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せまい世界のまんなかで  作者: 桜莉 てく
リディア編

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私とお話ししたいですよねぇ?

始まりました、長編!頑張れ、私(笑)

同じシリーズの短編から読んでいただくと、レオンとアイリスの外見など分かって、入りやすいと思います。

あと、マリア(笑)

温暖な気候と月の女神セレーネに守られた国、セレネア。


その中央にあるセレーネ学園は、伝統と生徒の自主性を重んじている。


生徒の自治に関しても生徒会が主に担っており、貴族から平民までが通うこの学校をまとめあげる。

生徒会員はそれぞれ貴族と平民、それぞれの成績上位者から選ばれ、卒業後も互いの立場から国を支えるべく、行事ごとに交流を深めている。


その中でも、学園祭は大々的な行事で、貴族平民問わず準備に忙しい時期となり、彼方此方で走り回る平民や商人の姿が見られた。

普段は貴族と平民では学ぶ物が違う故に、校舎も別々に建てられおり、この交流は貴族の元で働きたい平民や、騎士、商人を目指す者たちにとって、心待ちにしているものの一つだ。


その為、下級や中級貴族によるメイドマナー講座や、騎士家主催の騎士団体験が人気の1つになっている。

商人希望の者は、貴族が協会や孤児院への寄付を目的としたバザーがお目当てで、この機会に自らの眼を養おうと準備段階から目にする物全てにギラギラとした視線を送っている。


そして、その中には自らの身を立てようと貴族へ近付こうとする者も当然出てくる……。


「いい加減になさいませ!殿下方はお忙しい身。邪魔をするなど許されるものではありませんわよ」


淡いレモン色の瞳をキッと吊り上げ、子猫のように全身で威嚇しながら、度々自分たち生徒会役員の前に現れた少女へ向かい、言葉を荒げる。


学園祭の準備に追われている人々に必要な物の不足や調達忘れがないか、また進捗の確認を目的にこの時期生徒会役員は総出で視察に行くのが定例となっている。

学園自体が広大なため、視察と言ってもなかなかな過密スケジュールになる。それでも、滞りなく進める為に優雅さを忘れない速度でもって学園の色々な場所に訪れなければならず、1日の視察が終われば疲れ果てているのが最近の常だった。


「え~、でもレオン様も私とお話したいと思ってますよ。だから、ナタリー様やその他の生徒会の皆さんで後は回れば良いと思うんですぅ」


熟れたイチゴの様な目を潤ませ、軽く首を傾げながら問う姿は、最近庇護欲を誘う令嬢として人気を博しているという噂も納得だった。

ただ、怒りでフルフルと小刻みに震えるナタリーには一切効果は見られなかったが。


ナタリー・レモンクォーツ子爵令嬢。

1年生でありながら生徒会役員に選ばれた令嬢で、毎回学年成績で1、2位を争っている。

生徒会役員に選ばれた事に誰よりも誇りと喜びを持っている為、その仕事を邪魔する者は例え先生であろうと許せない。

今も、白金に近い肩下まで伸びた髪が揺れるほど、怒りを露わにしていた。


同じく毎回学年首位をナタリーと争っているもう1人の1年生。サリオス・ラリマー伯爵令息も新緑の様な瞳を迷惑そうに眇めて件の少女を見つめていた。


「ナタリーの言う通りだよ、リディア・チャロアイト男爵令嬢。殿下含め僕達は忙しい。今は視察であって、馴れ馴れしく話し掛けていい場では無いんだ」


呆れを込めた溜息と共に、取り合う気は無いとばかりに淡々と事実だけを告げる。

無駄な言い回しを嫌うこの青年は、生徒を纏めあげる生徒会においてレオンとアイリスに重宝されている。しかし貴族としては致命的な為、レオンを始め他の生徒会役員に手解きを受けていた。


