真衣
いつもどおり中学校に行き、いつもどおり自分のクラスの3年5組で授業を受けた。でもいつもとは違うことがある。今日は給食ではなくお弁当なのだ。
友達の清子が先生に「机移動して好きな場所で食べてもいいですか?」と聞くと「そうだね、今日は好きな場所で食べてもいいよ」と言ったので、私は友達の清子、彩、聡美と食べることにした。いつもは班の人達と机を合わせて食べているけど、今日は3人と一緒なのでおかずの交換しあいっこをしながら食べよう。
彩と聡美の席が近いので私と清子がその2人のところに机と椅子を移動させ、4人の机をくっつけた。
彩 清子
つくえつくえ
つくえつくえ
聡美 私
私の弁当箱は上下におかずとご飯が分かれているタイプだ。2つセット売りになっていたのをお母さんが買ったらしい。男子が使うような可愛くない弁当箱なので、お母さんに「もっとカワイイ弁当箱がいい」と言ったら「中学の間はそれで我慢して。高校生になったら新しいの買ってあげるから」と返された。今買えばどうせ高校でも使えるんだからすぐ買ってもいいのに、と思ったけれど、中学ではたまにしか使わないということもあり我慢することにした。それと弁当箱自体が男子用で少し大きいので、私のお弁当のご飯の量は少なめにしてあるはずだ。
食べ始めようと弁当箱を空けたら上段にご飯が入っていた。普通は上段におかずで下段がご飯だったはず。確か前にもお母さんが上下逆に入れていたことがあった。私のお母さんは天然なのでこういうミスをしょっちゅうする。トイレの電気の消し忘れも多く、塩と砂糖を間違えたこともある。なので多分また上下逆に入れたのだろうと思い、下段も開けてみた。
こちらもご飯だった………。
それを見た彩が、口に含んでいた食べ物を吹き出した。
「ブフッ」
彩が吹き出したものが聡美の机に飛んでいった。
「ちょ、彩、汚っ」
「アハハハ、彩めっちゃ吹き出してるし」
彩が吹き出したのを見て清子も笑い出した。
「だって見てよ真衣のお弁当!はははは」
「どうする真衣?うちらのおかず分ける?」
聡美だけが心配してくれた。
「ううん、弟のとこに行ってくる」
私には弟がいて同じ中学の1年生だ。当然弟の晴久も今日はお弁当なので晴久のクラスに行くことにした。
「そう。いってらっしゃい」
「いってら〜」
「いってら〜」
先生に事情を説明し、弁当箱を持って晴久のクラスの1年3組へ向かった。1年3組の前の廊下に着き教室内を見てみると、まだ食べ始めていなかった。どうやら4時間目の授業が体育で遅れていたようだ。
「すみません、失礼しまーす」
教室の中にいる晴久を見つけたので、一声かけて1年3組の教室に入った。上履きの色が違うため、すぐに3年生が教室に入ってきたことがわかったようで、周りの子達が少しざわざわし始めた。気にしててもしょうがないので晴久のところに行く。
「晴久、お弁当出して」
「え、何?どうしたの姉ちゃん?」
私が晴久と話し始めると、晴久の友達の隆が近づいてきた。こいつは晴久と遊ぶためにしょっちゅう私の家に来るため、私のこともよく知っていて、しかも呼び捨てにしてくる。
「どしたん真衣?」
「晴久、お弁当出して。私のお弁当こうなってるから」
持ってきたお弁当を上下に分け両方の中身を見せた。
「だはははは、オモロ!真衣の弁当飯だけじゃん!」
「うっさいな!お母さんのミスだから!」
「わかったからちょっと待って。今出すから」
晴久が弁当箱をカバンから出し中身を確認しようとした。
「でもさ、確率的には3分の1だよ」
晴久の言うとおりだ。私達には兄が2人いる。高1と高3で2人は今日もお弁当だ。
「もし俺が普通にご飯とおかずだったらどうすんの?」
確かにその可能性の方が高い。
「そのときはあんたのおかず半分と私のご飯半分を交換でしょ」
「…ま、そうなるか」
弟は姉には逆らえないのだ。
晴久が弁当箱の上段を開ける。
…………ご飯だ。
あれ?上段は普通おかずじゃなかったっけ?
