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第52話『謎解きゲームを開始します!』

『これより皆様を邸内へご案内します』

『大変貴重な建物を使わせて戴いております、皆様決して慌てずに、ゆっくりと、私達について来てくださいませ』


流也さまと綾乃様に先導されるような形で、パーティの参加者達が深紅の絨毯が敷かれた玄関口へと集まっていく。

基本的には姫ヶ藤の生徒とその家族が招待されているのだけれど、さすがはお金持ち学校の生徒とその家族だけあって皆お行儀良く間隔を開けて少しずつ進んでいく。

ああ・・・着ている服のせいでもあるのかな、やっぱりこういうドレスは動きにくいし、汚したくないし。


玄関から中に入るとそこは大きなホールになっていて、部屋の中央にまっすぐ伸びた大きな階段がその存在を主張していた。

大理石の床に敷かれた深紅の絨毯も、階段へ誘導するようにまっすぐ伸びており、まずは2階へ上がれと言わんばかりだ。

そして綾乃様達も当然のように階段を上っている。


「すご・・・本当に凄いっすね、都内にこんな所があったなんて・・・」

「まるでツンデレラ城・・・いやいや、こっちはもっとこう・・・作り物っぽさがないと言うかなんと言うか・・・」

「お前らいちいち騒ぐなよ、恥ずかしいだろ・・・」


豪華な内装を見てはしゃぐライトとレフトを霧人くんが窘める。

でも庶民の2人が興奮するのも当然の反応だ。

床はツルツルに磨き抜かれた大理石、真っ白な壁には金糸で刺繍されたかのような細かい模様が金箔で浮き彫りになっている。

天井にはエデンの園がモチーフと思われる西洋画が描かれ・・・


「天井画!天井画っすよ!ミケランジェロとかダビッチとかそういうのっすよね?」

「ダ・ヴィンチな、レオナルド・ダ・ヴィンチ」


ちなみにレオナルドの「ダ・ヴィンチ」というのは「ヴィンチ村出身のレオナルドさん」くらいの意味らしい。

本来ダ・ヴィンチとは別のファミリーネームがあるみたいだけど、複雑な家庭の事情があったようで・・・ダ・ヴィンチを苗字として使う事が多かったのだとか。


複雑な家庭の事情と言えば私達双子も大概だし、礼司さまの家といい、チート庶民の家といい・・・実は結構どこにでもあるような気がする。

ひょっとして何の問題もない家庭の方が珍しかったりする?


