第9話 知識は高級品
今回も説明的な話が続きます。
いつも通り起床。天気はやや曇りか。そういやこちらに来てからまだ雨を見ていない。
比較的雨の少ない地域かもな。無論晴れてる方がいい。
朝食後、宿のオヤジに本について聞いてみる。商業区に本屋があるらしい。
ギルドで聞いた方が確実だ、ってことで素直に従う。
今日の受付は猫耳が可愛いお姉さんだ。キュート系。
並んでる野郎冒険者の顔もだらしない。
てか女性冒険者見たことないんだけどどうなってるんだか。
まあいい。いつものことだ。列に並んで順番を待つ。
こっそり遠見で掲示板確認するが今日は依頼が少ないな。
と、順番がきた。どもりつつ訊ねると皇都なら図書館はあるがここにはないらしい。
本屋はある。魔術ギルドのある商業区。入り組んだ場所にあるので注意とのこと。
一応道順は教えてもらったが近くのなんたら商会で聞くように言われた。
まあ方向感覚あるし大丈夫だろ。
なんて思ってた時期がぼくにも(略
このネタ2か3回目だけど使いたくて使いたいわけじゃないからな!
商業区。といっても冒険者ギルドの斜め向かいの魔術ギルドから商業区だ。
大きな通りに沿うのは簡単だが小さな路地に入った途端道に迷ってしまった。
方向感覚で帰る方向はわかるものの目的地が判らない。
途方にくれていると小太り……もとい、恰幅の良い男性が話しかけてきた。
目的地を話すとウラジルさんと名乗った彼は商人で近くまで用事があるとのこと。
親切にも本屋まで連れて行ってくれた。
なんていい人なんだ……!異世界で感じた温かさに思わず泣きそうになった。
名前を教えて全力でお礼を述べておいた。見よ、バイトで培った45度のお辞儀を!
困ったように笑って構いませんよと言ってくださる。
どこかの魔神にもこの謙虚さを見習ってもらいたいね、まったく。
縁があればまた会えるでしょう、と言い残して彼は立ち去った。
ぶんぶん手を振って見送ったのは言うまでもない。
生産チートになった暁には絶対お礼をしよう。嬉しい目標が増えたな。
ということで、ウラジルさんのおかげで無事本屋に到着。
看板が見当たらず、中をのぞいたら本が並んでる?程度。
こりゃ教えてもらわないとわからんだろ。相変わらずバカだな俺。
たのもーと意気込んで扉を開く。奥で爺さんがこちらを睨んできた。
未来の大魔道士にむかってその態度はイカンぞ爺さん。
火と氷をあわせた極大呪文を俺はここで覚えるのだ……!
なんてカッコつけたら扉を閉められそうになった。けふ。
いつの間に移動しやがったこのジジイ。俺は客だよ客!
「ふん、冷やかしは帰れ」
ちょっと怖かったので頭を下げて中に入った。
このジジイ、絶対チンピラ系だよ。一般人の俺じゃ敵いそうにない。
「あ、あの、本読みたいのですけど初めてなので……」
声を絞り出して説明すると、じっと睨まれた。
そのうちに納得したのか超適当な説明が始まる。
ここでは本の売却に購入、立ち読み、写しができるらしい。
全てにお金が必要。タダ読みはつまみ出すという。
本の値段聞くとやたら高い。最低でも500Yとか。
この世界に紙の大量生産はないらしい。
一般的に本屋は知りたい内容を伝えて紹介してもらうのが通例とか。
立ち読み1時間で10Yから。手持ちは65Y。苦しいな、オイ。
写す場合1時間に50Y以上だとか。メモも写しに含まれそうだなこれ。
コピー魔法が欲しくなる。複製できたらボロ儲けじゃね?
