表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/53

突入

「動き出したわ。帝府軍が介入したわね」

 ブラッカス、ガーラン時間で現在午後10時過ぎ。とっぷり夜が暮れたブラッド邸は人の動きが慌ただしくなってきた。

「シオンさん、ブラッドやペンゴンの動き分かる?」

 ブラッド邸外壁から50mほど離れた(ブッシュ)に身を潜めているアイサは隣のシオンに擦れ小声で尋ねた。

「あ~、ダメだわ。ペンゴンもブラッドも動き始めたっぽいけどいろんな音が混じっちゃって……メア? あんたの索敵で何とかならない?」

(やってみるっす!)

 アイサ達より15mほど離れた場所で潜伏しているメアとハインツ、カグラは互いに距離を取りながら外壁に取りついた。

(ミカさん、ブーストお願い出来るっすか?)

 ――ミカ? 

(ええで、ちょい待ちぃ……よし、繋いだ。いくで)

 ――え? なに? ぶーすと? 繋ぐ?

(……大広間にはペンゴンもブラッドも居ないっす。ブラッドは……上に向かってるっすね。ペンゴンはなんかでかい奴と一緒に一階移動中……慌ただしく小走りっぽい動き……地下行ったっす!)

「やっぱ定石通りかな? 行くわよアイサ」

「うん!」

 二人は念のため、魔封粉避けに防護マスクを着用した。

「特戦全員へ、これより地下に幽閉中と予想されるシーナたちを救出します。立ち塞がる障害は実力で排除してください!」

(了解! あたしたちは北から入るっす!)

 シオンは立ち上がった。アイサもシオンに続く。

「アイサ。あたしの後ろに付いてて。何を見ても動じないでね?」

 シオンの眼は暗がりでもわかるほど実戦モードに入っていた。

 何を見ても動じるな……

 多分、《・》()()()()()であろう。

 アイサとシオンは足音を忍ばせ、木から木へ身を隠しながら外壁に進む。

 10mほど先からクロスボウを携えた動哨が近寄って来る。左右を確認すると、とりあえず視界に入る動哨はこの一人。

 シオンは懐から得物を取り出した。

 ――錫杖? いや、違うな……

 手に握られた得物。握った部分から前に棒? 管? が延びており、先端には更に太い丸棒の様なものが装着されている。

 シオンはその得物を構えて前へ出た。

「う! だ……」

 バシッ!

 動哨は「誰だ!」とでも言いたかっただろう。だが動哨はそれは叶わず、音量はそれなりに大きいものの高音がほぼ無い、左右の拳をぶつけ合ったような音と共に、糸が切れた操り人形のごとくその場に崩れ落ちた。額から夥しい血が噴き出し、星明りの光を反射していた。

 ――こ、これって!

 シオンは得物の後端を引いた。小さな筒が得物の中から引き出され彼女の足元に落ちる。

 シャキ!

 引いた部分を押し込むとシオンは前進を再開した。

(階段出して)

(り、了解……)

 アイサは外壁におなじみの氷柱階段を造形し、まずシオンが昇った。

 壁の天辺から中を覗く。近くにいる動哨は2名。

 バシ! シャキ! バシッ!

 さっきと同じ音がした。シオンに内側にも氷柱階段を出すように言われ首を伸ばして内壁を確認。同時に動哨2人の躯を見ることになった。

 氷柱を出し二人は庭に降り立った。

(先輩、北側の障害はすべて排除。裏口で待機するっす)

 メアから念話。アイサとシオンも裏口を目指す。

 裏口に辿り着きメアたちと合流。ここまでに死体は2つ確認できた。シオンが排除したヤクザ動哨と同じ傷跡が付いているのも見えた。

 ――ほぼ音も無く剣や槍以上の間合いから人間を殺害できる武器……

「メア、地下室までの最短コースを探索(サーチ)して」

「少々お待ちを」

 そう返事するとメアは壁に両手と顔を張り付け、間取りを探索し始めた。

「ねぇ、シオンさん。その武器って……」

「これ? うん、市井には流してないけど、元帥考案の魔法銃よ」

「ジュウ?」

「中に装填された筒に爆裂粉と鉛の弾が仕込んであってね、火魔法で着火すると目にも止まらない速さで鉛玉が飛び出すの。ホントはその時ものすごい音がするんだけど先端にこの太い筒をつけると音がさっき位まで、小さくなるの」

「……もしかして血の即位式の後、カルロをやったのは……」

「うん、あたしよ。あなたの安全を最優先しろと命令されてたし、あの状況ではやむを得なかったわ」

 自分を尾行していたのはシオン、それは分かってはいた。しかしカルロの件は謎だったので、これでようやく得心が行った。

「ありがと……命の恩人ね」

「仕事よ」

「先輩、ルート確定したっす! 目標まで排除する障害は5!」

「わかったわ、メア、ハインツ先鋒、カグラは殿(しんがり)。カグラ、裏口の鍵を解錠(ピッキング)して」

「お任せですわ」

 カグラは二本の針金を取り出すと裏口の扉の鍵穴に突っ込んで操作を始めた。そして、わずか十数秒後、

「完了ですわ」

扉が開いた。

「すご!」

「特戦はいろんな特技(スキル)持ちが多いわよ」

「空き巣し放題ね……」

「帝府に入るまでは、それで食べてましたわ」

「……」

「先輩、行きますよ」

「ん。じゃ、前進!」

 カグラは扉を全開させ、先鋒のメア、ハインツを入れ、次いでシオンとアイサを誘導。最後に自身も突入した。

 目標は地下室。

 大体、地下への入り口は陽の当たるような明るい所にあるのは稀である。ブラッド邸も多分に漏れず北方面、アイサ達が突入した裏口の左方向にある。

 バシッ! バシッ!

