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休務の時間

「よし、引き揚げよう。シーナとエミーは一旦帝府に送る。容子たちは先にニースへ戻ってくれ」

「わかったわ。みんなこちらに集まって! 転移するわよ」

「待って!」

 アイサ意見具申。

「あたしは残るわ」

「……ブラッドか?」

「ええ、彼は今回の事変の首謀者。放ってはおけないでしょ?」

「……確かに俺の手でケジメ取ってやりたくはあるが、これは人間界での事件だ。奴を捕らえたり裁いたりするのはアデスの人間でなければならん。エミーたちの救出が完了した今は俺たちは手伝えんぞ?」

「わかってる」

(僕も行く!)

「レイ。あんた回復したばかりなんだから……」

(行くよ僕)

「レイ……」

(僕もアイサと同じだよ。ブラッドが何のために僕たちを焚き付けたのか。それを知りたい)

「隊長、沢田くんから連絡。ブラッカス近衛隊一個中隊がこちらに向かって進軍中よ」

「動いたか。容子、あとどれくらいで来る?」

「一時間はかからないわね」

「時間はあまりないが……それでも行くか? アイサ、レイ」

「彼を捕らえるとか成敗とか考えちゃいないわ。ただ、なぜこんな事をしでかしたのか。その真意を聞いた上で……軍に投降することを勧めるつもりよ」

「これだけのことを画策した奴だ。そう簡単にお縄につくとも思えんが……」

「話し合いで済めば、それに越したことはないでしょ?」

「金銭的な利益を追いかけているわけでは無いなら、動機は思想的なモノなのだと想像できる。損得で考えて無い分、こちらの方が厄介だ。果たして聞く耳を持つかな?」

「それでもよ。聞いてくれる人がいれば人は変われる。あたしの場合はそれが不穏分子(ターゲサン)だっただけ」

 アイサは自分を振り返りつつ誠一に訴えた。自分の中で、主軸としてターゲサンの理想に同調しながら帝府の人々を見て燻っていた何か、カルロの言動やタラの村の状況を見て自分の胸の内でザワザワ蠢いていた何か。

「そうか……レイ!」

 誠一が背中に吊っていた得物をレイに差し出した。拉致された時に残したあの太刀だ。

(あ、ありがとうございます!)

 レイは太刀を受け取ると鯉口を切って刀身を確認すると、再び鞘に納めた。

「アイサ。ブラッドの部屋の位置は分かってるのね?」

「ええ、二階の南側の一番西よ」

「転移で送ってやりたいが……これ以上は俺らは手出しは出来ん。それでも行くか?」

 黙って頷くアイサ。そしてレイも同様に。

「元帥」

「ん? 何だシオン?」

「有給休暇、口頭で申請していいですか?」

 ――ユウキュウ休暇? なに? 何の休み? 異世界の休暇?

「……却下だ。有給は書面で48時間前に提出厳守だ」

「……」

「同胞の救出作戦は完了だ。お前らは速やかに12時間の休務に移行しろ」

「休務……ですか?」

「本作戦に限らず任務終了後は休務が慣例だろう。容子、お前が引率して連れていけ」

「……りょーかい! ほら、みんな撤退するわよ。アイサ、レイ。あなたちもいらっしゃい」

「え? あたしたちも?」

「いいから、ヨウコさんに付いてって」

(え? 僕も?)

 戸惑うアイサとレイに、シオンはバッチーンと音がするんじゃないかと思うくらいのウインクをかましてきた。良くは分からないが何かしらの思惑があっての仕草であろう事は彼女やカグラらの表情を見てもわかったのでとりあえず指示に従う。

