第10話 妄想も程々に
おはよう諸君。
今日は戦闘が楽しみなせいかいつもより早く起きてしまった。
俺のカンでは朝5時、ってところだな。
早起きは三文の得と言うし、今日こそいいことがある予感。
「うぅ……おはヨウございマスー」
「おう、おはよう」
……ん?
なんだかベッドが狭い。心なしか隣が温かい――
「ってうきょひやぁォゥ?!!」
なんでお前がいるんだ!!
俺の隣に魔神があろうことか寝転がってやがった。
ヘンな声でちまったじゃねぇか!
「もー、うるさいデスネ。私朝は弱いンデスカラ」
「そういう問題じゃねぇ!何してやがるっ!」
悔しいことにこんなんでも見た目は女。免疫皆無の俺は心臓がドックンバックンである。
魔神の格好がこれまたラフな感じで。ノースリブというかキャミソールって言うんだっけ。
それにうすーいスカート。ごくり。う、うん、いかん。
こいつは女じゃない魔神だ、魔神だ……
「ンート。出番稼ギ?」
首を傾げて俺に聞くんじゃねぇ。見た目だけはいいから騙されそうになるだろうが。
「そ、それはいいから何か着ろ!俺を惑わすんじゃねぇっ!」
「んふふー照れチャッテモウ。昨日あんなに熱いベーゼ騙りあった仲ナノニィ」
「どこから引っ張ってきたその台詞っ」
べちっ。枕を顔に叩き込んでやった。ついに念願かなってこいつにツッコミいれたぞ……!
うん、俺の調子もようやく戻ってきたな。煩悩退散。
「うう、お代官様のお情けチョーダイしようと思いまシタのにィ」
おかしい、いつもならあっさり引き下がるのに妙にしつこいな。
おかげでいつものボケっぷりと若干違う。気がする。
「……何企んでやがる」
「チョーット匂いヲ――じゃなくってデスネ。こう、ヒロイン候補に名乗りをデスネ」
「それよりいい加減ルートを戻しやがれ!……って匂い?」
今なんか誤魔化したよな。匂い?俺の匂いに何か効能あったっけ。
いや、あればとっくにモテてるよな。ここは白状させねば。
「いいじゃナイデスカー。とっとと戦闘にいきやがれってんデスヨコンチクショー」
こいつ天然でボケる時は強いけど逃げのボケは下手だな。
そんなボケで俺を誤魔化せると思うなよ……!
「ほっほう。ツンデレヒロインを目指すと申したか。それでは可愛がってやろうではないか、ふふふ」
そう言ってずいずいっと顔を近づける。心臓どっくんばっくんだが顔に出したら負けだ。
なんかいい匂いが……くっ、煩悩退散煩悩退散ッ。
「ヒィ、お、お代官様がご乱心でゴザル、悪代官様にクラスチェンジしたでゴザルー!」
慌てふためいて転がってやがる。ござる口調だったのかよお前。
のがさじとがっしり腕を掴んでやった。戦闘力53万くらいありそうだけどな。
掌に伝わる柔らかい感触についてはノーコメントだ。
「クックック。あーれーの刑にされたくなければ白状するのじゃ。お主、匂いを使って何をするつもりじゃっ」
直接戦闘したら勝てるわけないのでノリで押し通す。
妄想力100万パワーを見せてくれよう!
「うう、今この格好デくるくるあーれーしチャウと風情が全くナイのデス……」
そういう問題かよ!
「ふっふっふ。素直に白状すればほれ、着物ばーじょんでつきあってやらんでもないぞ?うん?」
「お代官様は弱みヲ握るのがお上手ナノデス……デキレバ湯浴み途中でザッバーンの刑もデスネ」
こやつ、粘りおる。水属性魔法LV100のザッバーンとかないだろうなそれ。
「……身の安全が保障されるならつきあってやらんでもないのう、うむ」
実はリヴァイ○サンのだいかいしょうでしたとか笑うに笑えんからな。
個人的にはメガフレアより苦戦したぞ。俺の年齢?19歳だよ文句あっか。
わからない人は終わりの幻想3ってゲームをやってみるといい。光の戦士なんたらってやつ。
「おうけい、交渉成立なのデス。実はデスネ、匂いが必要なのハ……」
「うむ、必要なのは……?」
すす、と身体を寄せる。
なんだかいい匂いしたり視界の隅にぷるんとしたものが目に入るが気にしていない。
推定E、だなんて思ったりはしていない。煩悩退散マジ退散。
「……説明面倒なのデス。百聞は一見に如かズなのデス、そーれー♪」
「え?って、ちょ、ま、待てやコラァァァァァ」
煩悩と戦っていたらいきなり足元が黒く光ったぞ?!
見覚えがある。最初ここへ連れてこられた……
って、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ―――
で、気付いたら森の中でした。
どんだけ非常識なんだあいつ。
俺も迂闊だったな……このパターンは予測できたはずなのに……
あの谷間がいけないんや。くっ、無駄に立派なもの持ちやがって。
とりあえず状況確認。川が見える。案外出口近いかもな。
小屋の近くじゃなさそうだが。気配探知にひっかかるものはない。
あと俺の荷物は……よし、全部アイテムボックスにつっこんであった。
面倒だから放り込んだな絶対。
気付いただけマシとするか……
皮の鎧を着こんでナイフを腰に差した。
水筒の水も補充しておこう。
ちなみに肝心のあやつは姿が見えない。
俺の探知にかからない可能性も大なので待つしかないな。
森の中じゃ遠見も大して意味が無いし。
不意をつかれないよう川に近づき茂みから距離を置きつつ。
暇だし魔法の練習でもするか?