とりあえず立ち読みからだな、初級魔術の本なら1時間20Yだとか。
ひとまず20Y払って1時間。本の名は『図解式で超速理解する初級魔術』。
……タイトルに商売気こめすぎだろ。
1時間でわかったこと。
1.魔法の発動について
魔法には詠唱が不可欠。魔力が足りない場合や複雑な魔法は魔方陣で補う。
手で印を結ぶものもあるらしい。変わったところでは歌と舞で魔法を発動させるものも。
要は魔力をこめた何かで意味のある図なり言葉を完成させることで魔法が発動する。
なぜ発動するかについては中級を見てくれとのこと。むむ、商売上手。
2.魔法の属性について
魔法の属性は一般的に火水風土、そして限られた素質を持つ者だけが仕える光と闇。
この6属性がほとんど。ただしこれらに属さない魔法を使う精霊がいるため、正確なところは不明。
魔神が適当に創ったせいに違いない。ゲームやラノベのごった煮になってそう。
神様とそれを信じる神官達の使う魔法は神聖魔法と呼ばれる。詳しくは神聖魔法編。
えらい3人の神様が司るものに天・地・海という属性があるので伝説の魔法として存在するのではないかという雑談が載ってた。
後でスキル獲得できるか調べることに。魔属性とかもありそうだ。…亀はないよな、まさか。
3.魔法の習得について
魔法を習得するのはギルドで対価を支払い教えてもらうか、師に教えてもらうか。
一般的に魔法使いに弟子入りして覚えていくものが多い。
大きな都市では魔法使い養成のための学校もある。オススメらしい。
なお皇都の魔法学院は大陸随一。出身者はエリートとなる。
稀に独学で習得する者がいるが極めて例外的。
強力な魔法を一足飛びに覚えることは難しく段階的に覚える。
精霊魔法への適正があるものは滅多にいない。
火:発火・火球・炎壁 水:放水・水球・水膜 風:送風・風刃・風膜
土:穴掘・飛石・土壁 光:照明・光球・光膜 闇:暗闇・闇壁・失恋
……ゴシゴシ。おかしいな、見間違いかな。今明らかにヘンな魔法が。
――――マジかよ。闇属性ヤベぇ。
他は概ね法則的であった。闇属性への耐性を上げるには、と意識が飛びそうになったのはヒミツ。
闇の衝撃に呆けてたら時間だと言われた。20Y追加で延長する。
なんというトラップ。
これ読んで闇属性に挑戦する初心者も多かったのではないか。
それを見越して闇属性本とか売ってそうだな。
と思ったら案の定宣伝が。あこぎな連中だぜ。
習得についてはまた後で考えよう。
光で恋愛魔法覚えるかが一番気になったなんて言えねぇ。
延長で判ったことはこんな感じ。
4.複数属性について
複数の属性をもつことは割合簡単。ただし使いこなすことは非常に難しい。
殆どの魔法使いが初級の壁を越えられず単属性頼りで終わる。
才能あるものは複数属性を使い分け、組み合わせることで真似のできない魔法を使うという。
生活に使う分くらいは覚えられるけど、戦闘で使いこなそうと思ったら難しいってことか。
5.魔法の修練について
魔法は何度も使い感覚を養うことで効果に幅をもたせることができる。
火の初歩発火にしても、極めれば家を包むほどの炎となる。
必要なのは集中力。詳しい話は中級にて。執筆者はゲイル・グレズリー。
…お?集中、という単語が初めて出てきた。魔法の効果に影響する?後で実験だ。
6.精霊について
ご存知の通り、この世界は精霊と深い関わりをもつ。
魔法に関してなら精霊に頼むことでより特殊で強力な魔法を使うことができる。
これを精霊魔法と呼ぶ。ただし各属性の魔法を使える才能と精霊魔法の才能は全く別。
名も無き子供が突然精霊を召喚した話、偉大な魔法使いが全く精霊に関われない事などが報告されている。
詳しくは友人のアブルード・ライコーンが記した「精霊魔法の謎」で明らかになるだろう。
商売しすぎだろコイツ。さてはこの立ち読み方式とグルになってるな。
と、つっこんだところで延長時間も終わった。
気になる話はあるが今知るべきことが大体判ったのでいいや。金もないし。
普通の魔法使いはこれだけじゃ何にもならないだろうけどな。チート万歳。
あれだけ読んでまだ本の半分くらいなのは気になったが。
残りは何が書いてあるのだろう。魔法学校の宣伝とかじゃないだろな。
まだ読みたいが手持ちは25Y。アナビット資産はあるがキツい。
貧乏オーラを感じ取ったかジジイから目で追い払われた。
こそこそと外に出る。貧乏は悲しいものだ。
本の複製できるようになったら覚えてろよ、ちくしょう。
このまま狩りにいってもいいが、情報を整理したいので一旦宿へ。
ステータス画面で確認したり検索したりで得た情報でこうなった。
・予想通り無詠唱はまずい ・法の舞、呪歌、陰陽術、符術、巫術などのスキルを発見
・属性も天/地/海/魔まであった。それこそ思いつくだけありそう。亀はなくて一安心。