 突入するとまずメア、ハインツが左方向の2人を狙撃。

 それに気づいた右方面にいた1人が、賊の侵入を周りに知らせようと叫ぶ寸前、

バシッ!

今度はシオンが仕留めた。

 用心棒の無力化を確認すると、メアを先頭にさらに前進。屋敷中央に続く通路まで来ると一旦停止。メアが拳銃型錫杖を構える。

 ハインツ以降に現在地で待機を支持すると、メアは索敵で確認していた4つ目の障害を排除するため通路へ飛び出した。

「は!」

 その距離3m。いきなりの侵入者との鉢合わせに一瞬言葉を失う用心棒。メアはそいつに次の対処を考えさせる暇も与えず、

バシッ!

相手の眉間を撃ち抜いた。

 崩れるヤクザ動哨を引っ掴み、素早くシオンらの居る通路まで引き摺る。

 目指す通路の東端、地下室への階段を目視したハインツは階段横の手すり側に張り付き、南に続く廊下に相対し、こちらの侵入にまだ気づいていない廊下担当の用心棒を後ろから狙撃。

(クリア!)

 ハインツは念話で障害排除を報告し、メア同様、死体を隠し、そのまま退路を確保すべく警戒に当たる。

 アイサら三人はそのまま地下へ突入。ハインツを残し、カグラも後を追う。

 地階に降り立ち更に奥へ前進、地下室の入り口へ到着。しかし、

「入口が……無い?」

壁にあるはずの出入り口、扉も見つけられないことに、アイサは困惑した。

「そりゃ撹乱結界展開してるはずっすからね。入口が目に見えるわけないっす」

「逆に言うと、ここに結界を張る理由があるってことよね?」

 結界の存在が、人質がここにいるという事実を、図らずもアイサらに教えてしまっているのである。ちょいとばかりマヌケな話だ。

 しかしながら室内に入る手段は見つかってはいないのは同じである。厚そうな地下室の壁のどこかに出入り口があるはずだが……

「場所がわからないのは……」

「下手に打ち込んで中の連中にシーナたちを盾にされるのは避けたいっすね」

 そうなって人質にでもされたら元の木阿弥である。

 ――どうにか入り口を見つけないと……

 そんな中、シオンの耳が動いた。

「あら? この声……」

 壁に近寄って耳を澄まし、奥に向かってゆっくり移動。

「……この辺ね。この辺りから声が漏れてる。入口はここにあるはず」

「それはいいけど……どうやって入るの? さっきの錫杖や剣で破れる?」

 さっきの話で侵入は奇襲でなければならない。相手に次手を取らせてはいけない。

「どうすれば……」

 アイサは悩んだ。壁一枚向こうにレイやシーナたちがいるのに。

「こういう時は……」

「こうするんだよ!」

 いきなり後ろから声を掛けられた。

 アイサはその初老男の声に不意を突かれ、身体が飛び上がるかと思った。


                   ♦


 レイは部屋の壁際で抱き合って身を潜めるシーナ母娘の前に立ち塞がった。

 監禁された部屋に慌ただしく入ってきたペンゴン。そして奴の部下、いや用心棒だろうか? 身長は190cmに届きそうな大柄なゴブリン系の魔族が前へ出る。

「どけ若僧。お前ごときが出る幕じゃない」

 若干息を切らしつつ、ペンゴンはゴブリンの後ろに立ちながらレイを威嚇した。その形相にレイは奴らにとって望まざる事態が起こった、と言う事は直感出来た。目の前のペンゴンに漂う雰囲気は、焦りを感じるばかりで余裕のよの字もない。

 シーナ母娘を改めて人質とする、そうでなければ身の安全が確保出来ない。

 レイは奴らのそんな思惑を感じていた。

 だとすれば余計に退くわけにはいかない。

 レイは左足を前に出し、体を右に向けて右手で鳩尾(みぞおち)周辺を守り左手は手刀の型で顔の前、指先は目線より下に位置させた。この構えなら背に余裕のあるゴブリンは上段からの攻撃を狙ってくるであろう。レイはその構えのまま前へ滲み出た。

 ゴブリンは生意気にも自分に立ち塞がる人間の小僧にイラっと来た。

 レイの眼は女の前で恰好を付けている訳でも、ハッタリで立ち向かって来ているわけでも無い。マジで自分とタメを張る気でいる眼であったからだ。

「ジャリ、おめーには用は無ぇ。女だけ連れてきゃ、おめーは好きにさせてやる、どけ」

「……」

 レイは微動だにせず、ゴブリンを見据えていた。全く引く気も見られず、身震い一つせず構えも崩さず……である。

 ムカついてきた。人間のガキごときが筋肉自慢の自分と張り合えると思っているのか?

 雇い主のペンゴンも()いているし一撃でスカッと潰してやる! 

 ゴブリンとてペンゴンの直衛として雇われるわけで実力もそれなりに有り、場数も踏んでいる。レイの構えが上段からの攻撃を誘っているくらい当然気付いていた。

「ふん!」

 ゴブリンは右手の拳を素早く突き出した。レイの頭が少し下がる。

 掛かったな――ゴブリンは胸内でほくそ笑んでいた。

 フェイントの右拳を素早く腰まで引っ込め、低めに構え出したレイにゴブリンは右前足蹴りを繰り出した。

 だがレイは左の手刀でその蹴りを払い流すと身を翻しながらゴブリンの横に踏み込み、軸足である左足の膝の裏を蹴り込んだ。

「が!」

 この蹴りでは大したダメージは無い。だが軸足の膝裏への打撃は膝カックンよろしく簡単にバランスを崩す事が出来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