と、思案していたら近づく気配がひっかかる。川とは逆の森から。
うん?昨日まではなんか、いるって感覚だけだったのだけど。
今日は色のイメージまでついてきてるな。近づいてるのは緑。
LVあげた効果かもな。一般的なMMOだと味方青、敵赤、中立緑か黄ってところ。
敵かもしれないけど中立ぽい。一応警戒しつつ待つ。
やがて茂みがガサゴソと動くと、現れたのは―――
「わう!」
忘れもしない、あの子狼だった。
◆ ◆ ◆
子狼が俺の顔を嘗め回している。
現れたと思ったら突進してきてとびかかられた。
うん、一瞬覚えてなくて殺されるかと思ったな。
意外に力強くて押し倒されて、今は一方的にやられている。
くっ、俺だってもふもふし返してやるんだから。
俺の顔が液体でべちゃべちゃなのは涎か、それとも涙か。
力いっぱい抱きしめると大人しくなり、黙って撫でられてくれる。
狼の知識はゼロだけど毛並みもいいし健康に過ごせてたようだ。
見捨てた俺、あんな別れ方した俺だけどこんなに懐いてくれるなんて。
本当にごめんな。無事でよかった。
心の中で謝りながら撫で続けていると、横に気配を感じた。
視線だけ動かすと魔神が見える。
着替えたらしくジーンズにTシャツというラフすぎる格好だ。
スカートじゃないのか、チッ。……なんて思ったりしてませんから。
カツカツし過ぎなのはよくないな、うん。
「じーっ」
いやいや、じーっというのは様態を表す言葉で声にだすもんじゃないぞ。
「ズルいのデス。ワタシ、そんな懐かれたことないのデス。いつも逃げられマス」
んなこと言われたって俺もびっくりしてんだよ。
「……人徳の差じゃね?」
「おかしいデス。ワタシが助けて世話もしてたノニー、ズールーイー」
そうか、あの後保護してくれてたのか。
そりゃ安全だよな。竜も裸足で逃げ出すに違いない。
なんて思ってるうちに怨念の篭った声になってきた。
創造神の呪いってか。……全力でお断りしないと死ねるな。
「ま、まてまて。落ち着こうワトソン君。俺の隣にくればいいのだよ、うむ」
俺のキャラが行方不明だが気にしない。
この子をダシにして対象をそらそう。
だから魔神の呪い、なんて極悪BADステ付加はやめてね?
「おおう、そういうテがありまシタ。では早速お邪魔なのデス♪」
なんて言うとおっそろしい速度で俺の隣に寝転んできた。
俺が眼球動かすより早く横に寝ているって、物理法則どこいった。
創造神パワーこんなところで濫用すんじゃねぇよ……
でもこの子助けてくれたんだしな。そこは本当に感謝。
お礼にしちゃ安すぎるがサービスしてもよかろう。
俺の腕の中の子を隣にちょっとだけ移動させる。
「あんま強く抱きしめると逃げられるからな。俺に任せろ」
こくこくと頷く魔神。いつもこうならヒロイン候補にいれてやるのに。
こちらにかかる子狼の重心をちょいちょいずらす。
子狼は耳がピクリとしたものの、俺の両腕が効いてるのか大人しくしている。
いい子だからそのままじーっとしててくれよ。
恩人に違いないしな。俺の命のためとも言うが。
「よし、今だ。そーっと撫でてみろ、そーっと」
体重が3分の1ほど魔神にかかったところで撫での指示。
視界が遮られる中おそるおそる手を伸ばしているのが見える。
「オオッ、いけマシター!」
「大声だすなっての」
子狼がぴくぴくって動くが、腕の力をちょっと強くしてやると静かになった。
俺のこと本当に信頼してくれてるんだな……嬉しさと罪悪感がせめぎあう。
「うう、スミマセン……ほんと、ふさふさでもふもふデスネェ♪」
子狼並に素直な魔神に俺は感動していた。
本当に嬉しいのか満面の笑顔で腕を動かしている。
なにこれ、別の生き物だろ?
と、ここではたと気付いた。
俺は子狼の下に腕を潜らせて魔神に1/3預けている形なのだが……
この腕の、やわらかーい感触。こ、これって、もしかして―――
ぶふっ
俺の妄想ゲージが限界突破してしまったようだ。
鼻から溢れだす温かいモノ。うーん、女免疫ゼロだとこういう体質になるんだな。
病気無効なのに治らないとはこれいかに。
マンガや小説で見て馬鹿にしてたが土下座しよう。すまんかった。
「わん?」
突然鼻血を噴出した俺に気付いて子狼がもがきだした。
おおう、そんな暴れると抱えきれんぞ。
隣を見ると魔神がいやーんとかクネクネしている。
見れば子狼の脚が俺の手ごとあんなところやそんなところに
ぶふふっ
はい、鼻血の追加オーダー入りました。
真っ赤なブ○ダインとでも名づけようか。
俺は脳内、いや魂に先の光景を刻みつつ意識を手放すのであった。
出血多量ってこんな感じか……――
教訓:妄想で人は死ねるらしい
前の投稿から随分と空いてしまいました。
にも関わらずその間にお気に入り登録してくださった方がいらっしゃいます。有難う御座いました。
以前活動報告で書いた問題が解決したわけではありませんが、この話については大丈夫と判断して投稿します。
なおあの子狼が生きていたことは開始からの予定通りです。鬱展開苦手なんですよね。
この止まっていた数週間、他の方の作品を読んでは自らの力量の無さに落ち込むといったことも繰り返してました。文章を書くのって
本当に難しいですね。もっと意識して本を読んでいれば、と悔やむばかりです。