「あ、右子ちゃんと左子ちゃん」


・・・なんて考えてたら複雑な家庭のチート庶民、葵ちゃんが近くに来ていた。

ゲームで見たのと同じドレス姿、派手さはなくシンプルなデザインだけど主人公の彼女によく似合っている・・・確かお父さんががんばって用意したやつだったかな。


「2人共てっきりスタッフの中にいるのかと思ったよ」

「まぁ色々事情があってね・・・葵ちゃんは1人で来たの?」

「うん、お父さんも誘ったんだけど、お金持ちのパーティは居づらいって聞かなくて・・・」

「ああ・・・」


その辺の事情はゲームで知ってる。

庶民出身の葵ちゃんが学校でいじめられる材料になりたくないんだよね。

・・・当の葵ちゃん本人は、いじめなんてものともしない鋼のメンタルの持ち主なんだけど。


「気にせず来れば良いのにね」

「ねー、凄いごちそうがタダで食べ放題なのにねー、お父さん本当に頑固で・・・」

「ん・・・勿体ない」


凄いごちそうって所で左子が強く頷く・・・パーティの料理を食べ尽くすんじゃないかと不安になるよ。

左子、ちゃんと皆の分も残すんだよ・・・


「右子さん、その子は姫ヶ藤のお友達っすか?」

「これまたずいぶん庶民的な感じですけど・・・」

「?」


庶民同士のシンパシーでもあったのか、ライトとレフトが葵ちゃんに反応した。

うーん・・・出来れば霧人くん達と葵ちゃんは出会わせたくなかったけれど・・・クリスマスパーティだもんな・・・仕方ない。

なるべく興味を持たれないように手短に彼ら3人を紹介する。


「えっ、配信に右子ちゃんが出てるの?それ見たい!」

「あっ・・・」


霧人くん達に興味を持たれない代わりに、封印したはずの黒歴史が・・・くぅぅ。

幸い今は動画とか見てられるような状況じゃないから良いけど・・・葵ちゃんは記憶力良いからなぁ・・・



階段を上ると左右に部屋の入口が1つずつ、それぞれに流也さまと綾乃様が立っていた。

前を行く人達は各々好きな方から入って行くようだ・・・どうやら中は同じ部屋らしい。


「「綾乃様」」


もちろん私達は綾乃様が立つ方へ・・・

遠目には純白に見えた綾乃様のドレスだけど、実際には深緑の下地の上に白いレースの層が幾重にも重なっており、こうして近くで見ると森の妖精のような印象を受ける。

私達に気付いた綾乃様は、花が開くかように笑顔を浮かべた。


「右子、左子・・・よかった、迷わずに来れたのね」

「そんな、綾乃様ったら心配し過ぎですよ・・・それで綾乃様、この3人が・・・」

「ああ、その子達ね・・・」

「二階堂綾乃グレース様、今日はお招きいただき、ありがとうございます」

「「ありがとうございます!」」


綾乃様の前に出た霧人くんが恭しく礼を取り、左右で2人が勢いよく頭を下げた。

うんうん、良い感じに引き合わせられたね。


「配信は楽しく見させて頂いたわ、今日は私達のパーティを楽しんでいってね」

「は、はい!喜んで!」


すっかり霧人くん達の顔が赤くなってる・・・ふふふ、うちの綾乃様は美しいだろう?


「綾乃様、パーティの進行の邪魔になってはいけないので、今はこの辺で・・・また後ほど伺いますね」

「ええ、ありがとう・・・これから謎解きゲームの説明があるから右子達も挑戦してね」

「はーい」


部屋の中に入ると最初に目に入るのは光り輝くシャンデリア・・・二階堂の屋敷にある物よりも一回り大きい。

それが3つも天井から吊るされてぶら下がっている。

なんとなく思ってたけどやっぱり天井が結構高い、そのせいか空間を広く感じる。


続いて気になるのは壁に埋め込まれた円盤状の物体・・・表面がツルツルで陶器っぽいそれには鳥の絵が描かれており、等間隔でいくつか・・・全部で10個かな、部屋の壁に並んでいる。

不思議な事にそれら10ヶ所には台が置かれており、その上に同じ形の箱が置いてあった。


そして左右の入り口付近の壁には、大きな鳥の彫刻で飾られた暖炉が埋め込まれているのが見える・・・けど使われてはいないみたい、薪を入れる部分はそれぞれクリスマスツリーが描かれた衝立で塞がれていた。

あと丸テーブルが6つ、パーティの参加者の数に対して少なく感じるけど、この部屋だけというわけでもないのだろう。


集まった参加者の中程が室内に入ったあたりで、スタッフから紙が配られ始めた。

さっき綾乃様が言っていた謎解きゲームに関する物かな。

パッと見た感じ、ここの見取り図のようなものに数行の文章が添えてある。


_______________________



▼夜の□□□□を○に求めよ


●つの△字が▽さなる時、真の□□□□が現れる


□□□□に手を伸ばし、○を掴みとれ


☆の□□□□に▲女神が笑う


○の光は、▲る▽らせんの日に輝くだろう


_______________________



うん、記号がたっぷりで何が書いてあるのかわからない。

わかるのはせいぜい、この記号の所に文字を入れていく感じのゲームなんだろう、という事くらいだ。

見取り図の方は簡略化されてはいるけど、ここの地図で間違いなさそうだ。

おそらく今私達が居るこの部屋が『鳥の間』で、他に4部屋、下の階に5部屋あると思って良いのかな。

いくつかの部屋が黒塗りされてるのはどんな意味があるんだろう・・・この建物の反対側にも色々なものがありそうだ。



『今宵のパーティの余興の一つとして、謎解きゲームをご用意しました』


紙が全員に行き渡ったあたりで、綾乃様の声が室内に響いた。

人前で話すのが苦手な綾乃様とは思えない堂々とした喋り・・・この謎解きゲームは綾乃様が用意したという話だし、熱が入っているのかも知れない。


『つい今しがた皆様に配られた紙が、この朱谷離宮の案内図を兼ねたゲーム参加用紙となっております、謎解きゲーム参加を希望する方はどうぞ失くさないようにお願いします』


やっぱりここの地図で間違いないらしい。

という事は、この宮殿の反対側にも前庭のような広い敷地が広がっているという事か。

和別邸と書かれている部分から察するに、そちら側は和風の空間になっていそうだ。


『現在皆様がおりますこの部屋は鳥の間・・・天井に描かれているのは国鳥である朱鷺、暖炉には伝説上の鳥である鳳凰の彫刻が、そして壁には10種類の鳥が描かれた七宝焼が埋め込まれております・・・まさにその名の通り鳥がテーマとなった部屋です』


