第14話 干渉
いざ魔法を披露する段になって、九条は内心で少し不安になっていた。
昨日ようやく体得した「根こそぎターフ捲り」(彼が今名付けた)は、かなり消耗が激しい割に、見た目のインパクトはそれほどでもない。
ならば……杖を使ってみるか?詠唱の触媒があれば、きっと効果も増幅されるはずだ。
準備を整え、九条は村人たちを連れて、森の前の開けた場所へとやってきた。
村人は、ほぼ総出だった。
実際のところ、九条の実力を確かめたいというよりは、星界の旅人、それも魔法使いなど滅多にお目にかかれないこの田舎で、珍しい見世物を一目見ようという野次馬根性の方が強かった。
そのため、広場は年に一度の祭りのような賑わいで、隣村から駆けつけてくる者までいる始末。たまたまフィズの街から来ていた商人も、人だかりの中に混じっていた。
九条は、杖を使った魔法の威力が全く読めなかったため、彼らに50メートル以上離れるよう指示した。
彼は声を張り上げて叫ぶ。「皆さん、ご声援痛み入ります!」――将来、絶対に拡声の魔法を覚えよう、と彼はこの時思った。
「念のため、皆さんにはもう一段階離れていただきました!それでは!我が魔法、とくとご覧あれ!」
群衆が静まり返るのを見計らい、九条は右手に持った杖を地面に向け、目を閉じて内なる魔力を感じ始めた。
三度目となる魔力の駆動(というより、引きずり出すという方が正しい)は、もはや手慣れたものだった。身体、右腕、そして杖が一体となり、見えざる斥力の中で、魔力が外へと引きずり出されていく。
土地が盛り上がる。あまりにもスムーズで、拍子抜けするほどだ。
「ならば――範囲を広げてみるか」
魔力は地面を覆うように拡散していくが、常に身体との繋がりは保たれている。そのせいで、体内に戻ろうとする魔力の斥力が、九条のスタミナを猛烈に消耗させていく。額には、玉のような汗が浮かんでいた。
魔法を操りながら、九条はふと、ひどく退屈な気分に襲われた。
黒豹と、その魔法。そして彼らが対峙したあの光景が、再び脳裏をよぎる。あの転移門は、最高にかっこよかった。特に、自分が裂け目に干渉した時の、あの虚無の星々に手が届くような感覚は……。
何かに憑かれたように、一つの考えが彼の心に浮かんだ。「もし俺が試してみたら――」
「!!!」
次の瞬間、木の杖の周囲が歪み、砕け始めた。杖に刻まれた紋様の間から、黒い魔法エネルギーが滲み出す。
世界が、突如として静寂に包まれた。杖の周りの空間が、割れたガラスのように折れ曲がり、砕け、どこか別の場所の景色を映し出す。
奇妙な気配と、途切れ途切れの音が、その砕けた空間を満たしていた。
九条本人は、まるで永遠にそこに根を張ったかのように動かない。もはやこの世界の肉体を持つ存在ではなく、その一部と化したかのようだった。
【警告:プレイヤーが多元宇宙への干渉を試みています……覚醒シーケンス起動】
傍から見れば、それはほんの一瞬の出来事だった。しかし九条には、時の流れが歪むような、言葉にできない異様な感覚があった。まるで、何百年もの時が流れたかのようだ。
馴染み深い、しかし強烈な、全てが引き剥がされるような感覚が身体の奥底から湧き上がってくる。自分の全てが、無限の星々へと変わってしまうような。
「まずい!」
システムの警告が表示されると同時に、九条ははっと我に返った。彼は即座に杖を手放し、振り返って走り出した。
「逃げろ!!!」九条は、必死の形相で群衆に向かって手を振り、叫んだ。
その声が終わらないうちに、宙に浮いた木の杖の先端に、小さな黒い点が現れた。
木の杖、土、木の葉、空気。周囲のあらゆる物質が、狂ったようにその点へと吸い込まれていく!空気は一点に収束し、気流はみるみるうちに激しさを増し、半径数キロの範囲が、まるで嵐に巻き込まれたかのようになった。
風が轟々と鳴り、森が震え、群衆はパニックに陥り、黒い点から遠ざかろうと蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
九条が「空間魔法」(?)を放った!?
なぜか黒豹のそれとは様子が違いましたね...
もはや魔獣討伐なんか、少し物足りなく感じてきたのではないでしょうか?
九条の成長の物語を、どうかこれからも見守ってください。ブックマークやご感想など、皆様からのフィードバックを心よりお待ちしております!




