第15話:愛しいノイズと神意の考察
「……以上、会議は終わり」
しかし、宣言しても誰も個室へ戻る気配がない。
「ねえ。ワタシ言ったよね? ここはワタシの作業用メインルームであって、共有スペース(ラウンジ)じゃないって」
ミントは深いため息をつき、家計ログに刻まれた多額の「敷金・礼金」の文字を直視した。
次の更新までは、この「間取りのミス」を抱えていくしかない。
「……わかったわよ。でも、寝る時だけは各自の個室へ戻ること。これが妥協ライン(プロトコル)ね」
広くなったはずの部屋には変わらず、計算を狂わせる愛おしいノイズが溢れている。
「あれ、リリからコラボのお誘い?」
プロデューサーではなく、リリ本人からだ。
「恭順の意を示して潜り込む罠では?」」
と、ヘレンが武門の出らしく警戒する。
「負けた相手と結婚する、一族の掟でもあるのでしょうか?」
ニクスは同類と判断し、別の意味で警戒している。
「ミント、今日は神社でお祭りだって! 行こう、行こう!」
何かを思い出したように、ラムが袖を引く。
ヘレンも同意する。
「そうですね、多忙にかまけて戦勝報告に伺えていませんでした」
ミントはミラーグラスを操作し始める。
「んー、帰ってから、この件は検討しましょう」
お祭りの撮影許可は今からでも間に合うかしら?あとレンタル浴衣姿の手配。
ヘレンのオフショット、大食い天使のお祭り編……撮れ高は相当期待できるはずよ」
(本編完)
エピローグ:P仕事の流儀、特別インタビュー『なぜ彼女たちはバズるのか?』
「ミントPは出ないの? ラムたちと一緒に『バズる』?」
ラムがマイクを差し、無邪気に問いかけてくる。
ミントはミラーグラスを中指で静かに押し上げる。三人の異邦人たちをじっと見つめ、彼女は自嘲気味に笑う。
「一回トレンド入りはしたけど、ワタシはいいの。Pは常に、システムの裏側に潜んでいるべき」
「なぜ彼女たちは、このシン新宿でこれほどまでに熱狂的に受け入れられているのか?」
とラムが質問を読み上げる。
「ワタシがあの世界をデバッグできたのは、あの世界の『ご都合主義』というOSに対して異物だったから」
答えはミント自身がパンガイア大陸をデバッグできた理由と、鏡合わせだった。
「そして今、貴女たちがここでバズっているのも、この街を覆う『デジタルな虚飾』という薄っぺらさを、圧倒的な物理質量で踏みにじる異物だからに他ならないのよ」
この街の住人は、加工され、最適化され、無味乾燥になった「整いすぎた世界」に飽き果てている。
そこに投げ込まれた彼女たちは、予測不能な挙動を示す異物そのものだ。
「異物こそが、システムを更新する。異物ではないワタシが表舞台に出る必要はない」
停滞したシステムにとって、異物の侵入こそが「進化」という名の再起動を強いる唯一のトリガーとなる。
「今のワタシの仕事は、この最強の異物たちが、このシン新宿を最も美しく破壊し、書き換えるための環境を構築することよ」
インタビュー後、自室にて:女神ガイアの仕様書への疑念
ミントは思考の深度をさらに一段階、下げていく。
脳裏に浮かぶのは、あのポンコツのフリをした女神ガイアの顔だ。
もし――もし、この「シン新宿リブート計画」すらも、あの女神の仕様書に含まれていたのだとしたら?
ミントは仮説をビルドし、仮想ウィンドウに展開する。
仮説:文化のクロス・マイグレーション(異世界間貿易)
パンガイア大陸に現代の「合理性」と「物流」を持ち込んだ見返りに、シン新宿には失われた「野生」を輸出する。
死に体だった両方の世界の均衡を保つために、ミントを触媒にして行われた。
大規模なシステム・アップデート?
「もしこれが最初から決まっていた『仕様』だとしたら?
ならワタシはまんまと、ガイアの手の平の上だった?」
ミントは唇を噛み、ミラーグラスに映る「黒字」のログを見つめた。
もしそうだとしたら、これ以上なく癪な敗北だ。
「ガイアはワタシに一切コンタクトしてこない。
つまり、アイリス王女によるパンガイアの運用は順調ということの証拠ね」
かつて自分と共に、終わらない中世を終わらせたバディの存在。
そこに残してきた友人の、太陽のような笑顔を思い出す。
ミントの胸に微かな、しかし温かい懐かしさが去来した。
「ガイア、アップデート終了で勝ち逃げ? もう一回勝負しなさいよ」
ミラーグラスの奥で瞳を不敵に輝かせ、次なるリベンジを誓っていた。