「ヨウコさん、こいつらお願いするっす。あたしはシルヴィの様子見でクロさんとニースに向かうっす」

「わかったわ。ケガ人が出たらすぐに呼んでね」

 容子を先頭に、アイサ、レイ、シオン、カグラは地下室をから出て行った。

「さて……」

 残った誠一らは数本折られたあばら骨の痛みに耐えながら這い蹲って尚も逃亡しようとするペンゴンを、見下ろしながら言った。

「セイイチ様、こやつは私にお任せくださいな」

「ラー?」

「転送魔方陣をよりにもよって夜王の領地で展開するとはな、愚かにもほどがあるわ。いやそれよりも……」

 ペンゴンは這い蹲った自分の背にとてつもない殺気が放たれたことに気付き、さび付いた錠前の様な動きで振り返った。

 そこには……鬼が二人いた。

「我らのかわいい妹分と我が子同然のエミーを泣かせた罰、万死でも生易しいわ!」

「よろしいですね、セイイチ様?」

「……俺が直接手を下したいが、エミーの前ではそんな真似は出来んしな。じゃあ俺たちは引き上げるから、あとのことはくれぐれも頼んだぞ」

「任せろ!」

 ホーラの相槌を受け、誠一は一路、シーナたちを連れて帝府に向かって転移していった。

 さて、お仕置きタ~イム。

「ま、まて! ここは人間界だぞ! 魔界や天界の者が直接手を出すのは条約違反じゃないのか!?」

「その通りですわ。あなたは我が領地から人間界に魔獣を不法に転送させる企てに加味したのですから、私の名でブラッカス王国に身柄の引き渡しを申請し、王国の司法の精査後に沙汰が決められる。それが正規の手続きですわね?」

「どうせその間に司法を買収して却下させるか国内での刑期を終えてから、とか時間稼ぎをする腹積りだろうがな」

 ばれとる~!

「そんな捨て金使う事はありませんわ。あなたにも家族がいらっしゃるなら遺産が減るのも気の毒でしょうよ」

「安心しろ、殺しはせん。ただ我の次元回廊の中で両手両足、背骨の骨がへし折られては治癒、へし折られては治癒を数千回繰り返すだけだ」

「ひいいい!」

「運が良ければ百回程度で天寿を全う出来るかもですわ」

「そ、そんな! 仮にも魔王や最上級神がそんな無法を働いて許されるものか!」

 どの口が? ホーラとラーは同時にそう思った。

「いいのか!? 国際問題、いや、三界間の大問題になるぞ!」

 聞いていた二人は同時に歪んだ笑みを口元に浮かべた。

「ご安心を」

「それは余計な心配というものだ。なぜなら……」

 二人は声を合わせて、そして言ったもんだ。

「「犯罪者と言うのは証拠を残すようなヘマをしたバカちんの事だ(ですわ)」」

 この時ペンゴンに見せた二人の表情は、アデスの歴史に残るほどの強烈で邪悪なドヤ顔であった。



「さてと……で、シオン? これから休務だけどどこで休む気~?」

 思いっきり、笑いジト目で含みたっぷりに聞く容子。退路を確保していたハインツと合流後、これからの事を合議した。

「ええ、この屋敷にベッドがあればそこで。これから探す訳ですが」

 例えにも冗談にもなっていない。

 だが容子はこれ以上は無いという苦笑を浮かべて、

「はいはい、あたしは何も見てないからゆっくり休みなさい。じゃあ眼が覚めたら呼んでね?」

「ええ、その時はすぐにお知らせしますわ」

「ん……いいわね? マズくなったら即、知らせるのよ? あんなの……二度と御免だからね?」

 容子の眼が険しくなった。

「……はい!」

 シオンの返事を聞き、容子は頷くとニースに向かって転移した。

「さあ~てと。ブラッドの部屋は南西だったわね? 外から登れる?」

「外は無理ですね」

「二階の北側に通路はありませんわ。各部屋には東、中央、西の三つある階段のどれかから上がる必要がありますの」

「う~ん、このままエントランスへ出て一番近い東階段から二階へ昇るしか無いかな?」

「しかしそれだと丸見えの二階通路を突っ走ることになりますが?」

「連中は浮足立ってるし、ヤクザどもの飛び道具なんてクロスボウやせいぜい火球くらいじゃない? 同じ軸線上より高低差があった方が狙いは限られるわ。もちろん油断はできないけど、アイサとレイをブラッドの自室へ入れたらあたしたちは外の通路を確保。進入路は一方向だし3人で抑えられるんじゃないかな?」

「階段までは、最初に榴弾(グレネード)で一撃を食らわせれば一気に駆けられると思いますわ」

「そうですね。それじゃ……」

 ハインツは背中から何やら盾の様な金属板を取り出し、畳まれていた取手を立てて握った。

「私が盾になって階下からの攻撃を防ぎます。班長達は前方、後方をお願いします」

「うん、それで行こう。いいわねアイサ?」

「あ、う、うん、大丈夫だけど……」

「なに?」

「あたしたちの都合であなたたちをそんな危険な目に……」

「気にするところじゃないわ、あたしたちにとってもこれはミハルの敵討ちなのよ?」

 ――あ……

「ハインツ、カグラ、消音筒(サプレッサ)を外しなさい。銃声で連中を怯ませるわよ」

 シオンは魔法拳銃の先から消音筒を外し、遊底を開いて挿弾子(カートリッジクリップ)差し込み弾薬を補充した。ハインツ、カグラも同じく装弾数一杯に詰め込む。

 準備が出来た5人は東側通路を南進、エントランス直前で一旦停止した。

 警戒しつつ壁から顔を出して周りを窺うシオン。

 エントランスでは視界に入るだけでも10人くらいのヤクザどもが大広間にいたマシャルやペンゴン、念話士たちが次々出てきて好き勝手な方へ向かって行くのをみて、戸惑った雰囲気で警戒していた。

 何が起こっているのか見当も付かない様ですっかり浮足立っている。虚を突くには絶好の状況。

(カグラ?)