…お母さんが、上下入れ間違えたのかもしれない。天然なお母さんならあり得る。
下段も開ける。
………………ご飯だった。
「だはははははははははははははははうぐっっ……」
隆がうざいので腹パンをくらわせた。
「ぎゃはははは」
「あははははは」
周りにいた男子にも笑われているが、流石に知らないやつに腹パンはできないので放っておく。
「これどういうこと?もしかして誰かお母さん怒らせた?それとも純粋に手抜きってこと?」
「いや、俺今日の朝、普通に弁当のおかずの余り食べたよ…」
「てことは…」
「兄ちゃん達におかずおかずってことでしょ…」
「………マジか」
「母さんならあり得そう…」
確かにお母さんならあり得る…。
「…隆、おかずよこせ。くれなかったら夏休みの宿題手伝わないからな」
「えーー、それは困る!」
隆は毎年夏休みの宿題を晴久に手伝ってもらいに私の家に来る。夏休み終盤の恒例パターンだ。小学生のときでもそうだったのだからもちろん中学でもそうするつもりだろう。
「武蔵ーーーこっち来て!」
弟が呼ぶと席の離れた男子が1人こちらへ近づいてきた。私が知らない晴久の友達だろう。
「何、どした?」
「俺の弁当これだからおかずよこせ。くれなきゃ夏休みの宿題手伝わないからな」
「え、マジで?」
「マジで」
「…わかった。おかずあげるから宿題手伝ってくれ」
お前らもうすでに自分で夏休みの宿題やる気ないのか…。夏休みまだけっこう先だぞ…。
「それより姉ちゃん、さっさと自分の教室戻ったら?」
そうだった!!
自分の弁当箱を戻し、急いで自分の教室へ向かった。清子と彩と聡美からおかずを分けてもらわないといけない。ある程度はもう食べてしまったかもしれないけれど、少しは分けてもらわないと流石にマズい。
「お帰り真衣〜。どうだった?」
「……………弟もご飯ご飯だった」
「ブフッッ!」
「ブァハッッ!」
「ブフォッ!」
今度は3人共吹き出した。また机に食べ物が飛散してしまった。それを見て私も笑ってしまった。
「ははははは、真衣のお母さんオモロ過ぎー」
「アハハハハ、それどういうことー?」
「ちょっ、みんな汚いって!」
「あはははは、清子も吹き出してんじゃん!」
「あっはっはっは、お前ら吹き出し過ぎだろ!」
「アッハッハッハ」
「ちょっとそこ、うるさいわよ!」
周りの男子達にも笑われた挙句、先生にも注意されてしまった。事情を先生に説明すると先生からおかずを少し分けてもらった。清子、彩、聡美からも少しずつおかずを分けてもらい、なんとかお昼ご飯を済ませた。ご飯の半分は男子にあげた。
そしてその日から私は男子から『はくまい』とあだ名をつけられた…。
その日の夜、母を含め5人で晩御飯の最中その話になった。
「お母さん!私と晴久のお弁当両方ともご飯だったんだけど!」
「ごめんね〜、うっかりしてて間違っちゃった」
「光兄と弘兄はご飯なかったんでしょ。どうしたの?」
「俺が友達と一緒に食べようと思ってたら光兄が俺の教室に来て弁当見せてきてさ。両方おかずだから一応俺の弁当心配したんだと思って、自分の弁当開けてみたら俺の弁当も両方おかずだから驚いたよ。たぶん真衣と晴久がご飯だけだと思って申し訳なくてさ。でもそれ見た光兄は大声で笑い出して、クラスのみんなに注目されて大変だったよ。光兄ただでさえ目立つのに。それで集まってきた人達とおかずとご飯交換してもらったんだ」
「俺はそのあと自分の教室に戻って皆からご飯を分けてもらったな。ダイエット中だからと言っていた女子達からも貰った。人徳というやつだな、ハハハ」
弘兄と同じ状況だったはずなのに何故か光兄に対してだけ腹が立つな。
「あら、そうだったの。それで真衣と晴久はどうしたの?」
「私が晴久の教室行ったら晴久も両方ご飯だったから、それ見た周りの人達に笑われて大変だったの!それに私は友達と先生からおかず分けてもらったんだけど、晴久友達脅しておかずふんだくってたんだよ」
「違うよ。交渉だよ交渉」
「ただいま〜。帰ったぞーー」
あれ、お父さんが帰ってきた…。
「あら、今日は遅くなるから夕飯いらないんじゃなかった?」
「え?そんなこと言ってないぞ?」
どうやらお母さんが勘違いしてお父さんの分のご飯を作らなかったようだ…。
「え、もしかして俺の分作ってないのか?…ま、いいや。今から何か作ってくれ。肉ならなんでもいいや」
「お肉は私達ので使い切っちゃったのよ」
「え…」
今日の晩御飯は豚の生姜焼きだ。でも、まだみんな全然食べ終わっていなかったにもかかわらず、結局誰もお父さんにおかずを分けてあげなかった。ちなみにお父さんは肉無し野菜炒めを食べた。
数日後の土曜日、光兄が明日お弁当を用意してほしいとお母さんに頼んでいるのを聞いた。若干光兄には腹が立っていたので自分と同じ目に合わせることにした。
その翌日の朝、お母さんに「私が光兄のお弁当を作る」と言って、光兄のお弁当をご飯だけにしてやった。
しかし光兄が帰ってきたあと台所に行くと、空の弁当箱と開封された缶詰が2つ置いてあった。どうやら私の企てがバレていて缶詰を持っていったようだ。
明日も光兄と弘兄はお弁当のはずなのでお母さんの目を盗み、弘兄をおかずおかずに、光兄をご飯ご飯に入れ替えることにする。