・恐らく精霊の存在する限り属性が存在する。万物は属性、ということか。
・一方で精霊魔法なるスキルは存在しなかった
・精霊契約、で検索したらヒット。精霊契約(弱)~(特)まである。それぞれ5・10・20・50必要。
なんだか随分情報がそろったな。地球の東洋系の魔法が存在すると判ったのも嬉しい。
同時にかなりのヒントになる気がする。舞や歌を得意とする人って、魔力や精神高いタイプじゃないよな。
これ、恐らく精霊魔法の一種なんじゃないだろうか。
精霊魔法はスキルとして存在しないのだけど、精霊に歌や踊りでお願いして魔法使う、みたいな。
想像ではこの世界、あらゆるものに精霊が宿っていて。
魔法使うときもこっそり精霊の力借りるなり使ったりしてんじゃないのと。
精霊魔法というスキルが存在しないのは「全ての魔法で精霊が関係しているから」という予想。
で、歌や踊りはお願いしやすいとか。当然魔力や精神力じゃないステータス依存になる。
それだと子供が精霊召喚する理由にもなるしな。
そのステはというと、魅力じゃなかろうか。
歌や踊りの上手い人なら魅力高いのも頷ける。
ま、あくまでカンだけどな。魔神が死にステ創らないとしたら、というメタ視点。
魅力が精霊との契約で必須条件、その精霊が世界に溢れてるなら魅力の存在は重要になるからな。
存在しないが精霊魔法の習得条件とも言える。
魅力じゃなく集中とか知力かもしれないけど、それだと魔法使いも高そうな気が。
うん、こういう妄想って楽しいよな。
数学も物理もあんま好きじゃなかったが、自分だけが発見したような気になる瞬間は好きだった。
この解き方誰も知らないんじゃね?という。もちろん遥か昔に発見されていたりするわけだけど。
それでも同様の情報で偉大な学者たちと同じ解き方に辿り着くと、肩を並べた気がして嬉しかった。
英雄にはなれないけど一瞬だけなら一般人だっていけるんだぜ的なノリだ。
友人に話したら大笑いされたけどな。ええい、こうずくいずくんやえんじゃくの志を知らん。だっけ。
三国志や項羽と劉邦は好きだけど漢文は得意じゃなかったからうろ覚え。
春秋戦国時代の本いつか読もうとして、とうとうできなかったなぁ。
…話が逸れた。
死にステっぽい集中が魔法の威力か制御に関係しそうだし、魅力も精霊関係で重要そうな気配。
こうなると知力も何かに関わってるよな。一般的な魔法の習得条件か?
器用は間違いなく生産、特に鍛冶系に関わってるはず。いつかガッツリ振る予定。
命中補正もありそうだが今のスタイルだとあんまいらないんだよな。
まあレベルあげれば全て解決。早くあげてステに存分に振りたいところだ。
『ポッポー』
おっと、もう2時か。屋台で適当に腹膨らませて狩りにいくとしよう。
目指せLV10。俺のモテモテ坂ははじまったばかりなのだから……!
もちろん、終わらずに続くのだけど。
イチャイチャするまで完になってたまるかってんだ。
意地になって外でアナビット10匹、アナクイ3匹を狩りギルドで換金し宿に戻った。
ホーミ草探す暇はない。今日はお金がないので10匹分換金してみる。
特に注目も浴びなかった、よかった。
ちなみに受付の人はややキツそうな美人さん。もちろん噛みまくり。
夕食楽しみながらさて本日の経験は、と。
360でレベルアップか、いい感じ。
気配探知のレベルを上げ後は知力と集中に3ずつ振ってみた。
明日の戦闘が楽しみだ。その前に目立たないところで訓練だな。
今日もお休み、異世界。
+++++ ステータス ++++++
名前:アツシ・チェスター
性別:男 種族:人間 年齢:17歳
レベル:3 NEXT:230/500
職業:当たり屋LV1
控え職業:斥候LV1
HP:131/131→134
MP:55/54→63
装備: 武器/ナイフ 防具/皮の鎧 装飾:皮のベルト
筋力:15
敏捷:40
器用:15
魔力:17→18
精神:17→18
頑丈:30
知力:15→30
集中:15→30
魅力:16
幸運:25
所持金:205Y
ポイント:0
所持スキル:気配探知LV4→5 遠見LV2 方向感覚LV1 格闘LV1 治癒魔法LV1 火魔法LV2 水魔法LV1 かばうLV1 ツッコミLV5
所持魔法:ヒール(2) ファイア(1) ファイアボール(6) ウォータ(1) ウォーターボール(3)
特殊能力:LVUP必要経験値固定(3ケタ) 獲得スキルポイント上昇(大) 上限撤廃 病気無効 自動翻訳 ステータス偽装
アイテムボックス:アナビットの皮×20 アナビットの肉×20 ホーミ草×2 ドーク草×3 生活雑貨一式
メド○ーアはロマンだと叫んでおきます。ご感想ありがとうございました。
(10/12 11:00 本の売却→本の売却に購入)