(承知ですわ)

 カグラは腰のポーチから榴弾を取り出した。手の平に収まる程度の大きさだ。

 ――玉?

 それは近代手榴弾のようにレバーを飛ばして着火、では無く導火線式であるが現アデスでは最新鋭である。効果は見てのお楽しみ。

(アイサ、レイ、耳を塞いでて。行くわよ……始め!)

 シオンの掛け声と同時にカグラは念を込め、榴弾の導火線に着火した。

 シュウー! と言う音と共に導火線は燃焼を開始。カグラは榴弾をそのまま勢いよく、エントランス中央へ転がした。

「ん?」

 右足に榴弾が当たったヤクザが足元を確かめるため下を向いた瞬間、

 ドバァアン!

 消魂(けたたま)しい爆発音と閃光、大量の爆煙とともに内部に仕込まれた細かい鉄球弾がエントランスのヤクザどもを襲った。

 榴弾の直上にいたヤクザは爆発の衝撃で腰の位置を中心に180度回転し、半分飛ばされた足から血飛沫を撒き散らしながら頭を床に叩きつけられ昏倒した。

 周りにいたヤクザどもも細かい鉄球弾を受けて次々うずくまる。

「前へ!」

 飛び出したシオン、カグラ、ハインツは魔法拳銃を一斉射。

 バババーンッ!

 耳を塞いでいてもわかる、消音筒を着けていたさっきの音とは桁違いの高い破裂音にアイサとレイは肝を冷やした。

 また、それはヤクザどもとて同様であった。

 連続して炸裂する爆音。そしてその音がするたびに仲間が血を流して倒れていく。連中は正に呆然自失であった。

 その隙にアイサらはシオンを先頭に東階段に取りつき一気に駆け上がった。

「う、うう。む! 侵入者、侵入者だー!」

 爆音からようやく立ち直ったヤクザの一人が叫んだ。声に反応した他の連中が階段から続く二階通路を西に向かってアイサ達が駆けていくのを捕捉した。

「クソッタレ!」

「外の連中を呼べ!」

 クロスボウを持った3人がアイサ達に次々と射掛けた。

 しかしエントランス側を盾を持って走るハインツが飛んでくる矢からアイサ達を守る。通路の手摺もクロスボウの狙撃を邪魔してくれた。

「野郎!」

 東西中央の階段を駆け上りアイサ達を迎撃しようとするヤクザども。

 パァン!

 先頭のシオンは西階段を上って来るヤクザを狙撃。胸の辺りに穴を空けられたヤクザは後ろに吹っ飛びそのまま階下に転落していく。

 ヒュン! ヒュン!

 今度は東方向から矢が飛んでくる。東と中央階段から追撃してきたヤクザの攻撃だ。

 パン! シャキ! パン!

 カグラも魔法銃で応戦。一発は一人の腹に命中。ヤクザは体をくの字に曲げて転倒。

 もう一発は矢を番えようとしたヤクザのクロスボウにヒット。得物を弾かれ破片が顔面を襲いその場で顔を押さえて(うずくま)る。

 その間にシオンが西通路に到達。アイサ、レイも続き、その間ハインツが盾になり殿(しんがり)のカグラを誘導。

「ふぐ!」

 西階段の新手の放った矢がハインツの右大腿部に刺さった。

 膝をつくハインツ。カグラはそんなハインツの肩章を掴み、通路へ引っ張り込んだ。

「榴弾!」

 シオンが掛け声とともに手榴弾を西階段に放り投げた。

 ドバアァーン!

「うぎゃー!」

 悲鳴が聞こえる。西階段の攻め手は撃退できたようだ。

「うかつに近寄るな! 遠巻きに狙え!」

 ヤクザどもは階下や二階通路途中の遮蔽物などを利用しての戦法に切り替えた。

 数は少ないが威力と射程ならこちらの方に分がある。十分に抑えられる!

「アイサ! 行きなさい!」

 とシオン。

「う……」

「行ってください! 必ずやブラッドを捕縛してくださいませ!」

 盾の陰になりながらハインツを治療するカグラも叫ぶ。

「……レイ! 行くわよ!」

 アイサは駆けだした。

(うん!)

 レイも抜刀し、マシャルの部屋に向かった。

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