表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/36

第36話 『熱々の幸せを、今すぐお届け!』


 ボス部屋から救出された二人の記憶から、『リリィ・アッシュウィーザが覚醒したこと』だけが、すっぱりと消え去っていた。



 魔人ウェルジオンとの戦いから、一週間が経過した。


 世間は、おおむね、元通りだった。


 あの時期、ダンジョン配信ばかりになったVTuberを怪しむ者もいたし、真相に近いところまで嗅ぎつけた者もいた。個人Vから情報が漏れたりもした。


 だが、確たる証拠はなかった。映像も音声も、何者かによってすべて消されていた。


『あの時期さー、みーんなダンジョン潜ってたよなー』

『緊急レイドだったからだろ?』

『だからって、コラボも企業案件も全部吹っ飛ばしてまでダンジョン潜るか?』

『稼ぎ時だし、政府の指示があったんでしょ』

『魔人とか“竜”とかって何だったんだ?』

『なんで“”つけてんの?』

『知らん』

『情弱がまた騙されてる。あれはメタル魔王が100体出たからだよ』

『政府はメタル大魔神の存在を認めろ!!!!!!』


 “竜”と魔人の存在は、噂だけになった。



 政府ダンジョン庁。


 表向きは『大規模魔物暴走(スタンピート)』とされている例の事件は、迅速な対応で処理したという功績・・により、お偉いさんの首は繋がった。


 公安から「よくやってくれてましたよ~」という、本来ならあり得ない助け船(ほうこく)が出されたのだ。


「誰かは知らんが、助かったな……」

「室長。上からです。『チューバーイーツ最強おじさん』関連のデータを全て提出したのち削除せよ、と」


「公安の手回しか……」

「やれやれですね」


 その後、「今後もがんばってくださいね~」と謎のメッセージが届いたりもした。



 内海は相変わらず凛音の部屋でマネージャー業務をやっている。


 ちなみに凛音は引っ越した。タワマンの上の方に住んでいる。もちろん内海の紹介で、もちろん公安の息がかかっている。


「広くて最高だねぇ~。屋上代わりのお庭もあるし」

「内海さん、スタボのコーヒー届きましたよ。あと――」


 田中もマネージャーの補佐として入り込んでいた。内海を一切見ないでコーヒーを渡しながら、言う。


「ブラを仕舞ってください」

「やだエッチ!」


「これ全部『外』に聞こえてますからね」

「知ってるよもう~ノリが悪いなもう~」


 相変わらずブラウスぱつぱつ限界女である。


「で、おじさんは変わらずですか」

「そうだよ~。またプロポーズ断られた~」


「アホでしょアンタ」

「ま、気長にやってくよ~。人生は長いからね~」


 おじさんの肌つやが明らかに良くなったのは、凛音の影響であるとは、言わない。



 伊法いのりは戻ってきたおじさんから短刀を受け取り、さらに研究を進めている。


 研究チームは新しい家族みたいだ。


 暴走しがちなメンバーをコントロールするのは、荒波の中で船を進ませるように思えた。


 でも、楽しい。


 おじさんとの文通は続いている。


 彼の文面が明らかに以前と変わっていることに驚いたりした。


 ポジティブになった気がする。


「……困るなぁ」


 もっと好きになっちゃうじゃん、とは、手紙に書かずに、心の中にしまっておいた。



 凛音はいまや登録者数100万人のトップライバーとなってダンジョン攻略を続けている。


 前世リリィの時の記憶はぼんやりしてほとんど残っていない。


 おじさんとの仲は進展していないが、以前よりも距離は近くなったと思う。


「師匠」

「はい」


「私たち、あのとき、キスしませんでしたっけ?」

「……記憶にございません」


「男の人がそれを言うのって卑怯では?」

「本当に覚えてないんですよ……」


「あはははは冗談です」

「勘弁して……」


 マジで困った顔してるのが可愛くて、ついついからかってしまう。


 なんかこう……年下みたいな気がしないでもない。


「男はみんな17歳で精神年齢が止まってますからね」

「じゃあ私の方が年上だ」


 するとおじさんは、


「そうかもしれないね」


 と優しく微笑んだ。


 たぶん奥さんのことを思い出してるんだろうなーと、凛音は少しだけ切なくなるのだった。



「こんりんね! 皆に元気と拳を届ける魔道士ライバー、紅威くれない凛音りんねです! 今日も張り切ってダンジョン攻略してくよ~!!」


 元気いっぱいに拳を突き上げた。


「りんね~?」

『てんさ~い!』

『てんさ~い!』

『てんさ~い!』

『てんさ~い!』

『てんさ~い!』

『てんさ~い!』


 とんでもない数のコメントが滝のように流れていく。


「みんな、ありがとー!」


 リリィ・アッシュウィーザが覚醒した記憶は封印された。


 レベルは50まで落ちていたし、魔術もぜんぜん使えなくなっていた。


 だが、記憶は隠されても、影響は残る。


 ダンジョンの最奥を目指すという目的は変わらない。


 夢を見た。『最奥まで行けば、もう一度(・・・・)あのひとに会える』と。


 しかし、もうそれは関係ない。


 会いたい人にはもう、出会えたから。


――私は、あの時より強くなるために、ダンジョンの最奥を目指す。


 今はただ、自分のために。


 あの時の――よく覚えていない自分リリィ


 リリィ・アッシュウィーザに負けないくらいに。


 前世を乗り越える戦いに、挑んでいる。



『てんさ~い!』


 と、自分のアカウントで弟子にコメントを打つと、おじさんはチューバーイーツアプリを立ち上げた。


 リリィ覚醒の記憶は封印されたが、影響は残る。


 おじさんは、これまであった『やけっぱちの死に急ぎ』みたいな行動が減った。


 ダンジョン最奥を目指す弟子のために、より一層、コーチングに励む。


 おじさんの魔素マナ中毒もなぜかすっかり治って、今まで通り3分程度ならダンジョンへ潜れるようになった。以前よりも負担が軽くなっている。


 アドは何か知っている素振りだが、おじさんは聞かなかった。本人(飛竜)が喋りたくなったら喋ればいいと思っている。


――ぴろりん♪


 アプリに案件が入った。ちょっと遠いが問題ない。受注する。


「よし! 今日も頑張ろう!」


 気合を入れてスクーターを走らせると、アドが嬉しそうにメーターを点滅させた。


『へへっ! 旦那ァ、最近、元気がいいですねェ』

「ああ、なんだか心が軽くなった気がするんだよ」


『そいつぁ何よりだ!』

「VTuberさんのおかげかなぁ。配信を見てると心が安らぐよねぇ」


『一概に違うと言えねェところが厄介だな。あの子がVだったから奥さんに会えたわけだし……』

「え、なんか言ったかい? 風の音で聞こえなかったけど?」


『スパチャはほどほどにって言ったんですよ!』

「ははは、わかってるって」


 どや顔で、


「最近はグッズを買うようにしたからね」

『それじゃ意味ねぇでしょうが!』


 おじさんは今日もスクーターを走らせる。


 次の配達へ向かうために。


 お腹が空いている誰かを助けるために。


『熱々の幸せを、今すぐお届け!』


 それがチューバーイーツの、そしておじさんの理念だから。




これにて終幕です。

ここまでのお付き合い、誠にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