天井にも鳥がいたのか・・・

探してみると確かに、いち・・・に・・・計4羽の鳥が天井画の中に隠れていた。

ひょっとしたら他にも隠れているかも知れない。


『この七宝焼のレリーフの所にそれぞれ箱が置かれているのが見えるでしょうか?これらの出題箱の中に、皆様が最初に解かれる問題文が入っております、ゲームが始まりましたら、お1人様につき1枚ずつ、お取りください』


問題文・・・全部で10枚もあるのか・・・


『この出題箱は、同じ階にあります他の部屋・・・花の間、風の間、月の間にもそれぞれ設置されております、それらにつきましてもこの部屋のものと同様の取り扱いでお願い致します』


え・・・各部屋に・・・全部で何問あるんだろう?

全て同じ数として40問?

・・・これはなかなか大変そうだぞ。


『下の階にあります朝日の間、夕日の間・・・それらには出題箱は設置されておりません、それらの部屋にはお食事を用意してございます・・・謎解きに行き詰った時、あるいは謎解きゲームに参加なされないお客様など、ぜひそちらでお寛ぎください』


「ごちそう・・・じゅるり」

「左子は謎解きやらずに先にご飯食べてる?」

「ううん・・・綾乃様の謎解きだから・・・参加する」


食事したい人は左子が謎解きをするまでの猶予が与えられたね。

それまでは食べ尽くされる心配はなさそうだ。


『黒塗りしてある部屋はスタッフエリアとなっています、謎解きに関わるものは一切配置されておりません、立ち入りしないようにお願いします』


ああ、そういう事か・・・

謎解きの推理次第でどこにでも入られちゃう可能性があるもんな・・・

真っ先に除外してくれるのはこちらとしても助かるね。


『この建物内にあります多くの物は重要文化財です、謎解きの為に触れる際は必ず最寄りのスタッフにご確認ください、スタッフの許可なく触れて損壊された場合は多額の賠償となる可能性があります、ご注意ください』


じゅうようぶんかざい・・・ひぇぇ・・・

お金持ちの参加者が多いとは言え、一体おいくらになってしまうんだろうか・・・

気を付けないと。


『時間内に謎を解き、ゴール地点にたどり着いた方には、後程指定の場所での記念撮影の権利が与えられます、また最初に解いた1名には、ささやかですが賞品をご用意しております・・・私からのクリスマスプレゼントと言った所でしょうか』


おお・・・と歓声が上がった。

綾乃様はささやかと言ってはいるけれど、お金持ち基準のささやかだから・・・

一体何が貰えるのか、皆気になる事だろう。


『この謎解きゲームには、俺も参加させて貰う・・・もちろん謎について事前に何も聞かされてはいない・・・と言っても関係者には違いないのだから、ハンデとして30分後からスタートする・・・どうかそれで納得して戴きたい』


ルール説明も終わりを迎えるタイミングで割り込んできたのは流也さま・・・本当に参加するのか・・・

前から楽しみにしてる風だったもんな・・・流也さまの事だから30分のハンデもたいして影響しないに違いない。


「流也さまより先に謎解きしないとか・・・面白くなってきたね、右子ちゃん」

「葵ちゃんも謎解きゲームに参加するんだ」

「もちろん!どっちが先に謎を解くか勝負だよ、右子ちゃん」


葵ちゃんは瞳に炎が見えそうなくらいやる気満々だ。

ゲームには無かったイベントだけど、ここで葵ちゃんが一番に謎を解いたら攻略に影響ありそう。

私と左子で太刀打ち出来ると良いんだけど・・・


『・・・制限時間はこれより2時間です、この謎解きゲーム以外にも、音楽家の那由多太郎氏を迎えての演奏会など催しが予定されておりますので、皆様このクリスマスを精一杯楽しんでいってくださいませ』


最後にそう言って綾乃様が一礼すると、場内に拍手が巻き起こる。


『それではこの瞬間より、謎解きゲームを開始します!』


こうして、この広大な敷地と宮殿を使ったクリスマス謎解きゲームが始まったのだった。

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