太、弘和と教室で昼飯を食べようとすると、弘和の弁当がおかずだけだった。
「あれ、またかよ弘和」
「またか…」
弘和の弁当がおかずだけだったのは先週もあった。そのとき弘和の兄貴の生徒会長が俺達のクラスに来て、弘和の弁当の中を見ると大笑いして自分の教室へ戻っていったのを覚えている。
「たぶんまた兄貴来るな」
「俺今日もパンで腹減ったし先に食ってるわ」
「ああ」
「一応僕は少し待つよ」
諒太はまだ食べないようだ。ちなみに先週のときも俺はパンだった。少しするとまた生徒会長が来た。
「おう藤澤」
「会長またですか」
「ああ。弘和、俺の弁当ご飯だけなんだ。交換してくれ」
「いいけど、これたぶん母さんのミスじゃないよね?」
「そうだ。今朝真衣が入れ替えたんだ」
「あのときと違って俺達は交換できるんだから意味ないよねこれ…」
「そうだよな」
「あいつ母さんのこと天然とか言ってるけど、真衣自身もけっこう天然でおまけにアホだよね…」
「そうなんだよな…。怒るだろうから本人には言うなよ。とりあえず俺は自分の教室に戻る。藤澤は放課後な」
「はい」
そういえば今日は生徒会の人達とよく会うな。同じクラスの菱川さんも確か生徒会だっけか?
「弘和の妹ってアホなの?」
そこ掘り下げるのか諒太…。
「アホだね。少なくとも自分がアホだって自覚がないくらいにはアホだね」
「お前けっこう酷いこと言うな…」
俺はひとりっ子だからよくわからないがそういうもんなのか?
「会長はアホとか天然ではないけど変わってるよね」
「そうだね。母さんも天然だし弟もけっこう変わってるよ。俺が4兄弟で一番マシ」
でもお前はお前でけっこう勝手なとこあるよな、とは思ったが、それを言うのはやめておくことにした。
雑談しながら昼飯を食べ終え、5時間目、6時間目の授業も終わり放課後になった。
俺は軽音部所属なので、軽音部の部室になっている空き教室へ行くと、2年生の宮本先輩が先に来ていた。設備が限られていて今日は2年生が使う番だ。でも俺は自分のギターがあるので問題ない。
「よお、鈴山」
「お邪魔しまーす。他の先輩達は?」
「今日俺達の番だから3年はたぶん来ないだろ。奥井と越後は3組寄ったら掃除当番だったから、もう少ししたら来るんじゃね?森原は?」
「あいつもたぶん今日は来ないですよ」
森原は俺と組んでいる1年だ。俺がギターで森原がベースをやっている。しかし今のところその2人しかいないのでメンバーが足りていない。2年生も3人で組んでいるがボーカルがいない。3年生は4人いて、その4人でバンドを組んでいる。つまり1年と2年のバンドはメンバー募集中なのだ。
「お前らとりあえずどっちか歌う練習したらどうだ?」
「俺歌いたくないんですよね。歌下手だから。森原は歌いながらやるのは無理って言ってるし…。それに先輩達だってボーカルいないじゃないですか」
「俺達はいいやつ見つけたから今交渉中だ」
「え、マジすか!」
「マジだ。おまけに歌うの上手いからな」
「うわー、いいなぁ…」
少しギターの練習をしていると奥井先輩と越後先輩が
やってきた。
「あ、鈴山いるじゃん。ちょっと教えてほしいことがあるんだけどさ」
「奥井先輩、後輩の俺に教えてもらい過ぎじゃないすか?」
俺は中学1年からギターを始めたので、高校から始めた奥井先輩よりもギターが上手い。なので奥井先輩は毎回わからないことを俺に質問してくる。
「だって俺より詳しいし、3年の先輩ちょっと怖いんだよ…」
「まぁ奥井先輩ビビリですからね」
「ハハハ、奥井後輩に馬鹿にされてるぞ」
「俺ビビリじゃないってば」
「越後先輩も下手くそでしょうよ」
「俺は下手で当たり前だろ。なんせ奥井や宮本と違ってここでしか楽器使って練習できないからな」
「おい、ドラムだって楽器が無くても家で練習できるだろ」
「ハハハ、確かにそうだな。それに文化祭で演奏することになるようならさすがにもう少し上手くならないといけないか。いくら小さい仮設ステージでも恥かくのは嫌だからな」
「いや、今年は軽音部体育館だぞ」
え!?
「あれ?軽音部って体育館使えないんじゃないですっけ?」
確かそんな話だったような…。
「だよな。俺もそう聞いてたけど…」
「俺も…」
越後先輩と奥井先輩も初耳のようだ。
「なんか演劇部が体育館じゃなくて武道場使うらしくて、そのかわりに軽音部が体育館使えるってよ」
「宮本、それホントか?」
「演劇部が体育館使わないってのを同じクラスの高橋から聞いて、それを3年の先輩達に言ったら速攻で生徒会室行って生徒会長から許可取ったらしい。空いた時間だから早いもの勝ちだったのかもしれん。だから俺達が文化祭で演奏する場合は設備移動大変だろうから体育館ってことになる」
「うわぁ…。俺体育館でやりたくないよ…」
「奥井先輩やっぱりビビリでしょ」
「ハハハ」
「ま、俺達がやる場合はだけどな」
「でも今ボーカル交渉中なんですよね?練習したほうがよくないですか?」
「…だな。俺家でも少し練習するようにするわ…」
「ああ、そうしろ」
「だから俺は練習するために鈴山に聞きたいことがあるって言ってるじゃん」
「はいはい何ですか奥井先輩」
数ヶ月後、結局文化祭では2年生と3年生は演奏したのだが、俺達1年生はメンバーが足りなくてステージに立つことはできなかった。