辛辣な言葉を受けたと言うのに、リディアと呼ばれた少女は動揺することなく、視線を2人の後ろにいるレオンへと固定させた。

ふわふわとした綿飴の様な髪さえも可憐に見せ、全身で庇護欲を誘う。


アイリスは隣に立つレオンへと気付かれぬようそっと視線をむけた。

彼が身に纏う感情を正確に読み取ると、目の前でもう何度も買わされているやり取りへと視線を戻す。


「ナタリー、サリオス。急がなければ今日の視察に間に合いません。今日はマナー講座で使用するラルフのティーセットが届く手筈では無かったかしら?」


静かに黒レースの扇を開き、面白そうに上がる口元を隠す。

リディアに一瞥もくれず、何でもないことのような声音でこの後の予定を告げた。


「名も知らぬ此方の方に構っている場合ではなくてよ?……それとも、お知り合いの方なのかしら?」


続いた言葉に、レオン以外は理解が追いつかず固まった。

全生徒はもちろん、外部から来る先生の名前まで全て覚えているアイリスにしては、あまりにも不自然な発言。

リディアは瞳に憤怒を宿したものの、直ぐに消し去り元の儚げな表情に戻した。


「ひどいです、アイリス様!レオン様、聞きました?生徒会副会長ともあろうアイリス様が、そんな酷いことを言う…」


「いや、私も知らないな。…そうだ、サリオスは先程名前を言っていたようだが知り合いか?」


「……え?」


アイリスの言葉を好機とばかりに、さも悲しみに打ちひしがれたような表情を浮かべたリディアだったが、被さるように放たれた言葉に、流石に呆気にとられて固まった。


「失礼致しました、殿下。アイリス様。度々噂に聞く令嬢と姿が似ていたもので思わず名前を告げましたが……俺もこの令嬢は知りません」


いち早く2人の意図を察したサリオスは、すっと姿勢を正すと、自らが先程発した言葉を訂正する。

遅れて気付いたナタリーも、同意を表すように小さく首を振った。


「視察への焦りから、私もついはしたない姿をお見せしてしまいました。見知らぬ方、いきなり怒鳴ってしまって失礼しましたわ」


恥ずかし気に両肩を竦めると、リディアに向かって軽くではあるものの綺麗なカーテシーを見せる。


「な…なん……っ!もう良いわよ!」


次々と浴びせられる「自分を知らない」と言う言葉に、怒りと屈辱で上手く言葉にならない。

リディアはダンッと片足を1度大きく踏み鳴らすと、令嬢にあるまじき速さで校舎へ向かって走り去った。


制服のスカートが捲れ上がりそうな程はためいている姿を見つつ、アイリスはヤレヤレと扇を綴じる。

そして、隣で満足気な様子のレオンへ胡乱気な眼差しを送った。


「これで満足かしら?殿下。婚約者は便利屋ではなくてよ」


「殿下」と言う言葉に含みを持たせると、レオンは参ったとばかりに苦笑を浮かべる。


「すまない」


その気安いやり取りを間近で見られるのも、生徒会役員の特権だと、ナタリー、サリオスを含む他の役員は思っている。

だからこそ、この2人の為に働きたがる役員が度々過重労働になり、その度にレオンとアイリスから叱られている場面も、今ではよく見られる光景だった。


また、役員以外の生徒にも2人は憧れの存在である。

その為、この時期の視察は2人が揃って見られるという事で密かな人気を集めていた。


-話し掛けられた生徒は、その後学園祭が終わっても羨望の眼差しを送られるらしい


そんな中で行われた今回のリディアの言動は、平民、貴族問わず瞬く間に人々に広がった。


-それは、ひと時のつむじ風のようなもの-

-けれど、成長すれば嵐ともなる風-


アイリスは得体のしれぬ予感に一瞬胸をざわつかせたものの、直ぐに意識を切り替え、改めてリディアが去った方へと呆れたような顔を向けた。


「それにしても…。貴族とは目上の者から挨拶せねば、たとえ見知った者であっても知らぬが常識。平民であればまだしも、男爵とは言え貴族の末席。知らぬでは済まされないでしょうに」


頷く役員達の顔を視界の端に捉えながら、不可解そうに眉を寄せる。

公爵令嬢という己の身分に恥じることの無いよう、幼い頃から礼儀作法については厳しく教え込まれてきた。

子爵令嬢であるナタリーも不思議そうにしている事から、上位貴族だけのマナーではない事が伺える。

ましてや、この学園で上位貴族と顔を繋ぎたいのであれば、礼儀作法やマナーといったものは出来て当たり前だった。

だからこそ、リディアの平民のような言動が不思議で仕方ない。


「マリアであれば可愛らしいものなのに、人間だと全く可愛くないわね」


「マリア」と言う言葉にピクリと反応を示したレオン。それを見て見ぬふりし、アイリスは1人密かにそう結論づける。

顔を上げ視察の続きを促せば、乱れた隊列を戻して歩き始めた。


まだ視察は残っている。


このままでは間に合わない。


全員が焦る気持ちをグッと抑え込み、いつもより少しだけ早足で、次の視察場所へと向かった。


さてさて、嵐のリディア登場回です。

どんな風に掻き回すやら……


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