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第一話

 ハレル・フェミリスは、剣を構えてゴブリンの群れを追いかける。街の近くで暴れるそれらを、警備隊の人間たちと一緒に退治しに来たのだ。


「ハレル! そっちに行ったぞ!」


 一人の兵士に言われて、剣を振り上げる。見事な軌跡を描いて緑の魔物を真っ二つに斬った。


「やるなぁ!」


 肩を叩かれて、「へへ」と笑う。


「剣の腕では、この街ではもうオレが一番かもな」

「お、この野郎。ハレルのくせに生意気だぞ!」


 頭をしわくちゃにされながら、彼は笑った。


 やはり最高だ。剣を自由に振るえて活躍できるのは自分の居場所だと思う。明日一八の成人式を終えたら、街を出て冒険者になろう。


 そう思っていた──


「──は?」


 その日もいつものように起きた。やけにパジャマがダボつくなとか視線が低いなとか思いながらも、寝惚けてるのかなと思いながら洗面所に向かった。

 しかし、鏡を見て眠気は一気に冷めてしまった。


 鏡に映っていたのは、オレンジ髪の少女。肩まで届く柔らかい髪質をしている。青色の瞳は丸っこくて大きい。鼻は小さく唇は柔らかそうで艶がある。所謂、可愛い系と言われる女の子だ。


 肌は白くきめ細やかで、触ればもちもちしていそうだ。

 体のラインはダボついたパジャマを着ているせいで分かりづらいが、全体的に細身なのは分かる。

 背丈は街の娘の平均に比べると頭一回りほど小さい。その代わり、胸は少し大きめである。所謂栄養がすべて胸に行ったと言われる体形をしていた。


 これほどの美少女は中々お目にかかれない。それなのに今、鏡の中でこちらを見つめている。

 それが意味することは……──


「はぁぁぁぁぁあ!?」


 やけに高い自分の声が家中に響き渡った。



※※※※※※※※※※



「なんでこんなことに……」


 馬車で揺られながら、ハレル──ハルは肩を落とす。

 あれから母に説明を求めると、フェミリス家は女神の祝福によって成人すると男子は女子に変わってしまうらしい。代々女性家系と聞いていたが、このような裏話があったとは知らなかった。

 教えなかったのは、自暴自棄になるからだそうだ。今まさにそうなりそうだよと、大きくため息をつく。


 ちなみに母も元は男だそうだ。その事実を聞いて、二回は吐いた。


「まぁまぁハレル、慣れちゃえば大丈夫ブフッ」


 向かいに座る幼馴染のロミアがわざとらしく笑っている。


「笑うな見せもんじゃない!」

「だってあのハレルがこんなに可愛くなって──あっはっは! もーむり、腹痛い!」

「……笑ってろ」


 ボブの黒髪を振り乱し、細い足をバタつかせて彼女は笑っている。ハルが女になってから会うたびにずっとこんな感じだ。

 前は少し距離があったように感じるが、今はもうその感覚は消え去っている。


「まぁまぁハレル──じゃなくてハル。しっかり似合ってるから良いじゃん? 良かったね女物の軽装備があって」


 彼女はニヤつきながら肩に手を回してくる。緑色の人懐っこい目でこちらを見つめる。

 黙ってれば可愛いとは彼女のためにある言葉だろう。


「良くねぇよ。あのババアずっと黙ってたくせにこっそり用意しやがって」

「そりゃ、あんた一八になったら女になりますよ。なんて言えないし、信じないでしょ?」

「それは……そうだけど」


 ムスッとするハルに向かって、彼女はジロジロと見つめる。


「なんだよ?」

「いや、中々立派なものをお持ちと思って」


 彼女の目が胸に行っていることに気がついて、慌てて胸を隠しながら距離を取った。


「お、その反応最高に女の子」

「セクハラオヤジか! お前は!」

「ふふふ、世の中の女の子はオヤジ化するんですよ」


 わけのわからないことを言われて、肩を落とす。大きくため息をついたハルの表情は諦めが混ざっていた。


「で、結局のところはどうなの? お風呂とか色々観察したりするの?」

「……しねぇよ。自分の体だぞ?」

「トイレとかちょっと意識したりするでしょ?」


 言われ顔を真っ赤にする。


「図星だ」

「ちがっ──」

「ま、大変なときは相談してよ。月に一度は女の子の先輩として相談に乗ってあげるからさ」

「なんだその具体的な数字……?」

「やだー、女の子の口から言わせようとするなんてハルのエッチ」


 彼女の言いぶりから想像して、思い当たって、頭から湯気を飛ばした。

 恥ずかしさから体温の上がっている顔を抑え、大きくうつむく。


「あっはっは! ハルって意外とピュアなんだね?」

「……うっせ」


 茶化されて、何も言い返せなくなった。

 そんな中でも馬車は進んでいく。行先は首都──グリフォリア。いくつもの学園が集まり、研鑽を積むために若者たちが集結する。

 ハルとロミアはその中の一つに入学して、魔術を学ぶことになっている。


 当然、進路先が決められていたことに異議を唱えたが、ハルの言葉は通ることはなかった。

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